短編2
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北の国で一目惚れ

これは、私が高校時代の話。

修学旅行で、北海道へ行った。

三泊四日かけての、とても思い出深い旅行だった。

二日目の夜、泊まっていたホテルの一室での事。

同じ部屋の男四人で集まり、恋愛話で盛り上がっていた。

その中の一人、友人Aの話になった。

「お前って、恋愛絡みの話とか全然聞かないけど、好きな子とかいないの?」

一人が、Aに聞く。

Aは「うーん…」と唸ってばかりだ。

全く、いないらしい。

何だつまらないな、と話題を移そうとした時だった。

Aが口を開いた。

「そういえば、昼間にみんな集まって食事してた時……」

学年全員集まり、広い食堂で昼食をとっていた時。

Aは、今まで見たことのない女の子が一人いるのを見たのだという。

髪は短めで、肌は美白でスラリとしていて、とても美人だったと。

「俺は他のクラスの子とかあまり知らないんだけど、お前らは誰だか分かる?」

私も他の二人も揃って「分からない」と首を振った。

そんな子は今まで聞いた事もなかった。

かといって、その食堂で昼食をとっていたのは学校の人間以外にはいなかった。

「そんな子は知らないけど…でも本当なら、明日の朝食の時にも見れるだろう」

私がそう言うと、他の三人も頷いていた。

しかし、次の日の朝食の時にその子はどこにも居なかった。

「見間違えたんじゃないか?」

私は言ったが、「そんな筈はない」とAは頑なに言い張る。

「でも、実際そんな子いなかったし……」

結局、話はつかぬまま修学旅行は着々と進行していった…

それは、最終日の朝食の時だった。

「居たぞ、あの子だ…!」

席の後ろから、私の肩を叩いてAが小声で囁いてきた。

Aが指を差す方向を見ると、確かにその女の子は居た。

本当だったのか…と私は正直驚いた。

Aは黙ってその子を見ていたが、結局何もできず朝食は終わった。

「しかし、ホント美人だったよな」

Aは目を輝かせていた。

「修学旅行が終わったら、あの子に近づいてみようかな」

嬉しそうに、そんな事も言っていた。

楽しかった修学旅行もあっという間に終わり、いつも通りの学校生活へ。

あの後どうなったのかとAに聞いてみると、浮かない顔をしていた。

他のクラスの生徒・担任…

一通りあたってみても、そんな子は学校のどこにもいないのだという。

なんとなく感づいてはいたのだが、私にはAの肩をポンと叩いてなぐさめてやる他なかった。

「生まれて初めての、一目惚れだったのにな…」

実に不思議な体験として、Aの儚い恋は散って消えた…

旅行の時に見た美しい女の子の正体は、未だに分からない。

怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん  

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