短編2
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駄菓子屋とビー玉

小さい頃、私の家の近くに古い駄菓子屋があった。

菓子や遊びの好きな子供だった私は、よく足を運んでいた。

たくさんの種類の駄菓子が並び、店の奥のほうにはいつから置いてあるのか分からないような古いプラモデルや玩具の箱が積まれている。

小さい子供の目には、それは楽しさであふれた夢のおもちゃ箱のように見えていただろう。

駄菓子屋を営んでいるのは小さなお婆ちゃんで、駄菓子を買うとよく一個か二個おまけしてくれた。

しかし小学校高学年あたりになるとあまり行かなくなり、中学に上がる頃には駄菓子屋の事もすっかり忘れかけていたのだった。

そしてあれは、中学三年生の頃だったろうか。

ふとその駄菓子屋の事を思い出し、行ってみたくなった。

さっそく休日の昼に久々に訪ねてみた。

駄菓子屋の中は小さい頃と何ら変わっておらず、とても懐かしかった。

昔よく買った駄菓子をいくつか買うと、駄菓子屋のお婆ちゃんは私を覚えてくれていたらしい。

久々に来てくれて、とても嬉しそうな顔をしていた。

家に帰り、駄菓子を入れた紙袋をあけた。

すると、買った駄菓子の他に一つ不思議な物が紛れているのに気づいた。

透明でとても綺麗な、ビー玉だった。

(おまけしてくれたのかな…?)

きっとそうだと思い、そのビー玉は机の引き出しにしまっておいた。

それから幾日も経たない、ある日の事。

知らせが入った。

駄菓子屋のお婆ちゃんが、亡くなられたそうだ。

駄菓子屋の奥の部屋のコタツで、静かに寂しく死んでいたという。

そして後継ぎもいなかったため、駄菓子屋は閉められる事になった。

もう二度と、あの懐かしさともお別れかと思うと無性に寂しく感じた。

その日の夜、眠っていると懐かしい夢を見た。

小さい頃のように、小銭を握りしめ駄菓子を買いに行く夢。

そこにはいつものように駄菓子屋のお婆ちゃんが優しい笑顔で待っている。

そして駄菓子屋を出ようとする時、後ろからお婆ちゃんの声が聞こえた。

「これからも元気でな…」

目が覚めると、手には何故かあのビー玉が握られていた。

不思議な事に、ほんわかとした人肌のような温かさを手に感じた。

今でもあのビー玉を握ると懐かしさと温かさが蘇ってくるような気がし、机の引き出しの奥に大事にしまってある。

怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん  

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