中編6
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忌み火 2

■シリーズ1 2 3 4

忌み火1の続きです。

僕たちはグッタリしていたNを引きずりながら建物の外へ逃げました。

T「おいNしっかりしろ」

どんなに声をかけて揺さぶってもNは反応しません。

僕「どうしよう」

T「ひとまず俺ん家に連れて行こう」

そう言ったTの家は、神社のある山から1キロくらいの比較的近い場所にありました。

僕とTがNの両肩を支えながら、立ち上がった瞬間です。

ドン!

僕たち後ろから何かがぶつかってきました。体制を崩した僕たち3人は前方に転びました。

T「ってー!」

僕「あ!」

僕とTが振り向くと、そこには先ほど儀式に参加していた巫女がいました。

N「あああああああああ!」

それを見たNが突然絶叫し、巫女から逃げるように一人で走り出しました。

「禁忌破りじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

巫女が山中に響き渡るような大声をだしました。

その声を合図に僕とTもNの後を追うように逃げ出します。

僕「やばいやばいやばい!」

T「走れ走れ!」

僕たちは深夜の山林を転がり落ちるように逃げました。そしてNに追いつきました。

T「おいN待てって!」

N「あああああああああああぁぁぁぁぁ!」

僕たちが追いついても、Nは狂ったように叫びながら必死に逃げています。

僕「落ち着けって!一回とまれ!」

Nは僕とTが身体を掴んでも、それを振り払いひらすら走って逃げていました。

5分ほどNを追いかけた所で、Nは転倒しました。

僕とTがNの元に駆け寄り、落ち着かせようとしました。

T「大丈夫だって!振り切ったぞ!」

僕「いったいどうした!」

倒れた状態でNは上を見ながら叫びました。

N「ずっとついてきてるだろおおおおおおおお!」

ガサガサガサガサ!

ドン!

T・僕「わあああああああああああああああ!」

3人の巫女が木の上から降ってきました。

それを見た僕たち3人は、絶叫しながら再び走り出しました。

巫女達は四つん這いになりながら、信じられない速度で僕たちを追ってきます。

その姿はまるで大きな蜘蛛のようでした。

そして一瞬逃げ遅れたNの脚に、一人の巫女が噛み付きました。

N「ぎゃああああああああ!」

その声に僕とTが振り返りました。

四つん這いで追いかけてきたもう一人の巫女が、Nの上半身に飛びつき、顔に喰らいつきました。

Nは地面に倒れ、3人の巫女がNに群がり彼の身体にかじりついています。

N「たたたたすけ・・・・」

一瞬でした。巫女達はNの衣服を紙の様に引き裂き、Nを裸にしていきます。

肌が露出した部分に喰らいつき、Nの身体を食べ始めました。

N「ぎぃあああああああああああああ」

それを見ていた僕とTも悲鳴をあげました。

T・僕「うわあああああああああ」

僕たちの悲鳴を聞いた巫女の一人が食事を中断し、こちらを見ました。

T「にげろおおおおおおお!」

僕「あああああああああ!」

僕とTは恐怖のあまりNを見捨て、二人で逃げてしまいました。

どれくらい走ったんでしょうか、気がつくとTの家が視界にはいりました。

T「俺ん家が見えた!助かるぞ!」

僕「助かった!」

玄関からTの家に転がり込み、安心した瞬間にTの親父のゲンコツが飛んできました。

「こらあ!お前らなにしとった!」

僕とTは泣きながらTの親父と家族に全てを説明しました。

それを聞いたTの親父は真っ青な顔になり、T母は泣き崩れていました。

Tの親父は何かを思い出したかのように、玄関から出て行きました。

僕とTも後に続きます。

Tの親父は仁王立ちで、神社の山を見つめていました。

視線の先には、夥しい数の松明の火が見えます。神社の方からこちらに近づいている様でした。

Tの親父は「T!納屋からスコップ持ってこい!」とTに指示を出し、僕には「お前はすぐに家に行け!家族を起こしてすぐ村から出ろ!」と言いました。

僕は自分の家まで全力で走りました。

両親を起こして事情を説明すると、「バカヤロー!」と僕を一発だけ殴り、貴重品をかき集めて車で出発しました。

僕は車の中から、Tの家の方向を見ていました。

神社のある山ではなく、Tの家の辺りに炎の赤い光が見えます。

僕の父親が「おい」と母親に一言だけ合図すると、母親が僕の目を塞ぐように抱きしめてくれました。

母親の腕の中で、恐怖と後悔と罪悪感で震えながらずっと泣いていました。

後日、村から逃げ出した僕の家族は予定していた引越し先ではない場所にいました。

父親は「これからさきずっと、あの村の者から逃げ続けなければならない」と言っていました。

僕はあの事件の恐怖で、ずっと眠れていませんでした。

体重は10キロ落ち、食事ものどを通りませんでした。

瞼を閉じるとNが助けを求めている光景や、恐ろしい巫女達、儀式、そして棺桶から見えた「手」がフラッシュバックしていました。

そんな僕は見かねた父親が、「御祓いが必要だ」と大きな神社に連れて行ってくれました。

「神社」の存在がトラウマになっていた僕を待っていたのは、初めて見る荘厳で神聖な神社でした。

連絡を受けていた神主さんが僕を特別な個室に案内し、父親にカミソリを手渡しました。

父親「今からお前の毛を全部剃るからな」

僕は黙って頷きました。神主さんや父親の態度、案内された部屋から自分が危険な状況であることが分かりました。

剃り終わった僕の体毛を、神主さんが大きな白い紙に乗せ、その紙を人型に折り始めました。

その間、僕は白装束に着替えられさせ外で、水をかけられていました。

一通り終わり「後はよろしくお願いします」と父親が神主さんに頭を下げ、一人で帰りました。

それから数ヶ月、僕は神社で匿ってもらいました。その間に神主さんから聞いたお話です。

日本の神話で「国産み・神産み」という日本が作られたお話があります。

7代の神々の内、一番最後の仕上げをしたのが男の神「イザナギ」女の神「イザナミ」

二人の神は、日本国土を形づくる多数の子を儲けていった。「子」と言っても山や川、島々や海。

そして各神社に祭られている神々も、この二人の間に生まれた「子」でした。

しかし、「イザナミ」が火の神「カグツチ」を生む際に、陰部に火傷を負い亡くなってしまいます。

それに激怒した「イザナギ」は子であるカグツチを十拳剣で斬り殺してしまいました。

神主「恐らくは、このおぞましい出来事を再現した儀式でしょう。殺されたカグツチの死体からも沢山の神々が生まれています。そのひとつがあなたの村の神社で祀られていたんですよ」

神主「その神社の巫女も神主も、その女の子も既にこの世の者ではないでしょう。恐らく飢饉などがあった際、神社に祀られているカグツチの神に生贄として儀式を行ったんでしょうな。そして神の怒りに触れ永遠にそこで囚われているのでしょう。」

神主「そして、幸か不幸か儀式の効果はあったのでしょう。あなたの村は農村ですね?亡霊たちの儀式に参加した年は豊作になり、無視した年は不作だったのでしょう。禁忌についてお話しましょう。」

死んだ「イザナミ」に逢いたい気持ちを抑え切れなかった「イザナギ」は、禁忌を冒して黄泉の国の「イザナミ」に逢いに行きます。

そこで「イザナギ」が見たものは

腐敗し、ウジがわき、恐ろしい姿に変わり果てた「イザナミ」でした。

「死んだ後に自分を見てはならない」という「イザナミ」との約束を破った「イザナギ」は恐怖のあまり、逃げ出します。約束を破られた「イザナミ」は激怒し、「黄泉醜女」に「イザナギ」を追わせました。

かろうじて黄泉の国から逃げた「イザナギ」と最後まで追いかけてきた「イザナミ」の間でこんなやりとりがありました。

イザナミ「お前の国の人間を1日1000人殺してやる」

イザナギ「ならば私は1日1500の産屋を建てよう」

神主「Nさんが見たのは、女の子の死体はイザナミ役だったのでしょう。彼はとても恐ろしいものを見てしまったんですね。」

神主「追いかけてきた巫女達は黄泉醜女でしょう。そしてあなたも死体の一部を見てしまっている。祟りを恐れた村人達は信仰している火の神カグツチの炎で、あなた達を焼き払おうとしたんです。」

神主「村人達には見つけられなくとも、黄泉醜女は必ずあなたを見つけて捕まえにきます。しかしこの神社と私があなたを守ります。諦めずに頑張りましょう。」

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怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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