短編2
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盆踊りの一夜

これは、小さい頃に祖母から聞いた話。

祖母の部屋の仏壇には、まだ若い祖父の遺影が置かれている。

祖父は父がまだ中学の時に亡くなっていた為、一度も逢ったことがない。

ある日、祖父は山仕事から帰り「何だか頭が痛く気分が悪い」と、そのまま寝床についた。

そしてそのまま二度と目を覚ます事は無かったのだ。

血圧の高かった祖父の脳の血管は切れ、寝ながらあちこちから血が吹き出すという悲惨な光景だったという。

まだ若いうちに残して逝かれた祖母は悲しみに悲しんだが、なんとか女手一つで今までやってきたのだ。

祖父が亡くなった次の年の、村の盆踊りの事。

毎年の恒例で、祖母は浴衣を着て参加していた。

盆踊りの音頭に合わせて、皆で輪になり楽しく踊る。

チャンチャン♪

     ドンドン♪

チャンチャン♪

     ドンドン♪

ひとしきり踊っていると、輪の中、少し離れた所に良く見覚えのある背中が見えた気がした。

それは見間違うはずもない、祖父の背中そのものだった。

思わず踊る手がとまる。

その背中にすぐ駆け寄りたかったが、祖母の母が止めた。

「話しかけてはいけない」

盆踊りの輪の中に死者の魂が紛れ込む事があるが、決して話しかけてはいけない定めだという。

祖母は、すぐそこにいる祖父の背中を見つめることしか許されない。

切なさに涙がとめどなく溢れた。

せめて、すぐそばで……

祖母は祖父のすぐ後ろへ近づいた。

長いようで短いひとときの踊りを、その背中を見ながら共に踊る。

まだ祖父が生きていた頃、毎年一緒に踊っていた時のように。

踊りが終わり音頭が鳴りやむと、祖父と祖母はその場に立ちつくしていた。

しばらく、そうしていただろうか。

ふと祖父がこちらに振り向き、静かに見つめた後スウッと消えていったという。

それは祖母が昔に愛した、優しく真っすぐな眼差しそのものだった。

そうして、祖母にとって忘れられない盆踊りの一夜は終わった。

私はその話を聞き終え、祖父の遺影を眺めながら「一度は会ってみたかったな…」と思っていた。

祖母はそんな私を見て、

「とても真っすぐで優しい面持ちなんか、お前も良く似ているよ…」

そう言って、私の頭を撫でてくれた。

怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん  

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