短編2
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通りすぎたのは・・・

京都の大学に通っていたころ、バスは道が混んで時間がよめないので、いつも自転車で移動していた。

その日の夜も、サークルの先輩宅で行われてある酒盛りに顔を出す為、自転車を走らせていた。

先輩宅までは頑張ってこいで20分位。近道をするために大通りから、路地に入り、くねくねと古い住宅街を走っていた。

途中、桜で有名な大きな神社の裏手に差し掛かった時、前から自転車に乗った人が見えた。

キーコキーコゆっくりと、しっかりとペダルを踏んでこちらに向かってくる。

自転車は、普通のものより古く、大きく見えた。昔の豆腐屋さんが乗っていそうな・・・

と思った瞬間、神社の街頭の光で乗っている人がハッキリと見えた。

兵隊さんだった。

体つきは細く、若いのか、年なのか、微妙な顔つきだった。陸軍兵のような帽子を被り、足にゲートルも巻いていた。背筋をピンとのばし、まっすぐ前を見て、静かにこちらに向かってきている。

人間の頭とは不思議なもので、自分に都合の良いように考えるつくりになっているようだ。

私は瞬時に、大学が多い土地柄もあって、演劇部の人が練習の後、衣装を来て帰ってきたのかなーと自分を納得させ、普通に横を通りすぎた。

兵隊さんは私の方を一度も見ることなく、まっすぐ前を向いて通りすぎていった。

通りすぎた後、気になって、振り返ってみたが、同じように兵隊さんがキーコキーコとこいでいる後ろ姿が見えるだけだった。

少し経って、冷静に、演劇部の人がそんな恰好で帰宅することが、どのくらい確率の低いことか・・・と思った瞬間、死ぬ程怖くなり、猛ダッシュで自転車をこいで、先輩宅へ転がり込んだ。

その話をすると、その場にいた全員に演劇部の可能性は、限りなく0に近い、と言われた。

いったい私が見たものはなんだったのだろう。。。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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