短編2
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濃厚なキス

去年頃、会社の後輩Nに聞いた話。

「この前、はじめて利用したんですよ」

いったい何の話だか聞いてみると、どうやらデリヘルの事らしい。

私は利用した事がないので良くは分からないのだが…

たまに郵便受けに、そうした小さなチラシが入っている事はある。

給料も入った事だしと、彼女もいない後輩は思い切って電話したのだという。

はじめての事なので、散らかっていた部屋を丹念に片付けたりしてドキドキしながら待っていた。

少しすると家の玄関の扉をコンコン…と叩く音がした。

(あれ…?呼び鈴があるはずなのにな…)

不思議に思いながらも、玄関を開けた。

そこにはだいぶ整った顔立ちをした若い女性が立っていた。

「あ、どうぞどうぞ…」

少し緊張しながらも、Nは女性を家の中に入れる。

………………

女性は部屋にあがるが、黙りこくっている。

(……デリヘル嬢って、こういうものなのか?)

よく分からなかったが、とりあえず部屋のコタツに二人して座った。

もう緊張で体がカチカチになっていると、女性がスゥッと突然迫ってきたという。

そのままされるがまま、布団の上に押し倒される。

「あ、ははは……」

突然の事に動揺し、苦笑いを浮かべるN。

そんなNに、女性はのしかかりながら唇を重ねてきた。

かなり大胆に…舌をからめてくる。

………………

今にも、昇天しそうな気分になるN。

その反面……

不思議と体の力がスゥッと抜けていくのを感じていた。

……ふと気づく。

はじめは気分が高揚していたため良く分からなかったが、女性の体温がやけに冷たく感じられてくる。

そういえば、この女性からは匂いが全くしない…

体臭や香水、シャンプーの匂い…

人間なら誰だって少なからずあるだろう、そうした匂いが全く感じられなかったという。

ピンポーン

玄関の呼び鈴が鳴るのと同時…

女性は跡形もなく、溶けるように消え失せた。

なぜか全身に力が入らなく、フラフラしながら玄関へ行く。

玄関には、そう……

ケバい化粧をした、年の微妙そうなデリヘル嬢が立っていたのだった。

「で……その後はどうしたんだ?楽しんだのか?」

そう私が聞いてやると、Nは首を横にふった。

……不思議なことに、全くたたなかったのだ。

相手があまりに酷いとかではなく。

結局、何もないまま金だけ取ってデリヘル嬢は帰っていった。

「で、困ったことにですね……」

その後1ヶ月近くの間、精力が驚くほど衰えてしまっていたのだという。

「あの誰だか分からない女の仕業に違いないですよ」

そうNは語っていた。

ちなみに、Nは未だに彼女がいないのだった。

怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん  

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