短編2
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ノスタルジー

全く怖い話ではありませんが…

大学時代に付き合っていた彼氏が霊感のある男だった。

彼が「あそこはヤバいよ」と言っていた場所で後輩が怖い体験をしたり

手を繋いで歩いているときに、何もない道なのに急に私の手を引き端っこを歩きだし

私が「なんで?」と聞くと「ええから、振り向くなよ」と真顔で言ったり…

そんな彼との話。

デート中、やたらと彼が躓きコケかける。

普段からボーっとしてるので、まぁドジなんだろうと最初は気にとめなかったのだが

あまりにもそれが多い。

私は「なんでそんな躓くの」と何気なく聞いてみた。

すると彼はサラっと

「地面から手が出てきてな、引っ張るんよ」と答えた。

ビビりの私、顔面蒼白。

彼「何もない場所で躓くときってな、こういうことなんやで。

ま、普通に躓いてるだけってこともあるから、ビビらんでええよw」

そう言われてもビビらずにはいられない。

しかし彼が「お前は絶対大丈夫や」と断言していたので

「なにを根拠に…」と思いつつも、馬鹿な私はすぐにその話を忘れてしまった。

デートを終え、彼の住む一人暮らしのマンションへ。

エレベーターに乗り込み、上がっていく。

と、突然ガクッと彼の膝が折れた。

壁に手を付き、なんとか膝がつくのを堪えている様子である。

ヤバいぞ、これ…

なぜか直感的にそう思った私は、彼の腕にしがみついた。

そして心の中で「連れてかないで!連れてかないで!」と念じ続けた。

そしてエレベーターは無事、目的階数に到着し、扉が開いた。

(ほんの数十秒だったろうが、すごく長く感じた)

エレベーターを降りても、私は不安で彼にしがみついていた。

「…お前は陽やから、跳ね退けられるんやな。俺は陰やから、寄ってくるんよ」

彼の呟きに顔をあげると、彼は少し疲れた表情で微笑んでいた。

「もう大丈夫や、ありがとう」と。

私はホッとしたのと、

自分を「陰」だと言う、この人のどうしようもなさに泣いてしまった。

彼とはもう別れてしまったのだが

彼が「お前は絶対大丈夫や」と言った意味を最近知った。

知り合いの坊さんに

「君には強い守護霊様がついてるね」と言われたのだ。

だから「陽」でいられるのかも知れない。

彼はどこまで見えていたんだろう。

今もまだ、陰の世界にいるのだろうか?

そう思うと、また少し泣きそうになった。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名MAXさん  

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