短編2
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白い家

私の実家から少し離れた山のふもと。

ポツンと淋しく、その白い家は建っていた。

小さい頃、山に遊びに行く途中に、よくその近くを通った。

ある日、いつものように山へ行こうと家の前を通りかかった時だった。

(この家って、人は住んでるのかな…?)

そう考えながら家を眺めていると、どこからか声が聞こえた。

「おーい!おーい!」

声のするほうを見上げると、二階の窓から小さな女の子が手を大きく振りながら叫んでいた。

なぜだか分からないが、女の子の素振りはとても必死そうに見えた。

どうしたものかと何もせずただ眺めていたが、しばらくするとピシャリと窓とカーテンが閉められ、女の子は見えなくなった。

(何だったんだろう…?)

気にはなったが、そのまま山へ遊びに行った。

その日の夜、母に白い家で見た事を話してみた。

母は途中から、信じられないという表情で聞いていた。

話し終えると、母は私に聞かせてくれた。

あの白い家であった事件の話を。

両親と小さな娘、あの家に三人で暮らしていた家族は、ある日突然一家心中を起こしたのだという。

その死に様も奇妙なもので、大きなダブルベッドの上で三人手を繋ぎ並んで眠りながら死んでいたそうだ。

死因は恐らく睡眠薬の大量摂取によるもの。

発見がかなり遅れた為、死体はひどく腐食していたという。

なぜ心中を図ったかは一切不明…

そんな事情や立地条件の問題もあり、その家の買い主も長い間見つからないのだと。

私は少しゾッとしたが、一ヶ月もするとすっかり忘れかけていた。

その日も、久しぶりに山へ遊びに行く途中その家の近くを通りかかっていた。

ふと、前に来た時のことを思い出した。

すると、やはりというか女の子の大声が聞こえてきたのである。

「おーい!おーい!」

どこから聞こえてくるかは分かっていたが、私は無視して歩く。

「おーい…おーい……」

次第に声がスロー再生のように、どんどん低くゆっくりになっていた。

「おー…い……助…けてー……」

その言葉に反応し、思わず家のほうを見てしまった。

ドロドロに腐食した女の子が、こちらに向かって必死で手を振っていた。

恐ろしくなった私は、山へ行くことも忘れて家に逃げ帰った。

それから、その家の前を通ることもなく数ヶ月が経った。

あの白い家は住む人も現れず、とうとう取り壊されてしまった。

今でも、あの時に見た女の子の必死そうな素振りをしみじみ思い出す。

事情は分からないが、女の子は死にたくなかったのだろうか…

しかし、抵抗した様子もなく三人で手を繋ぎ死んでいた。

女の子は最後まで両親を信じて、それでも一緒にいたかったのかもしれない。

怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん  

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