中編2
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死守り(二)

 どれだけ時間が経ったか分からない。

 暗闇の先、不意に目の前の襖が、ガタンッと音を立てて揺れた。

 驚き、思わず顔を上げる。同時に、俺の『直ぐ後ろで』何やらごそりと音がした。心拍数が跳ね上がった。

 何か、まずいぞ、まずいか。――決して振り向いてはならない。叔父さん達の息を呑む気配がする。聞こえてるのか。

 何も見えないのに、俺は目ばかりが見開いていた。瞬き忘れて。嫌な汗が吹き出、息が上がる。体が固まった様に、指の一本も動かせなかった。

 あれだけ響いていた虫の音も、蛙の声も、ぴたりと止んだ事を覚えている。

 すると再び、目の前の襖がガタンと鳴った。全身が粟立った。後方では、死守り以外の『何か』が時折、ごそりと音を立てる。

 俺はもう泣きそうで、逃げ出したくて、それでも身体はぴくりとも動かず、本当に催してしまいそうだった。後ろでは、ごそり、ごそり。

 不意に、声が聞こえた――気がした。

「抜け」

 再び体が跳ね上がる。嗚呼、動く。

 相変わらず目は真正面から動かせず、手探りで小刀を取った。

 情けないくらい震える手を柄に掛け、深呼吸し、半身抜いた。――決して抜き放たぬ事。

 三度正面の襖が、今度は更に大きな音で外れるのではないかという位、ガン!と鳴った。震えで刃と鞘が当たり、ガキリと音を立てていた。後ろの物音と、その主の『何か』も消えていた。

 終わったのか。

 そう落ち着いてくる頃には、再び虫の音が響いていた。

 夜が明け、祖母が死守りの終わりを告げる鈴を鳴らした時、俺を含めた死守り全員、振り向く気力も無く前につんのめり、そのまま寝てしまったらしい。

 そうして祖母に起こされる。

「よう頑張った。持って行かれずに済んだ。よう頑張った」

 祖母は泣きながら、俺に手を合わせ何度も頭を下げた。

 その時になって初めて、じじいを見遣る。少し口が開いていて、掛け布団が少し崩れていた。

 後になって聞くと、じじいの死んだ年は、よく分かないが色々と『マズイ時期』だったらしく、本来なら叔父の子だった筈が、じじいとよく似ている俺が丑寅に座る羽目になったと言う。ひい爺さんが死んだ時は、何事も無く朝を迎えたそうだ。

 『持って行かれた』ら、じじいはどうなっていたのだろうか。

 あの時聞こえた「抜け」という声。

 あの声は、俺以外の死守りの声でも、そしてじじいの声でもなかったのだ。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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