中編3
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霊魂すすり

高校の頃の同級生Sは、盲腸を患い入院していた事があった。

六つほどベッドが並んだ病室の、窓際に入院させられた。

病室の中は嫌な空気がこもっていて、とても居心地が悪い。

しかも盲腸であるから、ろくに食事をする事も笑う事も出来ず退屈な入院生活だったという。

周りのベッドには寝たきりの老人ばかりで、息がつまるような雰囲気だった。

一度友人達とお見舞いに行ったのだが、私がおすすめの文庫本を渡すと、Sはとても喜んでいた。

入院して何日か経ったある夜の事…

とっくに消灯時間は過ぎており、Sも布団をかぶり眠りについていた。

当たり前ではあるが、夜の病院はとても静かだった。

病室の中は、窓から照らす月明かりを除いては、暗い闇に包まれていた。

Sはふと目を覚ました。

何もする事がなく、昼間に結構寝てしまったため、あまり眠れなかった。

少しは慣れたが、それでも夜の病室はまだ気味が悪い……

無理にでも眠ろうと目を閉じるが、ますます目がさえてきてしまう。

仕方なく目を開けて、ボーッと病室の天井を眺めていた。

しばらくして、ふと何かの気配を感じた。

はっと気づくと、隣のベッドと間を区切るカーテンがボオッと向こう側から微かに照らされていた。

(珍しい…隣のお爺さん、起きてるのかな?)

一瞬そう考えたが、おかしい事に気づく。

(ライトの明かりにしては薄暗い、妙な光…)

そう思うのが早いか否か、気味の悪い音が隣から聞こえだした…

ズルズル…

ズルズル……

何か麺でもすすっているような、そんな音だった。

あまりに不審に思い、カーテンの隙間からそっと隣を覗いてみる。

ベッドには、いつものように静かに眠るお爺さん…

その頭上の辺りに、奇妙な影があった。

お爺さんの体内から、青白く光るものが餅のように伸びだしていた。

それを器用に引っ張り、ズルズルと音をたてて影がすすっている。

ガタッ…

Sは不気味な光景に驚き、思わず物音をたててしまった。

ズッ………

影が、手を止めこちらを見た。

暗闇の中に、ギョロリと光る目がジッと見つめている……

恐ろしさに震え上がり、慌てて布団の中に潜り込む。

そのまま震えながら、やがて知らぬ間に眠っていた。

次の朝、隣の騒々しさで目を覚ました。

隣で入院していた寝たきりのお爺さんが、眠るように静かに亡くなっていたという。

それを受けて、嫌でも昨夜に見た光景が頭をよぎる。

(確かに、この目で見た……)

お爺さんの魂と思われるものをすする奇妙な影。

しかしどうしても思い出せないのが、あの奇妙な影の姿形……

この世のものとは思えない、とてつもなく恐ろしい姿だった気はする。

しかし具体的な姿形となると、頭の中からスッポリと抜き取られたように消えているのだという。

一度Sに紙とペンを渡して書かせてみると、何枚もぐちゃぐちゃに書きなぐっては、やがて辛そうに頭を抱えて書くのをやめてしまった。

「何か、思い出したらいけないような…そんな気がするんだ」

Sは青ざめながら、そう呟いていた。

一体どんな恐ろしい姿を、目にしたのだろうか…?

そして、それは見てはいけないものだったのか……

Sがひどく青ざめながら語る様子は、今でも深く印象に残っている。

怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん  

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