中編4
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腕時計 完

■シリーズ1 2

腕時計の続きです。

ズル…ヌチャ

ズル…ヌチャ

Uさんは金縛りの中、床を這いながら近付いてくる「恐怖」に怯えていた。

必死に唯一、動かせる眼球で視界の外にいる「音の正体」を確かめようとした。

その時

ギシ…

U「…!」

ベッドの足元の方に、何か重みのあるモノが上がってきた。足の方のマットがやや沈んでいる。

Uさんは身体を動かせない絶望的な恐怖の中、足元に視線を向けた。

ギシギシ…

徐々に視界の隅から「黒いモノ」がベッドに上がってくる。

ヌチャ…

布団の中で脚を掴まれた。

温度のない冷たい手…

その冷たさにUさんの心臓は止まりかけた。

ヌチャ…ズル

ヌチャ…ズル

「ソレ」は布団の中でUさんの身体を這いながら、少しずつ顔の方に近付いてくる。

足の方から冷たい「何か」が身体の上を移動してくる…

ズル…ヌチャ

太もも…

ズル…ヌチャ

お腹…

ズル…ヌチャ

胸…

全身を這ってくる…

その不気味で冷たい感触と恐怖で、Uさんは本当に心臓麻痺寸前だった。

「黒いモノ」がUさん胸の辺りに差し掛かった時。

はっきりと掛け布団が膨らんでいるのが見えた。

(見てはいけない!)

瞬間そう考えたが、恐怖で硬直し、目をつぶる事も出来なかったそうだ。

ズル…

…ヌチャ

「かえせ返せかえせ返せかえせ返せかえせ返せかえせ返せかえせ返せかえせ返せかえせ返せかえせ返せかえせ返せかえせ返せかえせ」

黒いモノが布団から顔を出し、恐ろしい形相でそう叫んだ瞬間。

Uさんは意識を失った…

…。

夢を見ていた…

夜道を歩いて帰宅している。

そこに突然

後ろから、激しい痛みが後頭部を襲った。

たまらず倒れ込む。

若い男二人が財布や「腕時計」を強引に盗っていく…

「それは大切なモノなんだ!返せ!返してくれ!」

頭から流れた血が視界を塞ぐ

立ち上がり、懸命に盗んだ二人組を追いかける

そこに車が突っ込んできた

…。

Uさんは目を覚ました。

カーテンから太陽の光が差し込んでいた。朝だ。

テレビは朝のニュースを流している…

部屋中の照明がついたままだった。

Uさんは昨日の出来事や夢の中の記憶を反芻していた。

どう考えても原因は「腕時計」に違いない…

すぐに行動を起こした。

警察署に行き「この時計に盗難届けは出ていませんか?」と尋ねた。

Uさんは「こちらでしばらくお待ち下さい」と窓に鉄格子を嵌められた部屋に案内された。

ドアは開いている。

タバコを吸いながら待つこと1時間。

担当の刑事さんがやってきた。

そこでUさんは全てを理解した。

この腕時計の所有者のYさんは、五年前に事件に巻き込まれて亡くなっていた。

強盗傷害事件…そして犯人を追っている最中に、車に撥ねられて死亡。

腕時計はすぐに転売され、警察は見つける事が出来なかった。

鑑識が蓋裏の製造番号を調べたところ、Yさんの自宅にあるブランドの証明書と一致した。

しかし、犯人はすでに別件で逮捕され、この事件についても自白しており裁判で有罪。現在は服役している。

その為、Uさんの持ってきた腕時計は証拠として押収できない。

それどころか、盗品であってもお金を出して買った「善意の第三者」なので所有権はUさんにあるという。

Uさんはしばらく考えた後、遺族に返してやりたいと願い出た。

警察は遺族に連絡を取り、その日の内に会える事になった。

UさんがY家に着くと、Yさんの家族は、泣きながら御礼を言ってきた。

Uさんは亡くなったYさんの仏壇にお線香をあげた。

遺影のYさんはUさんの父親と同じくらいの年齢に見えた。

不思議と自分と同じくらいの年代の若い男性の遺影も並んでいる。

U「…この方は?」

そう尋ねと奥さんがこの腕時計について話してくれた。

「この腕時計ね。今はもう病気で死んだ息子が、ずっと貯金していたお金で最後に主人に贈った物なんです」

「私達の家族は貧しい生活を続けていて、主人は欲しい物も我慢して働いていました。」

息子は病気で助からないとわかった時、主人が「いつか欲しいな…」そう言っていた腕時計を…働いて貯めた貯金を全部おろして買ってきたんです。

時計を主人に渡すとき「俺は死ぬけど、親父の時間をずっと刻んでいるから…俺だと思って大切に使ってくれよ」そう言いました。

息子が死んで一年も経たない内に、主人も事件に巻き込まれて他界しました。

もう戻ってこないと諦めていたのに…

本当にありがとうございます…

二ヶ月分の金額で買った「腕時計」だったが、Uさんは後悔しなかった。

その日、雲一つない青空のような気持ちでベッドに入った。

夢の中…

Yさん親子が御礼を言いに現れた。

「本当にありがとう」

そして「腕時計」を手渡してきた。

…目が覚めると、やはり夢だったのか腕時計は持っていなかった。

数日後…

宅配便でYさんの奥さんから「腕時計」と手紙が送られてきた。

Uさん

先日はありがとうございました。

あの日の夜、夢枕に主人と息子が現れて「あなたのような方に使って貰いたい」と言ってきたのです。

私も同感でした。

もしご迷惑でなければ、貰って頂けないでしょうか?

Uさんは読みながら

ぽつりぽつりと

手紙を濡らしていた。

その後…

腕時計で二度と怖い思いをすることは無く。

それどころか、車で二度も大事故に巻き込まれたが、Uさんはかすり傷一つ負わなかった。

この「腕時計」に守られたとしか言いようがないとUさんは語る…

その腕時計は、今でも新品みたいに輝き

大切されながらUさんの腕で時を刻んでいた。

■シリーズ1 2

怖い話投稿:ホラーテラー 店長さん  

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