長編36
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ほっとけさん

今回は私が幼い時に遭遇した怖い体験を投稿させて頂きます。

長くなりますしそれほど怖くないかとも思います。それでも良いと言う方は是非読んで下さい。

かなり古い記憶ですので多少の矛盾点や曖昧な表現があるかと思いますがご了承下さい。

これは私が小さい時に実際に起こった出来事です。

私の親は私が物心がつく前に離別し、私は母方に引き取られたのですが、私の母の実家は結構な田舎で女性が仕事を探すのは困難であった為に私を祖父母に預け市内に働きに出ていました。

それでも祖父母は優しく、大自然に囲まれ楽しくやっていました。

しかしながら多少の不満も在りました。

と言いますのも、私の過ごした田舎というのが超がつくほどのド田舎だったのです。

当然ながら電車など通っておらず、路線バスも一日二本ほど、村外に通じる唯一の道ですら大雨がふれば塞がれてしまい陸の孤島と化す程のド田舎でした。(古くは朝廷があった由緒あるド田舎です・・・)

そんな田舎に住んでて不便もありましたがそこは物心ついたころから住んでいるためか生活での不便はさほど気にはなりませんでしが・・・・・・

人が少ない!!!!

同い年の男は私を含め4人しかおらず、その上それぞれの家が別の集落でかなり離れていたので学校以外で殆ど遊ぶことが出来ませんでした。

特に私の集落は子供が少なかったので同年代がおらず寂しい思いもしておりました。

休みの日や、日が長くなってくると一人で裏山や近所の製材場、雑木林を探検して寂しく不満を抱きながらも元気に過ごしておりました。

そんなある日の事でした、私が小学校三年生のころだったと記憶してます。

夕食時に食卓を囲んでいると唐突に祖父が私に向かって言ったのです。

祖父「R(私)は兄ちゃんが欲しゅうないか?」

私「??そら欲しいけど・・・?」

祖父「ほうかー、実は日曜にY介がうちに来るんじゃがの、暫くうちで一緒に暮らすことになる思うんじゃ」

私「え?ほんとに!!なんでなんで?」

祖父「Y介のやつ病気ももっちょるやろ?せやから空気の悪いところよりこっちの方がえーやろから預かってくれへんかって前から頼まれとっての」

私「へー」

祖父「Rがええゆうんやったら預かろう思うちょるけど・・・」

私「ええに決まってるやんか!!!!」

祖父「ほかほか、それなら来てもらうから仲良うせーよ」

私「わかっとるよ!やったあああ!!」

Y介は3つ上の親戚で大きい法事や正月なんかに何度か遊んだことがあるんですが、体が弱い割には行動派で物知りでおもしろい頼れるお兄さんと言った感じの人でした。

私は本当に兄が出来るかのように喜びはしゃいで期待に胸を膨らませておりました。

そして週末にY介は良心と一緒にこの田舎までやって来ました。

私「Y介にーちゃん!」

Y介「R大きくなったなー、これから一緒だけどおねしょはなおったか?(笑)」

私「いつの話だよ!それならY介にーちゃんかてトマト食べれへんゆーてないとったやんか!」

Y介「お前あれはだな・・・」

・・・・・・・等とくだらない話をしながら子供特有のスキルと言うのでしょうか、暫くあってなかった時間等は無かったかの様にすぐに打ち解けました。

それからは毎日がとても楽しかったのを良く覚えてます。

今までは一人だったのが二人になり楽しさは数倍に、一人ではいけなかった所へも行けるようになりY介といればなんでも出来ると何処かで思っていた気がします。

Y介が来て一か月ほどたった頃に帰りのスクールバスに乗ってる時にY介が聞いてきました。

Y介「なR、あの大きい家に住んでるのは誰?有名人か?」

R「え?どれ?」

Y介が指したのは隣の集落にある恐らくは村で一番大きい御屋敷でした。

ただ誰が住んでるかなんて全く知りませんでしたが前の席に座ってた高学年のその集落の子が口を挟んで来たのです。

「あーあの家さーオレん家が近所なんやけど、ちょっと変なんや」

Y介「変って?」

「しょっちゅう色んな大人がなんかぎょーさんお土産もっていくのを見るんや」

Y介「それだけ偉い人が住んでるってことなんじゃないの?」

「でもな・・・今までその家から人が出てきたの見たことないんや・・」

R「へー、中は見たことないん?」

「いやー入ろうと思った事はあるんやけども、裏のおっちゃんが見ててめっちゃ怒られてん」

Y介「勝手に入ろうとしたのがばれたんだね」

「いや、それもやけどここに近づくなとか一家全員が村におれなくなるんやとかめっちゃ脅されたかんや」

Y介「何がいるんだろう??」

「さー妖怪とかかもな(笑)おれはもう怖いしそれから近づいてないからわからんけどな」

その後も色々とその家の不思議な話を披露してその上級性はバスを降りて行きました。

Y介がこちらをみて不敵な笑顔を浮かべて言いました

Y介「次の探検場所は決まったな」

次の日曜日、私とY介は弁当を持って朝から隣の集落へ向かいました。

隣の集落までは自転車で林道を抜け15~20分程度で付きました。

しかしそこからが問題でした。

その御屋敷は小さい山の上にあり山の麓一帯に大きい白壁が巡らされていたのです。

壁の切れ目に立派な門があったのですが、その正面の畑で何人もの大人が農作業をしていたので見つからずに進入するのは困難な様子でした。

どうするか悩みながら、私とY介は白壁に沿って自転車を押しながら歩いてました。

Y介「どうしようかなー正面からいっそ一気に走りこんでみるかな」

R「でも見つかりそうやし、みつかったらめっちゃおこられそうだやんな・・・」

Y介「う~~ん・・・お!Rあれを見るのだ!!」

R「なになに?」

Y介が指差したのはどこかの家のガレージでした。

Y介「あそこに梯子とかあるかもよ?」

R「えー泥棒するの?」

Y介「ちょっと借りるだけだし大丈夫だよ」

そう言ってY介は私を引っ張りガレージに忍び込み脚立を発見しました。

Y介「これで壁を越えてあの謎の家に突撃するのだ!」

R「オー!!」

なんだかんだ私はY介に乗せられて一緒になって脚立を拝借しちゃいました。

壁に脚立を架けてまずはY介が登りました。

Y介「誰も来てないか?」

私「大丈夫ー!何かある?」

Y介「いやー木ばっかだなあ(笑)Rも早く来いよ」

周囲を気にしながら脚立を登っている最中はかなり緊張してましたが、壁の向こう側に降り立ってからは緊張はほどなく治まりました。

壁の向こうは木々が鬱蒼と茂る少々不気味な森でした。

しかし、日ごろからド田舎の各所を探検していた私達にとっては特別に畏怖するものでもなく軽い足取りで傾斜を登って行きました。

どれほど登ったでしょうか、木々の隙間からようやく例の御屋敷が見えてきました。

御屋敷に近づくと森が切れパッと日の光が差し込み一気に明るくなったのですがその御屋敷の異様な姿に一瞬息を飲みました・・・・

御屋敷は周りに塀があったのですが山の麓にあったものに比べると乗り越えるのは容易であろう高さでしたが、その壁の向こう側にある御屋敷が余りにも凶凶しく異彩を放っていたのです。

屋敷は塀も含め全て黒一色でした。おまけに窓が一切ありません・・・・

その家としてあるまじき異様に飲み込まれ私は暫し佇んでおりました。

そんな私を尻目にY介は塀に手を掛けて一言、

Y介「行くよ」

R「え?入るん?」

Y介「当たり前だろ。ここまで何しに来たんだよ、それでも探検隊か!?」

R「わかったよ・・・」

私とY介は塀を越え中庭らしき所に侵入しました。

塀を越えてみるとそこは塀の向こうからは想像もつかない光景が広がっていました。

たくさんの艶やかな草花に彩られていたのです。

見たこともない華がたくさんありまるで建物の黒一色が嘘かのような素晴らしい庭園でした。

しかしそれだけにより一層に御屋敷の不気味さが際立ちました・・・・

少し華に見とれた後にY介は壁伝いに屋敷と壁の間をに向かって歩いて行きました。

私「どこ行くん?」

Y介「流石に玄関から入ったらすぐばれるだろう?窓もないし裏口探してみよう」

R「まってよ」

どんどん進むY介の後ろを恐る恐るついて行くと勝手口のような扉を発見しました。

穏やかな陽気と薫風がそよぐ中とは裏腹に私たち二人の緊張はピークに達していたと思います。

Y介「行くぞ・・・」

黙って頷く私

そっとY介が扉を開きました・・・・

中に入っていくY介

後を追って私もその扉の敷居をまたぎ中に入ると外とは一転して真っ暗な屋内でした。

Y介「お邪魔しますよー・・・」

小声で言って上がりかまちを登りY介は土足のまま中に入って行きました。

慌てて私も後を追っかけ上がりかまちを登った瞬間でした

急に空気が重くなる感じにがしました。

陰鬱な空気が漂いどこからともなく例え難い臭いが流れてきています。

勝手口から差し込む光を頼りに私たちは歩みを進め襖を一つ開きました・・・・

バタン!!

私・Y介「!?」

急に扉が閉まりました!

私「風やんな・・?」

Y介「・・・・・オレ閉まらないように石を挟んであったんだよ」

R「じゃあ、なんで!?」

私は泣きそうになりながら叫びました。表情は分かりませんでしたがY介も泣きそうになっていたでしょう。その時、

ギシ、ギシ、ギシ

何かが歩いてこちらに近づいてくる音が聞こえてきます・・・・・

今日は余り書く時間がなく、私の稚拙な文章に付き合って頂いてる方には申し訳ありませんが余り時間軸が進んでおりませんのでご了承ください。

また、思い出しきれず細部まで書かれてないところはご容赦を・・・

澱んだ空気が更に重く私とY介に圧し掛かってきました。

Y介との距離は1Mも無かったと思います。

一歩踏み出せば届くような距離なのに私は何もできずただただ全身が強張るばかりでした。

一方、Y介も襖を半開きにした状態で手を掛けたまま微動だに致しませんでした。

しかしその音は無情にもどんどんこちらに近づいてきます。

ギシッ、ギシッ、ギシッ・・・・・

何故か壁一枚向こう側にいるその物体が、見えないはずなのにどこまで進んでるかが手に取るように脳裏に伝わって来ます。

そして、とうとう常闇の中を一歩ずつ進んできたその物体が襖の隙間から貌を覗かせました・・・・・

!!!!!!!!!!!!!!!!

恐怖で声一つあげれず静寂の中、ソレは立ち尽くしていました・・・・

Y介との距離は数十cmも無かったでしょう。

Y介越しに見えるソレは間違いなく男でした。

背後に広がる暗闇に溶け込むかの様な黒い着流しを着ていたのが鮮明に焼き付いています。

男の髪は胸まで垂れ流されており、全身が暗闇と同化していましたが前髪の隙間からは異様にギラついた眼でこちらをY介を睨みつけているのが分かりました・・・・

私はなにも考えれず、何もできず、ただただ震える事しかできませんでした・・・・

そんな刹那にY介が叫びました!

Y介「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

無音を劈きY介のけたたましい叫び声が響き渡りました!

その刹那!!Y介は黒い男に体当たりをしたのです!!!

男は若干後ずさりをし、Y介はすぐさま踵を反し

Y介「逃げるぞ!!!」

と上ずった声で叫びつつ私の手をとり、入って来た扉に向かって走りだしました。

扉は苦もなく開き、そのまま私とY介は飛ぶように走りその場を逃げ去りました。

屋敷の横を抜け

庭園を駆け抜け

玄関をくぐり抜け

壁を越えて行くような余裕もなく、最初に敬遠した正面側に向かって直走りました。

延々と続く石段を転びそうになりながらも駆け下りて気がつけば真正面の田んぼ泥の中に飛び込んでおりました。

幸いなのかはわかりませんが、その時はすでに農作業をしていた大人はおらず私とY介は急いでその場を離れ息を切らしながらお互いの顔を見合せていました。

Y介「凄く怖かったな。オレ食われちゃうかと思ったよ」

私「でもかっこよかったわー!めっちゃ強いやん!!」

Y介「隊長だからね!(笑)Rみたいに漏らしたりしないさ」

私「漏らしてないわ!・・ちょっと危なかったけど」

Y介「泥だらけやから分からないと思って・・・本当のこと言ってみ?」

私「ホンマに漏らしてへんって!!・・・でもあれなんやったんやろ・・・」

Y介「んー、あれは多分妖怪だな!多分・・・・・」

この後ずっとY介と私の他愛もない妄想話が膨らんでいきます。

しかし得てして現実は妄想よりも残酷で恐ろしいものだと知るのはもう少し後のことでした・・・・・

ここまでお付き合いしていただいた方々に感謝いたします。同時にお詫びを申し上げますが、今回もまだ最後まで書き上げる事が出来ませんでした。

長いお話で、拙い文章ですが予め御了承下さい。

それでは、ほっとけさん 弐の続きです。

泥濘に飛び込み、体中に纏わりついた泥も罅が入る程に乾いた頃でしょうか、どちらともなく帰ろうと言う事になり私達は家路に着きました・・・

外壁沿いに停めてた自転車を取りに行く時には脳裏にあの男の貌が過り、そそくさと自転車に飛び乗りその集落を後にしました。

帰路の最中は深層に恐怖を抱えたままで、私たちは片言隻句の会話しか交せなかったのを覚えております・・・・

しかしのど元過ぎればと申しましょうか、家について夕餉の頃にはすっかり戦慄も薄れておりました・・・・・

興奮が冷め遣らぬのか床についた私とY介は遅くまで今日の出来事について語り明かしました。

当初は何事かおきるものかと心の一隅で思っておりましたが、特に異変は無く時は過ぎました。

御屋敷の件から数週あまり経ったころだったと思います。子供の好奇心と言うのは何よりも恐ろしいものだと今になるとほとほと感じます。

またもや私たちの“探検病”が顔を出して来ました。

ド田舎であることもその一因を担っているのでしょうが・・・・

Y介「R!○神池あるだろう?」

R「うん、神社んとこやろ?」

Y介「そうそう、その奥行った事あるか?」

R「奥・・・?杉林の中?」

Y介「いや違う、この間の写生授業の時なんだけどね・・・」

Y介「○神池沿いの道あるだろう?」

R「うんうん」

Y介「あれはそのまま歩くと○神池を一周するじゃないか」

R「そうだね」

Y介「あの途中にな・・・隠された道があるんだよ・・!!」

R「え~!?そんなの見たことも聞いたこともないけどな・・・」

Y介「おっと?怖いならやめてもいいんだけどね~?」

Y介が私を一瞥する

R「こ、怖いわけちゃうけど!!・・・前のお屋敷見たいなのはちょっと嫌かも・・・」

Y介「大丈夫だって!何かあれば俺がRを守ってあげるから!!お屋敷でもちゃんと助けただろ?」

R「うん・・・」

Y介「隊長にまかせなさい!!」

R「はい!!隊長!!」

斯くして、私とY介の探検隊は○神池にある未踏の脇道の奥地を目指すことになった・・・

この奥地に踏み入った事を激しく悔恨することをまだ私たちは知らなかった・・・・

そして、そこに踏み入る事が必然であったことも・・・・・・

○神池は二つ先の集落なのだが勾配が険しく自転車で子供が向かうには1時間半程度かかった。

そして池の辺に自転車を停めて遊歩道をのんびりと歩き出した。

R「やっぱり○神池はでかいな~、泳げないかな?

(笑)」

Y介「その前にお前泳げないだろ!(笑)」

R「泳げるよ!・・・ビート版あれば」

Y介「それを泳げないって言うんだよね(笑)」

実の無い会話を幾分かしているうちにY介が足を止めました。

Y介「こっちだ」

そう言うや否や、Y介は木々が生い茂り子供の臍まではあろうかという草叢を掻き分けて進みだした。

ものの数分も進んだところで急に草叢が開け、そこには一条の獣道がありました。

R「あれ!?こんなところに道なんかあったんや!でも、これって道??」

Y介「立派な道だよ。この先にいけばここが誰か通るためのモノだって事は分かるさ」

R「へー」

その獣道は木々に囲まれて、その傍らには大人の拳よりも大きな岩石がいくつも転がっており、道の上にも折れた枝葉や、粘土の塊が点在しておりました。

人が通う為のモノとは思えませんでしたが道なりにおよそ15分程歩いたところで私たちは看板を見つけたのです。

丸木を柵のように組み、柵の隙間に金網を張り巡らして、その組まれた木に打ち付けられた・・・

「立ち入り禁止」

の看板を・・・・

御屋敷の件もあったので私はY介に行くのは止めよう!と哀願したのですが、Y介は相も変わらずに私を挑発するような言葉しか口にしませんでした。

私が逡巡している姿を見てY介は唐突に笑い出しました。

実はその地域は何かの謂れがある場所では無く、特別保護区に指定されているだけの場所でした。

原生の動植物等を保護するた為の場所と言うだけの話でしたが、Y介も朧げに自然を守るための場所とだけ理解しているだけのようでした。

それでも安心しきった私はY介の導くままにその区域に入り込んでしまったのです・・・・

ある程度の探索をしましたが、目新しいものはこれと言って無く裏山と大差の無い風景でした。

そろそろ飽きが芽生えて来たころにぽっかりと木漏れ日が照らし出す大岩を発見したのです!

おおよそ4畳位の大きさの岩の上は木漏れ日に照らされてまるで天然のテラスのようでした。

私とY介は空腹に気づきその岩の上で御弁当を食べる事に致しました。

緑風が優しく頬を撫でます。

Y介「気持ちいいなーーー」

 

ゴロンと仰向けになるY介

R「ほんとやなー!ここ秘密基地にしようや(笑)」

Y介「そうだなー・・・・ん?」

Y介の視界に何か興味をそそるモノが飛び込んできたようです。

Y介「あそこになにかあるな・・。行ってみよう!」

Y介は私の返事を聞く前にすでに体を起し、ソレに向かっていました。

ソレは大岩から少し坂を上った丘陵の上にひっそりと建っておりました。

・・・・祠?

今になって思えば、何故人の入ってはいけない場所に祠があるかよくよく考えるべきでしたが少年の私たちにそのような思慮もなく、あろう事かその祠の扉を開いたのです・・・・

扉の中にはご神体のように柄の部分まで金属製の剣が納めてありました・・・・

素材は解かりませんがその剣は赤褐色でかなり劣化している様子でした。

その剣には8の字を重ねたように黒い縄のようなものが巻きついておりました。

縄には所々に玉が結わえてありました。

Y介は不意にその剣を手に取りじっくりと観察していました。

私も横から見せてとせがむのですが、Y介はちょっと待って!と中々をの剣を手放そうとしません・・・・

するとY介はいきなりこちらを睨み付け叫びながら剣を振りかぶりました!!!!

Y介「食らえ!!リボルケイン」

・・・・・・・・・・・・・・・・

なんとも愚かしい事でしょうか・・・・

Y介はその剣でライダーごっこを始めたのです・・・・・・

更に恥を重ねるようですが、私自身も敵役のキャラに成り切りその突拍子も無い戯れに付き合い出したのです。

Y介は曰くありげな剣を振りかざし私の後ろの木立を打ち据えたのです・・・・

「ガッ」

樹皮に剣が食い込みました。

 

剣を引き抜くY介

「ブツ」

「ボトッ」

!!??

・・・・・・剣に巻きついていた黒い縄が千切れ落ちました。

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

その瞬間に山が囂々と鳴り響いた気がしました。

それまで煌々と輝いていた太陽も暗雲に覆い尽くされ辺りは一瞬にして暗く、不穏な空気が漂いだしました。

私とY介は得も知れぬ恐怖に襲われて、お互いに言葉を発せずともすぐにその場を離れなければ!

と本能的に察知いたしました。

Y介は剣をその場に投げ捨て走り出しました。

私も同時に走り出しました。

心臓は高鳴り、喉の奥からは粘着質な錆びた味が込み上げてまいりました。

一目散に獣道を走り抜け、草叢を突破し自転車に跨り家に向かって全力でペダルを漕ぎ出しました。

帰り道はほぼ下りなのでかなりのスピードで降って行きました。

キーーーーッ!!

カーブの度に甲高い乾いたブレーキ音が響きます。

かなり危ない場面もありましたが私たちは決して勢いを緩めること無く走りました。

きっとY介も感じていたことかと思われます。

背中にへばりつくような視線・・・・

絡み付いてくる悪寒・・・・

私たちは後ろを一度も振り返らず家に着きました。

しかし、御屋敷の時の様な安堵感は産まれて来ませんでした・・・・・

私達は食事も喉を通らず、意気消沈したままでした。

そこから布団に入るまでの数時間をどのように過ごしたかは全くありません。

布団に潜るまでにY介と言葉を交わしていたのかすら記憶に定かではありませんが、布団に潜ったときの一言の会話だけははっきりと覚えております。

Y介「・・・・・今日は電気点けて寝ようか?」

R「・・・うん」

布団に入ってからは沈黙が続き、無音は耳鳴りの様に響いていました。

この様な状態で眠れるはずも無い!と頑なに思っておりましたが疲労困憊

した体が休息を求めるようにいつしか眠りに至っておりました・・・・・

ガリ・・・

ガリガリガリ・・・

壁を掻き毟るような音に起こされました。

音は天井裏から漏れている様ですが、最初は鼠の仕業かと判断して再び瞼

を閉じようとした瞬間にある違和感に気がつきました・・・・・

「あれ?暗い・・・・」

「電気は点けたまま寝たはず・・!!!」

最初は祖父母が消したのかと思い込もうとしたのですが、どうにも言い訳の効かぬ事態に陥りました・・・・

恐怖に駆られてY介の布団に潜り込もうとしたのですが、体は天井を正面に見据えたまま微動だにしません!!

私は己の意のままに体が動かぬ最中でその瞳だけを助けを求めるかの様に

Y介を見つめた・・・・・

Y介の双眸は開いている!!

Y介も同じ状況に見舞われている事が直に確信できた。

一体、何が自分に降りかかってくるのか想像も出来ないで脅えていました。

自分の視界には天井の板と電灯しかありませんでしたが・・・・

一箇所だけ物凄く暗い・・・?

違う・・・!

黒い煙のような靄が天板の隙間から漏れ出して来ている!!!

黒い靄は空気より重いガスのように下に降り注いで一つの塊になりました。

黒い塊はY介の足元に漂っています・・・・

黒く蠢く塊から陶器のような白い手が・・・

黒い塊が一種の穴のようにドンドンと人の形をしたモノが這い出てきました。

ズズッ・・・

ズズズッ・・・・

その人の形をしたモノは

Y介の上を這いずって上って行きます・・・・

Y介の瞳のが酷く脅えて顔は汗に塗れているのが見て取れますが私は何も出来ません・・・・

そのモノは女性の形を成していて髪は腰の辺りまで伸びており、全身が絹の様な真っ白でぼんやり光っていました。

こちらの側から顔を伺い知る事は出来ませんでしたが、その女の顔がY介の眼前まで迫ってきています・・・・!!

!!!!!!!!!!!!!

「ゴキッ!・・」

「ガボガボッ・・・ゲホ

!」

その女の白い手がY介の口腔内にねじ込まれていきます!!!!

Y介は声にならない嗚咽を漏らしています!

女の手・・・・

髪の毛・・・・

顔、首・・・・

黒い靄になりながら、ずるずるとY介の口に入り込んでいきます・・!!

私は何度も何度も頭の中で声にならぬ叫びを繰り返していました・・・

女が飲み込まれて行くにつれて、ドンドンY介の顔がドス黒く腐敗したような色に変色していき、女の膝辺りまで飲み込んだところでY介は白目を剥いていました。

私はそこを最後に気を失ってしまいました・・・・・・・

前回迄に多数の方々からご助言等を頂戴し恐悦に存じております。しかしながら雑事に追われ筆が遅く、投稿の儀礼を欠いている事を陳謝いたします。

文才無く端的に纏めれず長文となっておりますのであらかじめご了承ください。次回で最後まで書き切らせて頂く予定ですので宜しくお願いいたします。

それでは前置きが長くなりましたが、

ほっとけさん 参 の続きです。

空が白くなり雀の声が麻を告げます。私はいつもより少し早く目が覚めました。

・・・・・・・・・夢だったのだろうか?

昨夜の記憶が生々しく残っております・・・

寝巻が冷たく・・・・

布団と言うキャンバスに大輪が描かれております。

しかし私は我が身の痴愚を憂うよりも先ずはY介の事を心痛し隣に目を配らせました。

視線の先にY介の姿は無く私は慄然とし噎び泣いていました。

Y介「朝からどうしたんだ?」

私は嗚咽に塗れた顔に安堵の笑顔を浮かべながらY介に駆け寄りました。

私「Y介えええ・・・」

Y介「なんだーまた漏らしたのかよ(笑)Rもいい年なんだから漏らしたぐらいでそこまで泣くもんじゃないぞ?」

私「違うわ!違うわ!・・・Y介がおらへんから・・・」

Y介「トイレにいってたんだよ。おれはRと布団でおしっこしないからね(笑)」

R「だって・・!Y介・・昨日の夜何もなかったの?」

Y介「何の事だ?怖い夢でもみたのか?それで・・・」

一瞬だけY介の表情が曇ったような気がしましたが、私も自分を納得させるためにY介の夢と言う言葉を信じる事にしてそれ以上は何も聞きませんでした・・・・

その後、私は祖母に軽い叱責を受けて朝餉の卓につきました。

Y介は食欲が無いと、一切箸をつけませんでした。

元よりY介は持病を患っており、体調の優れぬ日は朝食もとらずにそのまま学校を休むといった事も間々にありましたので祖父母も特には気には留めておりませんでした。

私は一抹の憂慮を抱きましたがすぐさま自ら掻き消しました。

私は身支度を整えてスクールバスに乗るためにバス停に向かって家を出ます。

バス停は家から目鼻の先にありいつも祖母が、また学校を休む時でもY介も一緒に同道し見送ってくれます。

門を越え上の道に出るための階段を半ばまで登った所でしょうか、Y介が胸を押さえて体調が悪化してきた様子です。

呼吸も荒くなり喘鳴音もしてまいりました。

いつもの発作だろうと思われ、取り敢えず祖母はY介を私に任せて家まで薬を取りに戻りました。

昨日はかなり激しく運動したからなあ、等と思い返しつつ私はY介を気遣いながら横に立ち尽くしていました。

オエ・・・ゲボッ・・・ゲェェェェェェェ

突然Y介がその場に突っ伏し嘔吐いたしました。

私は瞬間的に目を逸らしてY介の背中をさすりながら大丈夫?と声をかけました。

Y介の返事は無く、猶も嘔吐し続けていましたが不意に視線を落とし驚愕致しました・・・・・

Y介の吐瀉物が毛髪だったのです・・・

蹲るY介の下に大量の毛髪が嘔吐されていました・・・・

立ち上がりこちらに向き直るY介

Y介「・・・・・・」

私「・・・・毛が・・」

Y介の眼頭から顎先の辺りまで触角の様に毛髪が垂れています・・・・

ゆらゆらと微風に揺られている黒々とした毛髪がひとしお私の戦慄を煽ります。

そこに祖母が戻ってまいりました。

泣きじゃくる私をみて祖母が異常に気づきました。

祖母「R、どないしたね?」

私「毛・・が・・Y介が・・ばーちゃん・・」

祖母「なんじゃこれは・・・R、Y介連れてうちに帰るんや。すぐにこんこんさんに連絡するからの!」

母は即座に状況が尋常では無い事を見極め気丈に振る舞ってくれました。

(こんこんさんとはうちの集落にあるお寺をの事です。おそらく、金剛?金光?が訛ったものかと思われます)

私はY介に肩を貸し祖母と一緒に家まで戻りました。

祖母に指示されて仏壇の

ある部屋の縁側にY介を寝かしました。

祖母がバケツと数珠を持ってきてY介に渡して

祖母「じーちゃんがおっさん呼びにいっちょるからな!Y介もう少しのしんぼうやからの!!」

そう力強く言って仏壇に向かい祈り始めました。

(おっさんとは方言で和上様の略語のようなものです。中年男性を指すオッサンとはイントネーションが異なります)

ジャリジャリジャリ

庭の玉砂利が響き車が乗り込んで来たことを教えてくれました。

祖父「おっさん来てくれはったで!」

祖父が叫びながら駆け込んで来ました。

僅かに遅れて和上様が一礼をして仏間に入って来られました。

すでにY介は顔面蒼白でバケツの半分程の毛髪を吐き出しておりました。

和上様は私とY介を凝視した後、優しく微笑みながら仰いました。

和上「R君・・Y介君がこうなった原因に心当たりはあるのかな?」

私は覚束無いながらも昨夜の闇から出てきた女がY介の中に入り込んだこと、○神池の奥地に踏み入ったこと、そこの祠に安置されていた剣で遊び巻き付いていた黒縄を切り落としたこと・・・・

穏やかな顔で聞いておられた和上様も全てを聞き終えるころには怪訝な表情を浮かべておりました。

そして呟きながらまた問いかけて来られました。

和上「・・・・おかしい、あの場所に辿り着けるはずは・・・・。R君、Y介君が××(隣の集落)にある黒い大きなおうちに行った事があるか知らないかな?

私はすっかり失念しておりました。

あの御屋敷に行ったこと自体が今回の事と関係があったのでしょうか?

疑問に抱きながらも和上様に説明致しました。

私「前に一緒に行きました・・・中で髪の長い男の人みたいなのがいて逃げました・・・・。」

そこまで話すとそれまで傍らで聞いてた祖父が怒声を発しました。

祖父「なぜあそこに行った!!あそこは行っちゃならん場所なんじゃ!!」

直に横から祖母が制止しました

祖母「今更ゆーても仕方なかろうに!ちゃんと教えておかんかったわしらも悪いのじゃから・・」

そこまで言うと祖母は涙ぐみ、祖父も俯いて押黙りました。

どうやら子供が興味本位で禁忌を犯さぬように敢えて何も教えて無かったとの事らしいのです。

束の間の沈黙が流れ、祖父が口を開きました。

祖父「和上様!Y介を助けてやって下され!!お願いじゃ・・・!」

和上「・・・残念ながら私の功徳の足りんせいも在りますが、コレは領分外になりますので私の力ではどうしようも在りません・・・・」

祖母「そんなむごい話あるますじゃろうか!?和上様!!なんとかならんのじゃろうか・・・」

和上「・・・どうなるか確たる事は申せませんが、やはり専門の者に頼むしか・・・」

和上様は少し言葉を濁した様子でしたが祖父母はそこまで聞いて察している様子でした。

祖父「それしかなかろうし・・・和上様・・お願い出来ますかの」

和上「分かりました、では来て頂くように手配いたします・・・」

和上「ほっとけさんに・・・・・」

これまで気長に私の駄文に付き合って頂いた方々に多大なる感謝をこの場を借りて申し上げます。

今回で最後と予告させていただいた通り何とかまとめさせていただける事が出来ました。

しかし、かなり長くなってしまい一部を割愛させて頂きましたのでもしもご要望が多数あるようでしたら後日談も交え執筆させて頂く所存にしております。

最後まで前置きも長く申し訳ありません。多数の御鞭撻のほどお待ちしております。

それでは、ほっとけさん 四の続きです。

祖母は仏壇に向かい一心不乱に祈っております。

祖父はY介の隣に座し遮二無二Y介の事を励まし続けています。

和上様がほっとけさんを呼びに行かれて暫しの間は祖父母は只管にY介の身を案じておりましたが、私は脱殻の様にY介の傍に立ち尽くすのみで、涙を流すのみでした。

ぽろぽろと・・・・

幾分かそのまま時が経ち、祖父がにわかに語り始めました・・・

祖父「御屋敷の事なんも言っちょらんで悪かったの・・・」

私もY介も返事は出来ませんでした。

しかし、祖父は語り続けました。

祖父「じーちゃんらが子供んころまでは何処の家でもちゃーんと教えておったんや・・・ただの、ちょっとした事件があってからは下手に教えるからいかんのじゃと言う話になっての・・・」

事件?多少気にはなりましたが何も聞く事は出来ずそのまま祖父の話に聞き入っておりました。

祖父「大人連中があの御屋敷に行くときも決められた日だけ離れにしか入る事が出来ないようになっておるんや・・・それだけ近寄る事が恐れ多い場所なんや・・・」

そこまで祖父が話したところで庭から玉砂利の音が響き複数名分の足音がしてまいりました。

先ずは和上様が再び一礼をして仏間に入って来られて仰いました。

和上「ほっとけさんが御越しになられました。」

その和上様の後ろに異彩を放つ一団が居るのが眼に入りました。

純白の衣装に身を包み、顔を白塗りにして麿状に紅を塗っていました。

和上様の後ろに見えた三人が皆同様の身形と御作りをしていたのが猶更に不気味に感じたのを覚えております。

和上様が一歩下がりその三名が前に出て左右に別れました。

その後ろから黒い装束に身を包んだ矮躯な男性が現れました。

・・・・・・・・・・・・

私は思わず息を飲みました。

その男性は明らかにあの御屋敷で遭遇した男性だったのです。

彼が‘ほっとけさん’と呼ばれる人だったとは夢にも思いませんでした。

陽の下で見るその男性は40前後と思われ、髪を後ろで束ねており精悍とも思わせる顔つきをしておりました。

しかしその眼光は鋭く、畏敬の念すら感じさせられる程です。

残る三名は従者の様な者でしょうか、その中の一人から声が上がりました。

従者「此方がほっとけさんです。」

その声を引き金に祖父母が叫びます。

祖母「この子を助けてやって下さいまし!お願いします!お願いします・・・・」

号泣しながら懇願していました・・・

祖父「わしに出来ることならなんでもいたします・・ですから何とかしてやってくれんでしょうか・・・」

畳に額を擦り哀願するその祖父の姿で私は自分の愚かさを嘆きました・・・

横を見るとY介もそのありさまを見て眼を細めている様子です・・・

ほっとけさん「この子は死ぬな」

予想外な言葉にその場の全員が凍り付きました。

祖父が重い空気を破り発言しました。

祖父「この子の犯した罪は家長であるワシの責任ですよって・・・代わりにワシが死んでもかまわんのです!何とかこの子の命だけは助けてやって下され・・・」

祖父の哀願むなしくほっとけさんは冷淡に語ります・・・

ほっとけさん「無理だ。」

祖母「そんな・・・あんまりです・・・」

ほっとけさん「誰かが代わりに死ねば助かると言う問題の話ではないのだ。」

私は恥ずかしながらこの時すでに涙は枯れ、思考が停止して第三者の様な目線になっておりました・・・

ほっとけさんはおもむろにこちらに歩み寄り、その冷眼でY介を見据えた。

ほっとけさん「・・・すでに呪(しゅ)に染まっておるな。愚かな事をしたな。」

Y介は何も言わずに突っ伏しています。

ほっとけさん「お前たちが悪戯したモノは荒神を封じてあったものだ。荒神は長い時を経て我が一族のかけた封印によって既にあの剣にはおらんがな。」

当時の私達には言葉半分ほどしか理解できていなかったと思います。

それを聞いて疑問を挺したのは祖父でした。

祖父「悪い神さんがおらんのじゃったらなぜこの子は苦しんでおるんです!?」

ほっとけさん「それは我々の一族が用いているのが呪術だからだ。呪によって荒神を縛り、長い年月をかけ荒神を善神にして土地の守り神に据えると言う方法をとっているからだ。」

後に詳しく知る事になるのですが、ほっとけさんの一族は所謂、呪い師のようなものだと言う事です。

そしてそのまま説明を続けました。

ほっとけさん「長年かけて荒神を縛った呪は荒神の負の力により更に強力な呪となるのだ。そしてその呪は荒神がいなくなった後も長い時間をかけて解いて行く・・・今のあの祠は呪自体を封じていたものだ。」

もう誰も何も言う事は出来ませんでした。

静かな空間で祖母のすすり泣く声と呟くように「お願いします・・・」と繰り返す言葉だけが虚しく響きます・・・・

ほっとけさん「坊主、お前は死ねるか?」

ほっとけさんはY介に向かいやにわに無情とも言える問いかけをしました。

Y介はその言葉の意図も意味も理解できぬ様子で呆然とほっとけさんを見上げておりました・・・

ほっとけさん「お前に纏わりつく呪は印の様なモノなのだ。その印をめがけて少しずつ呪が注がれ続けている。長年かけて強大になった呪はお前を殺したとしても治まる事は無い・・・・」

Y介は蚊の泣くような声で一言を発しました。

Y介「・・・どういう・・事ですか?」

ほっとけさん「お前を殺した後も呪は近い者を喰らい続けるだろう。この場にいるお前の身内や離れてはいてもお前の家族や血の繋がっている者はほとんどが死ぬだろう・・・しかしお前が死んでも良いと言うなら他の者達だけでも助ける事はできる・・・」

ほっとけさんはまだ幼いY介に犠牲になるか否かの決断を迫りました。

とても残酷で誰しもが言葉を失っておりました。

Y介「・・・はい・・・お願いします・・・みんなを・・助けて・・・」

恐らく喋る事すらつらいと思われるほど衰弱しきったY介が力を込めて言いました・・・

私「いやや・・!!なんでY介が死ななアカンの!!・・死んだらアカンよいややいややあああ・・・」

私は堰を切ったように涙が溢れ、顔をぐちゃぐちゃにして叫びました。

祖父母は何も言いませんでしたが噎び泣いていた事と思います・・・・

しかし、そんな私にY介は一言だけ放ちました。

Y介「言っただろ・・・守るって・・・」

泣きじゃくり「いや」を繰り返すだけの私に比べてY介はとても大人に見えました・・・・

Y介「オレは・・・・・隊長だから・・・な」

そう言って私に笑顔をくれたのです・・・

ほっとけさん「立派な覚悟だ・・・準備をしよう」

ほっとけさんの一言で従者が動き出しました。

心なしかほっとけさんの顔から険が取れ優しげに見えました。

外からいくつかの大きな葛篭が運び込まれ儀式の為の準備が始まりました。

仏間全体が純白の垂れ幕で覆われて部屋の中央部には150cm四方くらいの黒く光沢のある織物が置かれました。

その織物を囲む様に短い白木の杭が畳に打ち込まれて、そこに朱色の水糸が張らて行きます。

縁側に荒縄が幾重にも巡らされそこに模様が描かれた鳴子のような物が吊るされていました。

(他にも色々あったと思いますが、私が確かに覚えているのはこれだけでし)

従者の一人が藤色の長い包みを持ち後の二人は杯と木の枝を持っていました。

そして黒い布の上に私とY介が座らされたのです。

ほっとけさん「これから執り行う事を説明する。お前たち二人は決してそこから出てはいけない。絶対にだ。」

私・Y介「・・・はい」

ほっとけさん「これから少しの間この部屋にいれば注ぎ込まれている呪が断たれる。すると今まで

今まで少しずつ注がれていた呪が纏めて全てやってくる・・・・それをお前の中に全て取り込むのだ。」

Y介の表情からは悲壮感は感じませんでしたが、その恐怖を余り有るものだったでしょう・・・

しかしY介は何も言いませんでした。

ほっとけさん「もう一人も少なからず呪が付着しておるのでこの場でその呪もこちらに移すから何があってもこの糸の外に出ないようにしろ。」

祖父母はすでに部屋から出されていたのが幸いでした。恐らくはこの説明を聞いて正気を保てはしなかったでしょうから。

儀式が始まると歌とも呪文ともつかぬものを左右にいる従者と正面にいるほっとけさんが口ずさみ始めました。

左右の従者は手に持った枝で杯の中にある液体を私達に振りかけながら周囲をゆっくりと周り出しました。

稀にほっとけさんが舛に入った色のついた生米をぶつけて来ます。

儀式が始まりどれくらい時間がたったのでしょうか、物凄く長くも感じ、またほんの数分の様な気もしました。

Y介を見ると顔色がかなり良くなっているのが伺えました。

同時に少しずつですが眼に涙が浮かんでいるのが見て取れました・・・・

遠くで山鳴りが鳴っている・・・・・

違う!これは山鳴りじゃない!庭先で何かが蠢いている・・・・

得たいの知れぬ何かの息遣いだ・・・・

見えないけれど眼前にいるかのように見える・・

その何かは少しずつだが確実に、一歩一歩歩くようにこの部屋に近づいてきています。

ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!!!!!!

縁側のガラス戸が激しく揺れて音を立てている!

ほっとけさん「・・来たぞ!」

ほっとけさんの声に呼応するかの様に縁側の垂れ幕が左右の従者によって引かれました。

荒縄の鳴子が狂おしく鳴り響きます。

カランカランカランカラン

Y介「・・・ひっ!」

思わず声が漏れてしまった様です・・・・

私もY介も歯の根が合わずカチカチと歯のぶつかり合う音がします。

ソレが後ろから近づいてきているのが分かります。

距離を縮めるごとに背中の方から強い圧力がかかり、徐々に空気が重しの如く圧し掛かってきます・・・・

とうとう私とY介の真後ろまでやってきた・・!

「あああああああああああああああああああああああああああああ」

私とY介は叫びました。

かろうじてその場から逃げだす事は踏みとどまりましたが、Y介の方を見て驚愕致しました・・・・

昨晩みた白い手が無数にY介を捉えています!

私は完全に凍りついていました・・・

後ろからは低くくぐもった怨嗟の様な声が聞こえています。

Y介は今までに聞いた事のないような奇声を発し悶え苦しんでいます!

私はろくに言葉になっていなかったと思いますが必死でY介の名前を呼んでいました・・・・

Y介の全身がドス黒く染まり目は口からは大量の涎が垂れ流されています。

刹那に天上まではあろうかと言う大きな闇がY介を包み込みY介の全身にその闇は収縮し収まりました・・・・

それを見計らっていたかのようにほっとけさんが動きました!

左の袖を捲り上げて左手でY介の顔を鷲掴みにして、猶も呪文の様なものを唱え続けました。

するとY介の耳、眼、鼻、口から黒い靄が溢れ出て来たのです!

黒い靄は細く糸状になりほっとけさんの指先から入り込んで行きました・・・・

すると今度はほっとけさんの指先からどんどん黒く染まり始めました。

ほっとけさんの顔が険しくなり脂汗をかいて色様子です。

ほっとけさんを見ると手首から肘の手前辺りまで三本の黒白の斑模様の紐が結ばれています。

黒い浸食が手首の紐の辺りまで伸びて来ると、

プツ、プツと紐がほつれて弾け飛びました・・・

更に浸食は進みます。

次は二本目の紐のところまで浸食されて来ました・・・

プツ、プツ・・・・

ほっとけさん「今だ!!!」

ほっとけさんの叫びが木霊しました!

それまで藤色の包みを携えてほっとけさんの後ろで佇んでいた従者が動きました!!

包みの布を投げ捨てました!!

「阿っ!!!」

ズダンッ!!!!!

ボトッ・・・・・・

白刃が解れかけた紐をめがけ振り下ろされ、その刃は下の畳に食い込んでいます。

どす黒く変色したほっとけさんの腕は切り落とされY介の膝元に転がり落ちました・・・・・

石榴の様な色をした血潮が飛び散りY介が紅に染まりました・・・・

刃を振るった従者はすぐに懐から筆を取り出し、ほっとけさんの腕から滴る血で切り落とされた手に文様の様なものを描きました。

更に和紙を上に載せ、その上から刃を包んでいた布でくるむ様に拾い上げました。

包んでいる最中にガサガサと和紙が起てる音を聞いてまるで切り落とされた手が動いてるのではないかと言う恐怖に駆られたのを記憶しています・・・

残った二人の従者が駆け寄りそれぞれ取り出した黒と白の紐でソレを縛り、桐の箱に納めました。

ほっとけさんは止血をしながらこちらを見て険しい顔でしたが、今までとは別人のような温もりに満ちた声で労ってくれました。

ほっとけさん「よく頑張ったな・・・二人とも・・。」

ほっとけさんはそう言い残し去って行きました。

その後、一人残られた従者の方の指示で後処理を行い全てが終わりました。

全てが終わるころには陽が溶けて空は橙色に染まり、遠く蜩の鳴く声が響いてていました・・・・

カナカナカナカナと

前回まで沢山の御助言・激励、有難うございました。出来る限り全てまとめさせていただいたので今回は殆ど説明臭い文章になっている事を御了承下さいませ。

また話を纏める為に一部を実際の体験から補足・改竄させて頂いてる事をお詫び申し上げます。

それでは、少し前回の終わりに遡り ほっとけさん 終 です。

ほっとけさん「頑張ったな・・・二人とも・・」

ほっとけさんの優しい言葉にそれまでの緊張と恐怖は一瞬にして拭い去られました。

しかし恐怖の余韻からか、体が強張り感謝の言葉すら返す事が出来ないでいる私を後にしてほっとけさんはその場を去って行きました。

滴り落ちる血痕はまるでほっとけさんの足跡のようにも見えました・・・

ほっとけさんに続き左右の従者も切断された手を納められた箱や諸々の道具を持ちその場を後にしました。

一人だけ残った従者が私の前に立ちこれから後の処理があるのでもう少し頑張る様にと言わたのです。

その時、僅かにですが従者の方の口角が緩んだ気がしました・・・・・

従者「あなたもですよ、動けますか?」

私はその言葉を聞くまで恥ずべき事に隣で横たわる最も大事な存在に気を配る事が出来ないでいました・・・

心の奥底から希望と興奮が込み上げ泣きじゃくりながら声をかけました。

私「Y介え・・Y介えええ!!」

Y介に手を添えて激しく揺さぶります。

Y介「・・・なんだよ・・また漏らしたのか?・・R」

私「アホか・・!Y介はアホや・・!!」

私「ありがとう・・・」

Y介は少し上体を起こして笑いました。

そして祖父母が和上様に付き添われ仏間に入ってまいりました。

祖父母の顔は数時間の間に憔悴し切った様子で、私はそれを見てとてつもない罪悪感にかられて涙が溢れました・・・

Y介もそっと顔を逸らしたのが見て取れました。

祖父は私達を一喝し、すぐさま従者の方に向き直り詰め寄ったのです。

祖父「Y介は・・この子らはもう大丈夫なんやろうか!?助かったんでしょうか・・・!?」

従者「恐らくはもう命の危険は無いと思われます。」

祖母「有難う御座います・・・ありがとうございます・・・」

今にも泣き出しそうな声で祖母が言いました。

そして、少しの間をおいて従者の方が懇々と語り出しました・・・

従者「今回のこの子たちはある意味で運が良かったと言えるでしょう。この子たちが“うつった”呪が他のものでしたらこの子の死でしか全てを終わらす方法はありませんでしたから・・」

背筋に冷たいものが走りました・・・

祖父母も動揺の色が顕著に表れております。

それを見て従者の方は祖父母に向かって言いました。

従者「御二方は過去の忌まわしい事件は知っておられますね?」

祖父「はい・・・、あのような事がまさかワシの孫の身に降りかかるとは・・・」

従者「いい機会ですからその事も含めて君たちにお話ししましょう。そして出来る事なら反省して君たち以外に同じ過ちを犯す事が無いよう君たちの世代からも戒めて行くと良いでしょう・・・」

私とY介は黙って頷きました。

昔々、この地で3体の荒神が暴れておりました。

この3体の荒神は非常に強力な力を持ち幾人もの高僧が封じようと試みましたが返り討ちにあったそうです。

そこに噂を聞き付けてやって来た一人の呪い師が特殊な方法で封じたそうです。

呪いを用いて荒神を封じた彼を封渡家さんと呼ぶようになったそうです。

それがほっとけさんの御先祖様に当たる方だそうです。(他にも仏さんの使いと言う意味から発生した言葉だと言う説もあるそうです。)

三体の荒神は呪で縛りつけ別々の場所に封じられました。

しかし荒神の力はとても強力でそのまま滅する事も敵わず、その力を逆にこの地の為に使えるように何代にも渡り呪を結び続けてやがて浄化するという形をとる事になりました。

その為にほっとけさんはこの地に居を構え、あがめられる存在となりました。

何代にも渡り呪を結び続け、三体の荒神全てが浄化され土地神となった後には荒神の邪気を吸い、幾重にも結ばれ続け強大になった呪が残りました。

その次の代のほっとけさんからはこの呪を“ほどく”作業が始まり、また何代にもわたって少しずつ解かれて行くのです。

この呪を解く方法はほっとけさんが少しだけ呪を取り込み結界で囲われた御屋敷にて少しずつ浄化していくと言う方法だそうです。

御屋敷の母屋とほっとけさんは普段からその呪に侵された状態で一度取り込んだ呪が浄化され、次の呪を取り込むまでの間だけ外部からの御進物等を持ってきた人と会う事が出来るそうです。

(ただし直接会うのは従者の方だけだそうです)

そんな事情から村では古くからほっとけさんの屋敷に妄りに近づいてはならぬとの云い付けが語られておりました。

このような話を聞かされて私は子供ながら大きな疑問を抱きそれをそのまま口に出してしまったのです。

私「でも・・そんなの一回も聞いたことないで?」

その質問への答えは祖父の方から返って来ました。

祖父「それはの・・じーちゃんが子供のころの事件のせいなんじゃ・・」

その事件とは祖父が少年の頃に疎開してきた子供達の数名が御屋敷の話を聞き付け同じ様な事をしでかしたのです。

後になって考えてみれば恐らくは空腹で御屋敷には食料が沢山隠してあると思いこみ侵入したのだと分かったらしいです。が、子供の好奇心による所も大きいだろうとの事で知らねば誰も行くまいと大人たちの間で結論が出て祖父の世代以降は村でほっとけさんについては語られぬ様になったとのことです。

その時の数名の子供はみな命を落とし、その親族も戦争によるものか判りかねますが全員がお亡くなりになったとの事でした・・・・

通常であれば呪を封じた祠には辿りつけぬ様になっているのですが、御屋敷で呪に感染してしまった事で私とY介は呪に呼ばれその感染した呪の源まで導かれてしまいこの様な惨事に見舞われてしまったのです。

ただ、不幸中の幸いであったのはその時の呪がすでにかなり解かれていたのでなんとか私達の命は救う事が出来たとの事でした。

ただし、Y介に本当に命を懸けるだけの覚悟が無ければ恐らくは助けることはできなかっただろうと言われた時は本当に鳥肌が立ちました・・・・

こうして全ての真相を明かされ、その後の処理を終えて従者の方は御屋敷に帰って行かれました。

(後処理は仏間の畳を燃やしたり、私とY介の体を清めたりと言った事をしました)

全てが終わり、遙か遠くからオレンジ色の光に照らされ黒と橙のコントラスとに染まる居室で私とY介は呆けていました・・・

蜩が物悲しく夕暮れを告げている

Y介「・・・R」

私「なに?」

Y介「探検隊は解散だな・・・」

私「・・・そうやな」

私と私の親友がほんの少しだけ大人に一歩近づいた、そんな気がしました。

それからY介は両親の元に帰る事になり、現在でも元気にやっています。

ただあの時の後遺症か視力がかなり落ち、代わりに見えなかったものが年齢とともに見えるようになったと聞きます。

ほっとけさんは間もなくして引退され次の代に家督を譲られたそうです。

あの時に手を切り落とした方が現在のほっとけさんだそうですが、もう次の代まで持ち越すことは無いだろうと聞きました。

私は引退された後にあの時のほっとけさんに一度だけ会う事ができ呪について色々な話を聞く事が出来ました。

そのせいかこの年になり今もまた「探検病」が再発している最中でございます・・・・

長々とお付き合い頂いた皆様ありがとうございました。

私の幼いころの体験談はこれで全てですが、皆様もくれぐれも過ぎた好奇心には御気をつけますよう・・・・

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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長かったけど、一気に読んでしまいました。
子供の好奇心と、古くからの禁忌…混ざり合った時に事件は起きるのでしょうね…

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いつも思うけど人が近寄ってはいけない場所に惹かれて行く人は呼ばれてると改めて思わせる話。
後悔先に立たずとは、好奇心から始まった事なんだろうな。行きたいと思わない人は護られてるんだと思う。

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