父親の話
俺の父親は趣味のゴルフ、競馬やパチンコなど、とにかく遊び人だった…
家で仕事の話などしたこともなく口癖は「会社行きたくねー」等、とにかくダメ人間だった
それが半年前から急に激変した
ゴルフ、ギャンブルを一切やらなくなり、家では会社や仕事の話しかしなくなった…
最初は「親父が遂にやる気になった」と、家族で喜んでいたのだが段々親父の行動はエスカレートして、家でも部屋に篭り仕事をするようになった…
我が家から会話がなくなった…
親父の目は虚ろになり、仕事以外は全く興味がない様だった
流石にヤバいと感じた俺は母親と話し合った
俺「親父は明らかにおかしいだろ完全に別人だ!」
母「私もそう思って、お父さんに言ったのよ………そしたら、女は仕事に口を出すなって…おもいっきり叩かれたわ……」
母は泣きながら話した
俺「きっと、会社に秘密があるんだろ!俺、明日親父の会社に行って見てくるよ!」
母「危ないから止めなさい、何があるかわからないよ…」
俺「大丈夫だよ!これでも柔道部だから」
俺は母が止めるのを無視して、親父の会社に行った…
外観は普通のビル(会社)なのだが、この中に秘密があるだろう
俺は内心ワクワクしていたが、その期待はすぐに打ち砕かれた…
会社の中の光景は異常だった…
全員が親父と同じ虚ろな目をしている…
時間が勿体ないと会社を小走りで行き交うスーツを着た大人達
まだ学生で会社の中なんて知らないのだが、ドラマ等で見るとたいてい受け付け嬢は笑顔で対応するものだと思っていた
俺「あの、営業部の中山をお願いします」
受け付け「どういった御用件でしょうか?」
ニコリともせず、まるで機械の様に受け答えをする受け付け嬢…
受け付け「アポイントメントは取られてますか?」
俺「いえ……あの〜」
俺を制止する様に
受け付け「では、お会いになる事は出来ません…後日改めてアポイントメントをお取り下さい」
俺「僕は中山の息子です!」
受け付け「そうでしたか……でも規則ですので、アポイントメントが無い方はお会いになる事は出来ません」
アポイントメントって……家族が会いに来てるのに…
俺は後退りする様に受け付けを離れた
おかしい……
おかしいって言うか、気味が悪い
想像を遥かに越える状況である…
「言霊だよ…」
っ!!!!
いつの間にか俺の横に一人の男が立っていた…
見た目は、30代くらいの爽やかでカッコイイ男……
俺「はい?」
男「だから、言霊だよ!彼達をこんな風に変えたのは…、聞いた事ないかな?言葉には魂が宿っているって意味だけど…」
俺「言霊ですか…」
こいつ何を言っているんだ?
俺「あの、あなたは?」
男「この会社の人間で、倉田って言うんだ!」
男「倉田さん……ですか…」
倉田「ごめんね、いきなりでビックリしたかい?君は中山さんの息子さんらしいね?君のお父さん、ここ最近非常に仕事熱心で会社の為に働いてくれているよ!」
俺「だから困ってるんです…俺は今まで通りのダメな親父が良いんです…なのに、最近の親父は取り憑かれた様に仕事、仕事って…」
倉田「君のお父さんを変えたのは新社長だね…半年前からこの会社に来て、従業員達を仕事が生き甲斐の機械人間に変えたんだ」
俺「変えたって…」
倉田「さっきから言う様に言葉には魂が宿っている……人間は言葉一つで喜ぶし、悲しむ…上手く使えば、言葉だけで人を殺す事だって出来るんだよ…、それが出来る奴なら性格を変えるなんて簡単な事だ……言葉って言うのは、人類が共通して持っている凶器だよ」
言葉で人を殺す?性格を変える?馬鹿げた話だが、この人の話は妙にリアルで信憑性があるように思えた……
俺「あの…戻す方法は?」
倉田「………ないね…言葉の受け方は人それぞれだ……いくら親子でも第三者がどうこう出来る問題じゃない…」
親父は一生、死ぬまで仕事マシーンなのか……?
絶望感が包み込んだ……
倉田「おっと、時間だ……また会社に遊びにおいで!この名刺を受け付けに見せれば通してくれるから…また話をしよう!」
倉田さんは満面の笑みで名刺を俺にくれた…
名刺には、代表取締役社長と書かれていた……
倉田社長は顔が崩れる程の笑顔で俺に別れを告げ、オフィスへと消えて行った…
俺は何がなんだか分からず、ただ絶望感に浸って家に帰った
家では母が待っていて、「どうだった?」と聞かれたが、本当の事は言えなかった…
会社に行ってから一ヶ月、俺の頭から会社と倉田社長の事が離れなかった……
俺は怖い……
次第にあの会社に惹かれていっている自分が……
もちろん、全て俺(猛壮)の妄想であり、事実は一切ありませんのであしからず……
ありがとうございました
怖い話投稿:ホラーテラー 猛壮さん
作者怖話