中編3
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子供の絵

旅館を営む私の実家に、良く泊まりに来ていたAさん。

Aさんは保母の仕事をしているという。

もう長年やってきた仕事の中で、奇妙な体験がいくつかあったが、今回はその一つの話。

はじめに気づいたのは、もうすぐ夏という頃だった。

いつもポツンと中で大人しく遊んでいる男の子がいた。

「お外でみんなと遊ばないの?」

そう聞いても、首を振って全く遊ぼうとしない。

たまにみんなの所に連れていってみても、少しするとつまらなそうにどこかへ行ってしまう。

そんなある日、男の子は中で一心不乱に画用紙に向かって絵を描いていた。

(何を描いているのかな…?)

邪魔しないように、そっと覗き込んでみる。

…まだ小さい子が描く絵なので、非常に分かりずらいのだが、それは実に奇妙なものに見えた。

背景は赤でぐちゃぐちゃに塗り潰されている。

そして、横長のひし形の中に丸…

どうみても、それは「目」のようだった。

赤い背景の中、「目」がビッシリと並んで描かれていた。

何の絵なのか男の子に聞いてみても、何も答えてくれなかった。

それから一ヶ月ほど経っただろうか。

男の子は相変わらず奇妙な絵を描き続けている。

目がビッシリと描かれたものや、意味不明な記号の羅列…

体がバラバラにちぎれた人間の絵など、他の子達の絵と比べても明らかに異様なものだった。

ある日、男の子の母親から電話があった。

「うちの息子に、変な絵を教えないでくれます?」

かなり不機嫌な口調で、いきなりそう言われた。

教えるも何も、男の子が勝手に描いているもの…

そう説明しても、母親は全く分かってくれない。

「家で、夢中になって気持ち悪い絵を何枚も何枚も…もう耐えられないわよ!」

母親はひどく疲れた様子で、そう怒鳴り散らす。

Aさんには訳が分からなかったが、「すみません」とただ何度も謝り続けた。

やがて一通り怒鳴り終わると、電話は乱暴に切られた。

仕方なく、絵を描く道具をすべて男の子から取り上げてしまった。

男の子はしばらく絵を描きたいとせがんできたが、やがて諦めた様子だった。

しかし、それから何日かして…

(あれ…?あの男の子がいないな…)

いつも中で大人しく遊んでいる男の子の姿が見当たらない。

外のほうを探してみても、やはりいなかった。

少し心配になりトイレのほうへ行ってみると、個室からフラフラと男の子が出てきた。

その姿を見て、思わず悲鳴をあげた。

朝に見たときは普通だった男の子の体が、真っ赤になっていた。

慌てて近づいてよく見ると、刃物で刻まれたような傷が体中にビッシリとついていた。

まったく意味不明な記号のような絵文字の数々…

トイレの個室には血まみれのカッター。

救急車と母親が呼ばれ、男の子は運ばれていった。

そして、男の子が保育園に来ることは二度となかった。

それから約一ヶ月後、男の子の住む家が原因不明の火事で全焼したのだ。

焼け跡からは、丸焦げになった両親と男の子の遺体…

それを知ったAさんや他の保母さんたちはとても驚き、そして悲しんだ。

(そういえば……)

以前に男の子の描いていた絵が、何枚も保育園で保管されていた。

(親御さんも亡くなり、貰い手がいない…)

処分しようかしまいか、考えていた時のことだった。

ギィヤアアアアアアー!!!

この世のものとは思えないような、物凄い悲鳴があがった。

保管した男の子の絵を出そうとした保母さんが、その場にうずくまっていた。

落とした絵が床全面に散らばり、保母さんの手からポタリポタリと血が滴り落ちていた。

「どうしたの?大丈夫?」

Aさんは、慌てて近寄り保母さんの手をとる。

しかし、傷らしきものは見当たらない。

何の傷もないところからポタリポタリと血が滴っている。

保母さんは、床に散らばった絵を指差してガクガクと震えている。

Aさんは床の絵をよく見て、愕然とした。

…まるで紙の内面から染み出しているかのように、絵は赤黒い血で全面を染めていた。

その異様な光景に、保育園内は一時騒然となった。

その後、男の子の絵は全て集められ、寺で供養されたという。

なぜ男の子が、異常と思えるような絵をひたすら描いていたのか…

そして、一家全焼した火事との因果関係は…?

未だに全てが謎のままだという。

怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん  

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