短編2
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隙間の女2

ドアを開くなり何も言えない私に、Aは言った。

「やっぱり……ごめんね、大丈夫だった?私…悪気はなかったんだけど…とにかく上がらせてもらっていいかな?」

「あっ…う、…!」

言葉にならない返事と頷きを繰り返し、Aをリビングに通した。雨はまだ降り続いている。

玄関から向かって右にはリビング、正面は階段、左は仏間となっており、リビングからはカウンターを挟みキッチン、その向こうが風呂場になっている。

Aに先程のことを何とか身振り手振りで話すと、彼女はすっかり黙り混んだあとに口を開いた。

「…21時に何かあるの?」

私はその言葉にどきっとした。

21時には両親や兄が帰ってくる、その事はまだ誰にも話していなかった。否、話すも何も今日家族以外ではAが初めて会話した他人なのだ。

「女は21時までにどうにか貴女を連れていこうとしてる。21時までに逃げ切れなければ、…」

「ど、どうしよう!?ねえ、どうすれば助かるの!?」

「ひとりで逃げ切るしかない。」

そう言ってAは帰っていった。

徐々に時間は過ぎていき、21まであと1時間を切った時。

リビングから見える風呂場に通じるドアがキィ、と音をたてて開いた。あの指が見えている。

廊下からは「ふっ…ふふへ、はははははははははははは!」、と不気味な笑い声すら聞こえてくる。

聞かないように、聞かないようにとしているとその声はすぐ耳元まできた。

「お…に…ごっこ…へへへ…つかまぁえーたぁ……」

くぐもった声で女は笑い、同時に私は家の外へと走り出た。

外は雨が降っていた。

窓には無数の白い手が張り付いており、2階の私の部屋にはあの女が見下ろすように立っている。

雨の中、私は力の限り叫んだ。

あれから数ヶ月、Aは私に怖い話をしなくなった。

私以外にももう話していないのだろうと思う。

Aの背中にはあの雨の日からずっと、あの女が張り付いている。

理由は私しか知らない。

そしてあの女を追い払う方法も、私しか知らないだろう。

人は時として優しさを忘れることがある。それは自分を守るためであり、仕方のないことだ。いや、当たり前の事なのかもしれない。

「いちぬけ…!次はAの番!」

怖い話投稿:ホラーテラー 匿さん  

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