中編4
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そんな、夢を見た。

緑色の翡翠のかたまり、竹で出来た狐、石や紙や、一つ目の子供がめちゃくちゃに跳ね回り、賑やかに騒ぐ。

そんな夢を見た。

場所は、どこかの神社の社の中らしい。

その人ならざる者たちに混じって、子供の頃の姿に戻り遊んでいる俺も、何だか物凄く楽しくて楽しくて、大笑いをしながら一緒に騒いでいた。

怖さはなく、夢のなかで俺は、まわりで跳ねる者たちが「神様」である事を知っていた。

かくれんぼをしたり(笑ったり跳ねたりして隠れるから、皆すぐに見つかるw)、ピョンピョン飛んで遊んだり。

夢中で楽しんで、そして俺は、夢の中でいつの間にか眠ってしまっていた。

ふと、社の外の石段で目を覚ます。

湿っぽい石の感触や、群青色の空から、朝が近いことが分かった。

『楽しかったなー…』

なんて思いながら、うとうとと社の方を見ると、軽薄な感じの若い男がいて、社から薄い貝でできたような白い腕輪を盗もうとしていた。

それが大切なものであると直感的に悟った俺は、皆に知らせなきゃ、と思い

『腕輪が盗まれるー!腕輪が盗まれるー!』

と大声で叫んだ。

俺の存在が男にバレてもいい、盗まれちゃいけない、と必死だった。

それを聞きつけた翡翠のかたまりが、ぬらりと全身緑色の人の形になり、傍に来てくれる。

『少し辛抱するんだよ』

江戸時代の女の人のような姿をして、男の人の声で話す翡翠は、そう言って古い扇子と小さな人形を俺に手渡し、何かの布の中に俺を包んで隠してくれた。

鼻先まで暖かい布のようなものに包まれ、でも俺は、頭まで隠さなきゃ!と思いゴソゴソと動いてしまう。

「見つけた!!」

物凄く禍々しい声がして、上から強い力で体を押さえつけられた。

見ちゃいけない気がして、ギュッと目を閉じたのに、そいつが腕輪を盗もうとした男であり、けれどその姿はもはや人ではなく、巨大で凄まじい形相をした狐だと分かった。

醜悪で、穢れの権化みたいな姿だった。

奴の息を間近に感じながら、俺は必死で目を閉じ息を殺す。

「ふざけやがって」「お前が言ったんだな」「殺してやる」

俺を恨み罵倒し蔑む狐の声とともに、体を押す力が強くなる。

苦しい…!

もう無理だ…!

『ここが踏ん張り所だよ』

諦めそうになった時、さっき一緒に遊んでいたであろう誰かの声が頭に響く。

みんな見方なんだ!と思った途端に、怖さが消えて、ただ息苦しさだけを全力で耐えた。

狐が吐く「邪魔しやがって」「喰ってやる」という声が、だんだん「おーんおーん」という声に変わっていく。

その音はだんだん早く短くなり、おーんおーんから、おんおんおんおんと鐘が響くような音になり、やがて俺は気を失った。

夢と現実の狭間のような場所で、俺は何人かの神様(全員、江戸時代の人の姿をしていた)と一緒に歩いていた。

辺りはすっかり明るくなり、どうやらここは神社の参道らしい。

参道を横切るように川が流れていた。

そこで俺は、神様に

「人を救うのは難しい」

「たった一人でも、こんなにクタクタだよ」

みたいな事を、子供ながら一生懸命に話していた。

神様はうんうんと頷き

「でも、これで二回目だ」

と教えてくれた。

前にも同じような目に合ったのだろうか、よく覚えていない。

「大変でも、諦めちゃいけない」

そんなような事を言われて、参道を抜けると同時に俺は目を覚ました。

今度こそ現実の、25歳の俺。

何故か、とても清々しい気持ちで、感動的ですらあって、でも神様と遊ぶなんて、偉そうな夢だなとおかしくなった。

「諦めるな…」

そう呟いて、枕元の携帯で弟に電話をする。

夜中の2時にも関わらず、弟は電話に出て、それからボソボソと他愛もない話を続けた。

二週間前、弟は自殺した。

たまたまアパートに寄った俺が見つけたから未遂に終わったものの、薬を大量に飲んで、嘔吐し、頭を床にぶつけ、身動きが取れないまま震える弟は、あと何時間か発見が遅れていたら、障害が残るか、死んでいたらしい。

病院で目を覚ましてからも、弟は

「なんで助けた」

「死なせてくれ」

と、うまく出ない声で叫び続けていた。

死にたい人間に、無理に生きろと言うのは残酷だろうか。

死なせてあげるのも優しさなのか。

最近では、俺もそんな事を思うようになっていた。

でも今は、何とか弟を救いたいと思っている。

たくさんの強い味方が居てくれると分かったし、それに弟が自殺をしたら、きっとあの醜い狐に喰われるんだろうなと思う。

それは凄く嫌だからさ。

諦めないでがんばるよ。

夢の話だから、フワフワしてる部分もあると思いますが、最後まで読んで下さりありがとうございました。

怖い話投稿:ホラーテラー 病み介さん  

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