中編3
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うつる生首

つい数ヶ月ほど前の話。

ある朝、通勤ラッシュですし詰め状態の電車に乗っていた。

もう慣れてはいるものの、息がつまるような車内の空気に少しうんざりしながら、窓から外を眺めていた。

毎日、見慣れた光景が流れる。

もう少しで踏み切りを通過するな…という頃だった。

キキィーーッ!!

大きな甲高いブレーキ音が鳴り、物凄い衝撃と共に電車が急停車した。

突然のことに、車内の空気は騒然としていた。

やがて流れる、嫌な車内のアナウンス…人身事故だった。

(うわ〜…マジかよ…)

しばらく窓の外の光景を眺めていると、それを見て頭の眠気がすっかり吹き飛んだ。

窓の外に、生首が浮いていた。

ふわふわと宙を漂いながらこちらを見ていて、一瞬目が合ってしまった。

まだ若そうな男性だろうか…こちらに気づいた途端、そこにピタリと停止してこちらを凝視しだした。

周りの人を見ても、みんなまるで見えていないというような様子だ。

ずいぶん長く電車が停車している間、ずーっと飽きることなくこちらを見つめる生首。

(ちょっと…本当に勘弁してくれよ…)

生首の歪んだ表情と冷たいような虚ろな眼が気味悪く、私は必死で視線をそらす。

…しばらくして、ようやく運行再開のアナウンスが流れて、電車が動き出す。

ホッと一息つき、ふと窓の外に視線を戻したときだ。

思わず大声を出しそうになった。

ベッタリと窓ガラスに頬を張りつけながら、生首がこちらを睨んでいた。

(おいおい。俺が一体、何をしたっていうんだよ…!?)

恐怖と混乱と憤りが混じったような感情が、胸からドッと押し寄せた。

(くそっ、早く着け!)

目的駅に早く到着することを願いつつ、眼を閉じてうつむいた。

「○○駅〜○○駅〜」

やっと着いたかという思いで、人混みを掻き分けながら外へと出る。

少し早足で改札を出て、混み合う街中を会社へ向かって歩いていると、後ろから刺すような視線を感じる。

ハァハァハァ……

頭のすぐ後ろから、首根っこの部分に男の吐息が吹きかかった。

思わずギャッ!と一回飛び上がると、出来るだけ足を早めて会社へと急いだ。

結構遅刻はしたものの、いつも通り仕事につく。

カチカチとパソコンで作業をしていると、肩の辺りが妙に重い。

そう意識した途端、ボテッ…と肩の重りが具現化したような感覚が襲う。

頬にひんやりとした感触と生暖かい吐息があたる。

(まったく、こっちは忙しいってのに…)

こっちにも意地があると、あくまで無視を続ける。

だんだん慣れてきたのか、仕事もいつも通りスムーズに進む。

そろそろ定時、昼休みも使ったおかげで時間内に終わるなと一息ついた。

ふと気づくと、しつこく肩の上に乗っていたはずの生首が消えていた。

(さすがに諦めて、どこか行ったか?)

そう思って、向かいのデスクに座る同僚のほうを見ると…

少しダルそうな表情をした同僚の肩に、ボテッと生首が乗っかっていた。

(○君、頑張れよ…)

まだ仕事が終わりそうにない同僚に少し同情しながらも、私は足早に会社を去った。

その後何日か、その同僚の肩に生首が乗っかっていたが、ある日気づくといなくなっていた。

無事、成仏したのだろうか。

それとも…

それ以来、あの生首は一度も見ていない。

しかし、たまに疲れて肩が重い時などは、つい肩の上を恐る恐る見てしまう。

怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん  

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