中編6
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手相占い

大学を卒業して、社会人になってちょうど2年。久しぶりに大学時代の友達のA子と会っておいしいお酒を飲むことができた。お酒に強いA子が千鳥足になるぐらいまで付き合ってくれたのが嬉しかった。

夜中。飲み屋で飲んで、まぁ気分良く歩いてたら手相占いが路上に店を出していた。

普段なら無視して通り過ぎるけど、一緒にいたA子が「なんかあの人カッコよくない?アンタまだ彼氏いないでしょ。アタックしなよ~」と、占ってもらうことを強く勧めてきた。

A子が酔っぱらってこんなこと言う機会はもう無いだろうし、せっかくだから。そんな軽い気持ちで占ってもらうことにした。

いざ手相占いの人の前に行くと「ああ、はいはい。一回千円です」と、占い師はそれまでうつ伏せていた顔を上げた。

30歳ぐらいの整った顔立ちのいい感じの男性だった。遠目から見て背が高く、姿勢よく座って本でも読んでいる様子だったから、もしかしてイケメンかもとかちょっと期待していただけにうれしかった。

「さ、イスに座ってくださいな」

と、占い師と机を挟んで真正面にあるイスに座るようにうながされた。

イスに座ると、私の後ろに立っていたA子が

「どこかで修行とかされたんですか?ホントによく当たりますよね~!!」

と口を挟んできた。もちろんA子はこの占い師とは初対面で、その腕前も知らなかったのだが。占い師は困ったように笑ってごまかしていたが、

「決して、外しませんから。」

と、そのときだけは本気な顔で答えていた。

「それでは、両手の手のひらをみせてください。」

いよいよ占いが始まった。いままで他人に占ってもらうなんてしたことなかったから、どんなことを言われるか少し怖かった。

両手を机の上に乗せた。

占い師は初めに私の手をじっと見て、こう言った。

「すみませんね。わたしは生命線とか運命線とかわからんのですよ。ごめんなさいね。ただ手をみることには変わりないから。みなさんがわかるように手相占いって看板ださせてもらってるんです」

そして占い師は私の両手に自分の両手を乗せて、うつむいてしまった。

不思議なことに、彼は自分の目で私の手相を見ようとはしなかった。ただうつむいて、何かをつぶやいているだけだった。

手相占いって、こういう感じなの?と、後ろのA子にアイコンタクトをとると、小声で「ダイジョーブダイジョーブ。」と酔っぱらった返事をしてきた。

3分くらいだろうか。占い師がパッと私の手に乗せていた自分の手を離し、うつむいていた顔を上げた。

「はい、どうもありがとう。もう手をしまっても大丈夫ですよ。」

占い師は手をプラプラさせながら空を仰いでいたが、申し訳なさそうにこう言った。

「あー、その、ごめんなさい。あなたはとても難しい運命の持ち主で、これをあなたに教えてよいのかわかりません。これをあなたに教えることであなたが不幸になるかもしれないし、逆に不幸な運命から逃れられるかもしれない。それでも聞きたいですか。」

そのときの私は酔っていたこともあり、「千円払うのに何も聞かないわけないでしょ」とタンカを切った。

「わかりました。後ろのお友達は聞かないでいただいてよろしいですか。聞かないように、気をつけていただければ結構です。私も聞かれないように気をつけますから。」

A子はイヤホンをかけて、声が聞こえないようにしてくれた。

以下が、私の占いの結果だった。

「まず、お断りしますがわたしはあなたの寿命や結婚適齢期を手のひらのシワから判断することはできません。あなたの人生がどれだけ波乱万丈になるかは私には全くわかりませんが、これからお教えすることは間違いのない運命で、そしてそれはあなたの過去に由来するものです。

あなたは二度死にます。いや、あなたにとっては一度目は死ぬというべきではないのか…。とにかく。一度目は病死か事故死か何かはわかりませんが。ただ、二回目は家族から殺されます。

あなたを殺すのはあなたの子供であり、その子供はあなたを殺した自覚もなく、また殺したことを憶えてもいないでしょう。

あなたがそうであるように。

あなたの父親はすでに他界していますよね。亡くなったのはあなたがまだ幼いときで、あなたは父親のことをまるで憶えていないでしょう。

病死か事故死か何かはわかりませんが、『普通に』亡くなっていますね。ああ、無神経な言い方ですみません。

生きているというのは、動いているということです。では死んでいるというのは、動いていないということかというと、そうではありません。いや、世間一般にはそうなのかもしれませんが。しかしあなたについて言えば、動いていないということは、生きていないということなのです。そして、そう定めたのはあなたの先祖なのです。

ここからはあなたの先祖の話になりますが、あなたの先祖は法を定める責務を負った者の一人でした。その法というのは憲法とかそういう類ではなく、人間の犯してよい摂理の範囲を取り決め、それを超えたものに対する罰則を定めた法です。

あなたの先祖が定めた法は『生きていない者を殺すことを禁じる』ことです。

生きていないというのは、『一般に』死んでいるということです。もちろん、あなたにとっては違います。

例えば、病気で絶命して『生きていない』者の心臓に悪意のもとにナイフを突き刺したとしましょう。すると、ナイフを刺された生きていない者はたちまち『死んで』しまいます。

この時、あなたの先祖が定めた方が発現し、その悪意の者は法によって裁かれるでしょう。

これを定めたあなたの先祖は、これを定めるにあたり『死んで』います。

よくいえば犠牲者ですが、悪く言えば生け贄です。

さて、あなたの話に戻りますが、あなたは実の父親を殺しているのです。幼い頃で覚えていないでしょうが、もう動かなくなった父親の口に毒を含ませたのです。もちろんそれはあなたの意志ではなく、その毒を用意したのもあなたの母親です。

あなたの一族はそれを繰り返しているのです。それを途絶えることなく繰り返し、その法が廃れることがないように守っているのです。

あなたの血筋は、立法者である先祖の犠牲によって守られているので裁かれませんが、その代わりに後継者は同じ運命をたどることになるのです。

あなたは必ず結婚し、子供を授かり、子供が幼いうちに死に、そしてその子供に殺されるのです。

そしてあなたの子供は、同じように自分の子供に殺されるでしょう。

繰り返しますが、私にはあなたの結婚適齢期や何歳で死ぬかは全くわかりません。

でも、このまま何もしなければあなたは必ず結婚して、子供を産んで、そして死んだ後に子供から殺されるのです。」

まー、開いた口がふさがらないってこのことかって思ったよね。最初こそ何言ってんだこのおっさん、という感じだったけどなんだか思い当たる節があるような気がしてきて、父は私が2歳のときに死んでるし、父方の祖父も、その曾祖母も同じように亡くなっていると聞いた覚えがあった。

私の母は私が彼氏できないって話をすると「大丈夫、あんたは絶対結婚できるから」と言っていたのを思い出した。

「二度死ぬって…そのあとってどうなるんですか?」

私がした質問はそれだけだった。

「怖がることはありませんよ。あなたのような運命を背負った人は他にもたくさんいます。ただ、望む望まずにかかわらずこの運命を背負っているあなたのような人が、不憫でなりません。」

A子との帰り道、

「あたし、音楽聞くふりして実は占いの内容全部聞いてたんだ~。すごいじゃん!!90までは死なないんだって?結婚もすぐできるって言ってたじゃんか~」

最初はからかっているのかと思ったが、どうやらA子には本当にそう聞こえていたらしい。

母親に電話で問いただすとか、そういうことはやってない。頭おかしいって思われるかもしれないから。

あの占い師は今頃どうしているのだろうか。写真でしか憶えていない、私の父に似たあの占い師は。

私にはいま彼氏もいないし、もちろん子供もいない。まだまだ生きられるのだ。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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