中編3
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お礼参り

Oさんは一人暮らしをはじめてから、実家の祖父に長いこと逢っていなかった。

その祖父が夢枕に立ったというのが、ある夏の終わりの事だった。

妙にニコニコと照れ笑いのようなものを浮かべて、お菓子などを持って挨拶に来たのだという。

「爺ちゃん、そんなにいっぱい荷物を抱えて…どうしたんだい?」

急なことに驚いて、Oさんが聞くと…

「これから長旅に出るんでね」と答えて、あっという間にどこかへ去ってしまった。

そんな夢を見たため、無性に祖父の安否が気になった。

ちょうど翌日が休日だったため、久方ぶりの帰郷を決意した。

実家に着くと、我よ我よと親戚たちでごった返していた。

小さい時に会って以来の懐かしい親戚たちも大勢いた。

「こりゃ一体、何の騒ぎだい?」

久しぶりに会う父に聞いてみると、不思議なことに首を傾げていた。

「どうやらみんな、爺さんが夢枕に現われたって…そう言うんだな」

当の祖父といえば、その騒ぎに寝床から起きてきて相変わらずニコニコ笑っていた。

「そろそろ婆さんのところへ旅立とうと思ったんだけども、まだ早いって突き帰されてしまってな」

少し恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべていたという。

久方ぶりに親戚一同が会したということで、馬鹿騒ぎの宴会がはじまった。

「爺ちゃん、まだ死ぬのは早いよー!」

そんなことを口々にいいながら、祖父を囲んで大盛り上がり。

みんな酔っ払って、大広間で集まって眠っていた。

ふとOさんが目を覚ますと、祖父がボーッと佇んでいた。

何か荷物を抱えて、皆が寝ているところに一人一人何かを配って歩いている。

何だか懐かしそうな笑顔を浮かべ、親戚たちの寝顔を眺めてはそれを近くに置いていく。

「何をしているんだろうな…?」

そう思いながら見ていたが、やがて睡魔に負けてOさんは意識を失った。

その早朝に目を覚ますと、Oさんの近くに懐かしいものが置かれていた。

「小さい頃によく遊んだ、ブリキのおもちゃだった」

祖父が買ってくれて、昔はいつも遊んでいたのだが、いつの間にか忘れてどこかへなくしてしまったものだったという。

懐かしいな…

そんなことを考えながら見回すと、親戚たちの寝ている傍にもそれぞれ懐かしい思い出のありそうなものが一つずつ置かれていた。

それからしばらくして…

父が、寝床で眠るようにして亡くなっている祖父を見つけた。

なんとも幸せそうな、安らかな顔で逝っていたそうだ。

しかし医者の話では、どうもおかしいという事だった。

昨日あれほど祖父を囲んで馬鹿騒ぎしたはずだったが、その祖父はその前夜にはもう亡くなっていただろうというのだ。

「馬鹿な事言ってんじゃねえぞ、このヤブ医者が!」

そんな事をわめき出す親戚も出はじめ、えらい騒ぎだったという。

Oさんも正直、信じられないという気持ちだった。

あんなにニコニコして、みんなと一緒に騒いでいたのに…

前日の騒ぎとは打って変わり、みんな号泣の大掛かりな通夜と葬式になった。

「あんな風にみんなを呼び出して、最後にお礼まで配って歩いて…爺さんらしい最期だったかもな」

そう言って、Oさんは懐かしそうに笑った。

怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん  

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