短編2
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いけども、いけども

 

小学生の頃の話。

秋も深まったころ、沈みそうな太陽の赤い光がやけに眩しかったことを覚えている。

 その頃、我が家の門限は5時までだったのだが、ついつい学校で遊びすぎて校門が閉まるような時刻になってしまった。

時間がもっとあればと帰るのを惜しんだが、

親に怒られたくはない。私はかけあしで家にむかった。

 焦っていたこともあり、

通学路の脇にある田んぼを横切って近道をすることにした。

ちょうど稲の刈り取りも終わった時期だった。

私は迷わず田んぼに踏み込んだ。

 初めは柔らかい土の上を急がなければと走っていたのだが、

途中から何かがおかしいことに気が付いた。

 どうにも田んぼの向こう側に近づいている気がしない。

見る限り、向こうまで20メートルもないはずなのに、

まるでその場で足踏みをしているようだ。

私はとにかく焦った。何としてでも向こう側へ近づこうとがむしゃらに走った。

だが、田んぼの土に足をとられすぐにへばってしもうのだった。

 それからどのくらいたっただろうか、

すでに半泣き状態でよたよた歩きながら私は途方に暮れていた。

正直ちびりそうだった。

冷や汗というものが本当に冷たい物だと初めて知った。

足ががくがくふるえて真っすぐ歩けない。

疲れた。

 徐々に冷静になり始めた頭で休もうかと考えた。

思えば焦るあまり、これまで一度も止まっていない。目に見える景色はなにも変わっていないのに・・・。

   「ドンッ」

 そんなことを考えていた矢先、どこからかにぶい音が聞こえた。見ると向かい側の道に車が止まっている。何だと思い一歩踏み出すと自分が前進した。たった一歩分の前進だが、進んでいると激しく実感した。相変わらずへとへとだったが、一秒でもそこにいたくないという思いから全力で田んぼを走り抜けた。

 道路まで何とかたどり着いた私はそこで狐が死んでいるのをみつけた。

やせ細った狐だった。どうやらさっきの音は車がこの狐を撥ねたときの物らしい。車は走り去ったのか見当たらなかった。

 私の家の付近には山などない。狐を見たのも初めてだった。だから、なぜあんな所に狐が居たのかはさっぱりわからないが、その数日後、テレビで某アニメーション映画会社の狸合戦を見てこう思った・・・。

 あれは、もしかして化かされたのか・・・。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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