中編6
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いわくつきの本

遺産相続で浮いてた古本屋を貰って、二年目。

生涯独身だった叔父が道楽で始めた店は辺鄙な場所にあって、誰も引き取る気がなかった。

就活に失敗した自分は軽い気持ちで、まぁ食い扶持くらい稼げればいいかなくらいの気持ちで、そこを継いだ。

元々古書が好きだったし大学の四年間は本屋でバイトもしてたから、ズブの素人よりはマシだろうと周りも渋々納得してくれて、晴れて自営業。

連盟なんか参加してないその店はもっぱら持ち込みを買い取るスタンスだったみたいだけど、自分はネットを使って売買を始めた。

とりあえず送ってもらって、査定して買い取る。郵送料もろもろとのバランスも考えての査定は意外にも奥が深くて、なんだかゲーム感覚だったな。書店経営シミュレーション、みたいなね。

ある日やってきた荷物のなかに、奇妙な木箱が混じってた。朱塗りの見るからに高そうな、古い木箱だった。

ゆくゆくはそんなのも扱う本格的な店にしたかったけど、今はマンガだの文庫だのが入り乱れた雑多な貧乏古本屋。買い取れるか?と思いながら、でも本来の趣味心がくすぐられて、ワクワクしながら箱を開けてみた。

そこには紐で閉じられた三冊の本が納められていた。

紙質からして、大正、いやもっと前?相当古く、しかも直筆の一点ものっぽかった。

その証拠に半紙にも似た材質の紙に、筆で描かれた表紙の一部が生々しく風化している。

これはなんか凄そうなのが来たな…と、一抹の不安を覚える。手違いで入っちゃった大事なものかも知れない。

本当はそう思った段階ですぐに連絡をとるべきだったんだろうけど、好奇心に負けてまず中身を確認しようと思った。

恐る恐る本を手にする。ページ数が多いせいか、見た目よりも随分と重い。まるで水でも吸ったみたいにずっしりと手応えがあって、質感もザラザラしてない。どう見ても粗い紙なのに、すべすべなんだ。

表紙には赤い墨で龍に足の生えたような、奇妙な生き物が描かれてる。タイトルだけは黒墨の力強い文字で、「〇〇〇寺・録」と銘打たれていた。

ページを繰って読み進めてゆけば、どうやらそれはある寺の僧が、蔵の資料をまとめて個人的に解釈したような……いわば、自分の寺の歴史にまつわるエッセイみたいなものだと解った。

自分は寺には詳しくないし、これが果たして歴史的に価値のあるものなのかも検討がつかない。でも読み物としてはとても魅力的で、すぐその世界に引き込まれた。

〇〇〇寺は、その昔、あの太閤秀吉からも格別な引き立てがあった寺らしい(どうやらその記録の順番から察するに、本自体は明治くらいに書かれたものじゃなかろうか)。

秀吉は何回も寺を訪ねており、そのうち幾度かは泊まっていくこともあったらしい。その供として来た侍・A(仮)と寺に出入りしていた男の娘が惹かれあい、身分の差を気にしてしばらくは隠れて付き合っていたらしいが、それが明るみに出た。秀吉は怒ってAを殺してしまい、寺の僧たちにも片棒を担いだのではないかと疑いをかけて、その頃あった土地の半分ほどを取り上げたそうだ。

その資料を受けて、著者は見解を書き記しているんだけど、この人は余程ヒマだったのか、檀家のリストを洗って情報を集めたらしい。そして娘の実家らしき家を突き止めたんだって。

著者が出かけていくと、その娘はAを後追いすることもなく普通に違う男と結婚したということが解った。

でも、それ以来その家系ではよくないことが起こりはじめ、御上に逆らって流されたり死罪になったりする人が多かったらしい。著者はそれを、裏切られた(?)Aが娘の不貞を呪ったんじゃないかと考えているみたいだった。

よくわかんないけど、後を追うべきとAは考えていたのかも知れない、みたいな感じでその事件については締めくくられていた。

そこまで読んだ時、何故か急にさっと背中で風が吹いたような気がしたんだ。前方から吹いたみたいな風向きだったんだけど、顔とか肩とかにはそれを感じなくて、背中のあたりだけヒュッと動いたっていうか……

なんとなくイヤな気持ちになって、本を一度置いて、とりあえず送って来た人に確認を取るために席を立った。

言いしれぬ恐怖みたいなものを感じて、背後は振り向かないようにして。

で、電話かけたら、どうにもそこも同業者だったらしいの。送り状の名前は普通の氏名なんだけど、それは店主の名前で、小さな古本屋さんをやってるみたい。

てことは、間違いではなくて本当に売りに出されたもの。ちょっと考えたけど、相手が相手だし、査定でなんか問題になると嫌だなあと思って正直に聞いてみることにしたんだよ。

「あの、これって価値のあるものなんでしょうか?最近古本屋も始めたばかりだし、寺とかにも詳しくなくて……」

『うーん、私も寺には疎くて。でも、秀吉って名前あったし、もしかしたら歴史的に価値があるかも?』

「いくらくらいで査定したらいいかと……」

送り主はずっと店にあったけれど売れないで残っていたものだから、他の本のオマケみたいに思ってくれればいいと言った。

自分はちょっと腑に落ちなかったんだけど、著者の文体とかが気に入ってたし、売れないまでも自分のにしちゃえばいいかなあって考えて、結局それを引き取ることにしたの。

今考えたら変だなって思わないのはおかしいんだけど(歴史的に価値があるかもしれない本をオマケにするとか……)、その時は相手が古本業の先輩ってことで安心してたのかも知れない。

そういうもんか、とさえ思ってた。

それからも相手と別の話題(業界の話とか経営の話とか)で盛り上がってしまって、電話を終えた頃には夜の11時。

早く済ませないといけない査定がいくつか残ってたんだけど、疲れてたし、今日は寝るか、と軽く片付けて二階(居住スペース)に上がった。

寝る前にぱらぱら例の本をめくって、挿し絵を見たりしてた。

絵は必ず赤い墨なのね。1ページだったり見開き使ってたりして、結構真剣に描いてるみたい。

で、そのどれもが妙な動物?妖怪?なの。八本足の鹿?とか、やたらデカい人間の耳をつけた鳥とか。

しかも、全然脈絡がない。飢饉の章なのに妖怪描いてたりする。さすがに何かキモいな……って思いだして、本見るのは辞めて大人しく寝る態勢に入った。

寝つきがいい方なんですぐに眠りについたんだけど、その夜変な夢見たんだよ。

見渡す限り草原が燃えてる夢。そこに裸足で立ってる。夢のなかで自分は、このままだと足火傷するわって思って草履を探してる。すると場面が変わって、目の前が真っ暗になった。そこで男の声が聞こえるんだよ。

「なぜか、なぜか」って。

何か答えなきゃって思って、「何が?」って尋ねかえした。その自分の声が女の、聞いたことのない声になって、ハッとする。そこで目が覚めた。

 あたりはもう明るくなってて、変な夢だったなぁって思いながら起き上がった。

そしたら背中がなんかチリチリ痛む。痺れたのか?と触ってみたんだけど、痺れてるってよりは、やっぱり痛む。

仕方なく鏡の前まで行って、背中を確認してみたんだ。

そこには火膨れしたみたいな、ミミズ腫れみたいなアザが出来てた。

しかも右肩から左の腰にかけて、まるで刀でやられたみたいな……

その瞬間、あの本のこととか、さっき見た夢とか、昨日電話した店主のこととかが一気に頭に浮かんで来た。

わけもわからず、物凄く怖くなった。

本掴んで、その足で下に駆け下りて、入ってた木箱もろとも外に投げた。

道路の真ん中に転がったそれは、太陽のせいだろうけど、どす黒い血の色に見えた。

本当のオカルト好きならこれを機に粘着かってくらい調べて、謎ときとかして、全部の辻褄を合わせたいと思うだろう。

でも、アザを見た時に「あ、これはあの本のせいだ」って理解してしまって、一刻も早くあれをどっかに捨てたくなった。

その日は店も開けずに布団のなかで過ごしたけど、次の朝、恐々店の前の道路を見たら木箱も本もなくなっていた。

誰かが持っていったのかも知れないけど、自分は、あの本が「自分で」どっかに行ったような気がしている。

長いうえに意味不明ですまん。

でも実話。

怖い話投稿:ホラーテラー 桐屋書房さん  

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