中編7
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見るな2(コピペ)

――行きたくない……。

その思いは、家に近づくにつれ、段々強くなってきた。

冷や汗が背中を伝う。

「もうすぐよ。その角を曲がったら」

曲がった瞬間、

A子はビクンとした。

――あれだ……。あの家だ。

家が整然と立ち並ぶ中、どれかと言われなくても分かった。

車を降り、家の前に立つ。

――いやだ……。入りたくない……。

あの小3の時の恐怖が蘇った。

――これは……。ヤバイ。

「さっ、どうぞ」

B子が玄関のドアを開けた瞬間、

ドッと中から風が、というか、

圧力が弾けた。

「フツーのひと」には感じられない感覚だ。

居間、仏間、台所、トイレ、風呂、そして2階と見て回る。

ざわざわと悪寒が走る。

ガンガンと頭痛がする。

2階に3部屋あるうちのひとつに入った瞬間、

――ここだ……。

窓際のソファに誰かがうずくまっているのが見えた。

深く頭を垂れて腰掛けている。

【それ】がそろそろと頭を上げる。

――見てはいけない……!

足が動かない。

目も逸らせない。

冷や汗がこめかみを伝う。

ガンガンガンガン……キーキーキーキー……ガーガー……キャーキャー……ぐわんぐわん……

耳元でうるさく雑音が鳴っている。

【それ】の顔がだんだん上がってくる。

【それ】の顔が見え……。

――顔を見てはダメだ……!

必死で念じる。

呪縛が解けた。

すぐに目を逸らす。

「A子さん、大丈夫?!」

「下へおりましょう……」

「顔が真っ青よ……! 大丈夫……?!」

「ええ……。 とにかく外へ出ましょう……」

「おうちまでお送りするわね」

「ええ、助かるわ、ありがとう……」

外へ出、車に乗り込もうとして、ゾクッ……とした。

首筋に視線を感じる。痛いほどの。

恐る恐る家を振り返り、視線を巡らすと、

2階の、先ほどの部屋と思しき窓から、人影がじぃっとこちらを見下ろしている。

黒い影だけで、顔は見えない。

身体を貫くように、また悪寒が走る。

A子はやっとの思いで視線を断ち切ると、車に乗り込んだ。

車に乗り込むと、ぐったりとシートに沈み、

目を瞑る。

心の中でまじないを唱え、拾ってきた小さなモノを祓う。

家から遠ざかるにつれ、

だいぶ気分が良くなってきた。

「A子さん、具合はどう……?」

「ええ、もうだいぶ良くなったわ……」

「……、やっぱり、あの家……、何かいるのね……?」

「……ええ……。それもかなりのが……。わたしがどうにかできる次元のモノじゃないわ。

 すぐに引っ越さなきゃダメ」

「そうなの……。わかったわ、主人と話してみる」

「うん、すぐに、早くね」

「わかった……。さあ、A子さんのおうちに着いたわ。今日はごめんね、ありがとう……!」

「送ってくれてありがとう」

A子は、そのまま家へ入らず、

真っ直ぐサキの家へ向かった。

A子が玄関の前に立つと、ドアが開き、サキが立っていた。

「なんかひどいのに会って来たねぇ」

「うん……」

「あれはダメだよ。どうにもできない。関わっちゃダメだよ」

「うん……。わかってる……」

「さ、とりあえず上がって」

A子は、家に上がると、居間のソファにぐったりと身体を横たえた。

「ほら、これ飲んで」

A子は身を起こした。

「なに? お湯?」

「飲んでご覧」

「……しょっぱッ……!」

「うん、お湯に塩を溶かしたものさ。体の中からも清めないとね」

「そうなんだ……」

「ほら、これ持って行きなさい」

サキはエプロンのポケットから何かを取り出して、

A子へ手渡した。

「……いし……?」

「うん、そう。 お守りだよ。 なるべく身につけて、眠る時は握って眠りなさい」

「うん、わかった。ありがとう」

「あの家へはもう行ってはダメだよ」

「うん……。でも、B子さんはどうなるの?」

「どうにもできないよ、あそこにいるうちは」

「そっか……」

「絶対行っちゃダメだからね」

「うん」

「さ、早く帰ってゆっくりしなさい」

「うん。ありがとう」

A子は、サキの家を出ると、

家へ帰り、風呂へ入り、食事もしないまま布団へ入った。

「いし……。石を握って眠らないとね……」

フト気づくとA子はあのドアの前に立っていた。

――開けてはいけない……!

その意志とは裏腹に、A子はノブに手をかけてしまうのだった。

そして、ドアを開くとやはり、窓際のソファには誰かがうずくまっている。

あの時と同じように……。

そして、【それ】は、ゆっくりと顔を上げる……。

――顔を見てはいけない……!

そうは思うのだが、

やはりあの時と同じように、

体はまったく動かず、視線すら動かせないのだった。

そうしているうちにも、【それ】は徐々に顔を上げ……。

――顔が見えてしまう……!

「いやぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!」

叫んで目が覚めた。

A子は自分のベッドに寝ていたのだった。

「ゆめ……」

手にはしっかりと石を握りしめている。

それ以来、

A子は毎晩その夢を見るようになった。

――眠るのが怖い……。

反面、

あれは誰なのだろう、という思いは常にあった。

見てはいけない、でも見たい、と。

B子はというと、

サキの口添えもあり、早々と引っ越した。

引っ越してしばらくしてから来た電話でB子は、

「やっぱり家のせいだったのね……。

 実は、主人との仲もうまくいってなかったんだけど……、引っ越してからはなぜか、なんでそんなに二人とも神経質になっていたんだろうねー、ってお互いに話して。

 体の調子も良くなくて、気が晴れる日はなかったんだけど、いまは毎日が楽しいわ!

 本当にありがとう!

 サキさんにもよろしく伝えてね!」

と。

にも関わらず、A子の毎晩の悪夢は終わらないのだった。

サキはそんなA子の気持ちを見透かしたように、

A子の顔を見るたび、

「あの家へは行っていけないよ」と言い、

「なぜ?」と聞いても、

「行ってはいけないよ、絶対に」としか答えないのだった。

――あれは誰なのか……。

こんなにもひとに害を与え、

自分を苛むあれは誰なのか。

何者なのか。

ついに、A子は、

もう無人となったその家の前まで行ってみた。

来てしまった、と言うほうが正しいのかもしれない。

気づいたらその家の前にいた。

――どうせ入れるわけがないんだし。

と思った瞬間、

バタン!!

玄関のドアが開いた。

――入ってはいけない。

それでもやはり、

その気持ちとは無関係に体が勝手に家の中へ入っていくのだった。

何かに導かれるように、あのドアの前へ。

夢で何度も見たあのドア。

あれ以来毎晩見たあの見慣れたドア。

――開けてはいけない。

いつも通り、

その思いを差し置いて、

手はノブへかかり、

ドアを開けるのだった。

そして、やはり、窓際のソファには誰かが。

【それ】がゆっくりと顔を上げる。

――見てはいけない……。

――でも……。今日は見るんだ……! そのためにあたしは今日来たんだ……!

【それ】の顔が見え……そうに……。

いつもならここで目が覚めるが、

今日は夢ではない。

――しっかりと、気を確かに。 何を見ても動揺しないように。

自分に言い聞かせ、

【それ】を注視する。

【それ】の顔が上がりきった。

窓を背にしているので、

逆光になってよく見えない。

口許が見えた。

歯が見える。

口を開けているのだ。

いや、笑っているのだ。

ニヤニヤと。

視線を上へずらす。

――え……。

――これは……。

「いやぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!!」

A子は崩れるようにその場に倒れた……。

――……、っという話。

――え? で? それで、【それ】は何だったの? 誰?

――A子さんはそれからどうなったの?

――A子さんはそれでちょっと気が変になってしまったらしいよ。

――で、【それ】は?

――【それ】はね……。

――当のA子さんがそういう状態だから……、きちんとした話は聞けなかったみたいだけど……、その後のA子さんの言動から察するに……、

――察するに……?

――【それ】は「A子さんそのひと」だったのではないか、と……。

――……。

――あーあ、聞いちゃったねこの話。ヤバイよー。

――エッ……?! ヤバイって何が……?!

――……夢みるよ……。

――……、ってなんの……?!

――だから、A子さんが毎晩見た、っていうあの夢。

――えええええええっ!! いやだよ、そんなの!

――だから最初に言ったじゃん、聞くとヤバイよ、って。 それでもいいって言ったじゃん。

――だって……。

――泣くなよ……。

――まあ、俺は少なくとも大丈夫だから。

――え、なんで?!

――石を握って眠ってるから。

――……、っていまも……?!

――ああ、もちろんさ。

――この話、聞いたのいつ?

――……三年前。

っと、いうわけでわたしも、

飼っていた犬の形見の石を握って眠っているのでした……。

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※冒頭から最後まですべて創作です。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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