中編5
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儀式

海沿いの漁村から上京してきたという同僚Sの話。

Sが小学生の頃に良く遊んでいた友達のA君。

これが、かなり変わった少年だったという。

初めてそう感じたのは、ある夏休みの事だった。

日差しの強い中、A君を含めた友人数人と外で遊んでいた。

ふと気づくと、A君が道端でしゃがんで何かを見ている。

「何してるの?」

後ろから近づいて、覗き込む。

小さいスズメだろうか…

既に干乾びた死骸が、道端に転がっていた。

(気持ち悪いな〜…)

思わず鳥の死骸から目をそらすと、A君の目線が視界に入った。

しゃがみこんだまま、鳥の死骸をじっと見つめて何かブツブツ呟いている。

何を呟いているのかはさっぱり分からなかったが、妙に真剣な眼差しが何だか気味悪かった。

ひとしきり何か呟いた後、鳥の死骸を掴みだした。

硬直した翼や足を無理やり大きく広げて、標本のように地面に張り付けた。

A君の行動の異様さや雰囲気から、Sも友人達も黙って見ているしか無かった。

たまに地面をバンバン叩きながら、奇妙な仕草を繰り返す。

しばらく繰り返すと、ようやくA君は落ち着き大人しくなった。

何をしていたのかと聞いてみると、死者を蘇らせるための儀式なのだという。

そんな事があってからだろうか…

A君はクラスの中でも浮きはじめ、友達も次々と離れていってしまった。

しかし、それでもSは何となく悪い気がしてA君から離れられずにいた。

「ちょっと、いいかな…?」

そんな誘いをA君から受けたのは、ある日の放課後の事だった。

Sは少し戸惑いながらも、半ば強引に空き地のほうへと連れて行かれた。

ズルズル…

どこに隠していたのか、A君がダンボールの上に乗せたものを引きずり出してきた。

ツンと腐臭が鼻をつく。

それは、腐りかけた大型犬の死骸だった。

A君は地面に奇妙な円陣のようなものを描き、中心に犬の死骸を乗せる。

ブツブツ…ブツブツ…

何か奇妙な呪文のようなものを静かに呟き続ける。

ジャラジャラ…

ポケットから数珠を取り出すと、それを片手で掲げながらバンバンと犬の死骸を叩く。

やがて夕暮れに染まるまで、その奇妙な儀式は続けられた。

ピクン…ピクン……

わずかに、犬の死骸が動いたような気がした。

A君も気がついたようで、更に力を込めて儀式を続ける。

ビクンッ…

一度だけ大きく揺れた後、死骸は全く動かなくなった。

その後もしばらく続いたが、やがて辺りも暗くなりはじめてきた。

もう無駄だろうと思ったのか、A君はガッカリしたような顔をしていた。

犬の死骸をそのままにして、Sを置いて帰っていってしまったという。

それ以来Sは、なるべくA君に近づかないように避け始めた。

何だか分からないが、深く関わると良くないだろうと思ったのだ。

小学六年になる頃、A君の奇行は更に熾烈を増した。

交霊や呪術などといった気味の悪い本をよく読み、何だか奇妙なものをノートに記したりしていたそうだ。

そんなある日、SはまたしてもA君に誘われた。

「今日のはすごいから…」

そんな事を言って不気味な笑みを浮かべるA君。

当然断ろうとしたのだが、無理やり腕を引っ張られてしまい、嫌々行くことになった。

そこは、今までほとんど来たことのない廃工場。

かなり古い建物であり、人も滅多に来ない寂れた場所だったという。

建物と建物の隙間…

ほとんど人目につかないような場所へ、A君は入っていく。

恐る恐るついていくと、何やら嫌な臭いが漂い始めた。

人間がうつぶせになってそこに転がっていた。

皮膚はマネキンのように青白くなっており、大量のどす黒い血が地面に染みていた。

「たぶん、飛び下り自殺…」

A君が、死体を見下ろしながらそんな事を呟いていた。

持っていたカバンの中から、白くて大きな布のような物を出して死体にかぶせる。

「ちょっと、何するんだ?やばいよ…」

Sは止めようとするが、A君はまるで聞く耳を持たない。

蝋燭を何本か取り出し、死体の周りに置いて灯す。

「…死者……魂を………」

死体の前に正座して何かを呟いているが、所々しか聞き取れない。

どれだけ経っただろうか…

押しつぶされるような重い空気の中、Sは立ち尽くして身動き出来ずにいた。

…死体の周りに灯されていた蝋燭の炎がフッと一斉に消えた。

ぞぞぞっ…

得体の知れない寒気が、急に背筋を凍りつかせた。

すすすぅーっ…

死体にかぶせていた布が、かすかな音を立てて剥がれ落ちる。

がばっ…

突然死体が起き上がったと思うと、座ったA君の上に覆いかぶさった。

「ひぃいいいいーーー!」

絶叫を上げながら、振り払おうとするA君。

しかし大きな身体は子供の力ではビクともしない。

ぞぷっ…

死体は覆いかぶさったまま、A君の首筋に剥き出しの歯で噛みついた。

噛み跡からみるみる血があふれ出し、A君はその場に倒れた。

死体は立ち上がりフラフラと歩き回っていたが、数秒経つとドサッと倒れて動かなくなった。

その後A君は病院に運ばれたのだが、学校には来なくなってしまったという。

あの死体はやはり飛び下り自殺だった。

A君と一緒にいたSも、警察にいろいろ事情を聞かれて大目玉を食らったそうだ。

しかし、それで全ては済んだと思っていたある日のこと。

真夜中、部屋のどこかから奇妙な声がブツブツと聞こえてくる…

ハッと布団から飛び起きると、部屋中を青白く光る人魂がいくつも浮かんでいた。

声はどこからともなく延々と聞こえており、それに合わせるように人魂がフワフワと飛び回る。

Sはその光景に唖然とし、一声も出せないまま気を失った。

A君の葬儀が行われたのは、それから数日後のことだった。

病院で発狂した末、なぜか霊安室で体のあちこちを噛み千切られて事切れていたそうだ。

果たして、A君はなぜ奇妙な儀式をしきりに繰り返していたのか…

全ては一切謎に包まれたままだという。

怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん  

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