・・・また今日も虐められた。
勉強も運動も苦手な僕は、恰好の虐めの対象だ。
歯向かう勇気も、力も無い。
いつもただ、殴られ、蹴られ・・・
薄笑いを浮かべるアイツらが飽きるまで、耐えて、耐えて・・・
そんな毎日が嫌だった。
勇気も力も無い自分が嫌だった。
現実に逃げ場の無い僕は、いつも空想の世界に逃げ込んでいた。
(大人になったら仕返ししてやる!)
(みんなが大好きなSちゃんと結婚して、あいつらを見返してやる!)
空想の世界では、僕は無敵だった。
全てが僕の思い通りだ。
今日も独り、自分の部屋で空想の世界に逃げ込んでいた。
その時、
(・・・ガタッ・・・)
背後で音がした。
人一倍 臆病な僕に、振り返る勇気など無い。
(・・・ガタッ・・ガタッ・ガタガタガタガタガタ・・・)
音はさらに激しくなり、そして納まった。
振り返ることは出来ない・・・でも、でも、何かがいる・・・
僕は恐る恐る、自分が掛けている眼鏡に反射して写る その『何か』を見た。
(・・・こ、この世のものじゃない!・・・)
それだけは はっきり分かった。
頬は白く、身体は真っ青だ。
目が異様に大きく、頬からは触覚のような、不気味なものが生えていた。
僕はガタガタと震え、息が出来ないくらい苦しくなった。
その『何か』は、机の引き出しからズルズルと這い出してきた。
手足の指は無く、頭は異様に大きい。
一歩一歩近づいてくるその足は、床から浮いているように見えた。
(・・・ひぃ! 来るな、来るなぁ~!!!)
叫んだつもりだったけど、声にならなかった。
およそ血が通っているようには見えない青い身体、生き物じゃない。
絶対、生き物じゃない!
僕は絶望した。
背後に化け物がいる恐怖・・・
空想の世界なら、僕は無敵なのに・・・
こんな化け物、簡単に倒せるのに・・・
(・・・僕は今から、この化け物に殺されるのか・・・)
死について、今まで考えたことは無かった。
虐めは辛かったけど、自殺とか、そんなこと考えもしなかった。
だって、空想の世界では無敵なんだもの。
そこへ逃げ込めばよかったんだもの・・・
恐怖を通り過ぎて、頭が真っ白になった。
今までの、さまざまな空想が頭に浮かんだ。
あんなこと、こんなこと・・・
大空を自由に飛びまわる鳥たちを見て
(羽があったらいいなぁ・・・
アイツらに殴られなくてすむもんなぁ・・・)
そんなことも空想したっけ・・・
でも、そんなの全部叶いっこなかったんだ。
空想の世界は、所詮ただの空想でしかなかったんだ。
今からこの化け物に殺される。それが現実なんだ。
ずっと虐め続けられる事と、今 殺される事、どっちが不幸なんだろう?・・・
でも、一度でいいから・・・
「空を自由に飛びたいなぁ・・・」
「はい、タケコプター。」
怖い話投稿:ホラーテラー ヤツラさん
作者怖話