中編6
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誰だお前

この話は俺が今までで一番怖かった話。

俺は当時中学2年生だった。

両親は幼い頃に離婚しており、母親と二人で暮らしていた。

なぜだか、父親の記憶は無い。

母親に

「お父さんはどんな人だったの?」

と聞いても、話してはくれなかった。

母親と二人で、貧しかったが、そこそこ楽しい家庭だった。

そんなある日の出来事だ・・・

俺は学校の部活から帰って来て、ご飯を食べ、風呂に入り、疲れていたせいか、すぐに眠りに着いた。

9時前にはもう眠りに着いた気がする。

その日の夜中に、異変が起きた。

キーン・・・キーン・・・

とする妙な耳鳴りで目が覚めた。時計を見ると午前2時頃。

そして急に金縛りに・・・

こんな事は初めてだったから、パニックになり、どうにか体を動かそうと必死だった。

その時・・・

カリカリカリカリカリカリカリ・・・

俺の部屋のクローゼットから何か音がする・・・

カリカリカリカリカリカリカリ・・・

クローゼットの中に何か居る・・・

中から扉を引っかいている・・・

「・・・・・・」

俺は必死に目を瞑り、早く朝になれ、朝になれと祈った・・・

ピピピピピピ・・・ピピピピピ・・・

いつの間にか俺は寝ていたらしく、目覚ましの音で目が覚めた。

「昨日のは、夢だったのだろうか?」

そう思いながら、学校に登校した。

でも決して夢ではなかった・・・

それから毎晩の様に、金縛りになり、クローゼットから音がするようになった。

カリカリカリカリ・・・

またクローゼットの中からひっかく音がする。

本当に何かいる。怖い・・・

そんな事が続き、睡眠不足になり、軽くノイローゼ気味になったが、誰にもこの事を言えずにいた。

その頃は相談などをする友達も居なく、母親に変な心配などかけたくなかったから、一人で耐えていた。

たった一人で、この恐怖に耐えていた。

クローゼットの中は怖くて確認など出来なかった。

でも、耐えられなくなってしまう出来事が起こってしまう・・・

そんな事が続いてから2週間が経ったある日。

俺は剣道部だったのだが、その日に部活の顧問から、次の大会のメンバーに加えられる事を伝えられた。

剣道をしていると、この恐怖を少し忘れられた気がする。

強くなりたいと思って始めた剣道。

自分でも強くなってきたと思っていたし、努力が認められた事で、凄く嬉しかったのを覚えている。

母親に言うと自分の事の様に、喜んでくれた。

それが、本当に嬉しかった。

その日の夜に起こった。

キーン・・・キーン・・・

また耳鳴り。そして金縛り。

変な話、軽く慣れていた。どうせ音がするだけ。

でも今日は違った。

バン!バン!バン!バン!

中から扉をもの凄い勢いで叩いている・・・

バン!バン!バン!バン!

いつもと違う空気に、俺の恐怖は最高潮に達していた。

その時

「・・・酷い・・・酷い・・・」

クローゼットの中から声がした・・・

とても低い声で、悲しい声だった。

「酷い・・・酷い!酷い!」

声が強くなる・・・扉を叩く音も強くなる。

そして

ギー・・・

ついに扉が開いた。

俺は扉から目が離せなかった・・・

いつもなら目を瞑れるのに、その時は瞑れなかった。

クローゼットの中から何かが出てくる・・・

ゆっくり、ゆっくり、俺に近づいてくる。

「・・・お・・・ば・・・酷い」

何かボソボソ言いながら近づいてくる。

暗くて姿はまだはっきりと見えない。

でもソイツとの距離は確実に縮まってきている。

「痛い・・・痛い・・・」

ボソボソ言いながらゆっくり近づいてくる。

そして

ついに俺の目の前にソイツが近づいた。

ソイツは俺の顔を覗き込む・・・

カーテンからもれる月明かりでソイツの顔が見えた。

ソイツは俺だった・・・

いや、俺の顔だった・・・

「誰だ・・・お前・・・」

俺は震える声でソイツに言った。

そしてソイツは口を開く。

「お前だよ」

そう言うとソイツは俺の前から消えた・・・

しばらく意味が分からなくて、呆然としていたが、一気に恐怖がこみ上げ、必死で母親の部屋に駆け込んだ。

寝ている母親をたたき起こし、涙で顔がグチャグチャになりながら、必死に母親にこれまでの出来事を説明した。

全部話し終わると、母親は涙を流しながら俺を抱きしめてくれた。

「ごめんね・・・」

そう一言言いながら・・・

そして一緒に俺の部屋に行く。

電気を付けるとクローゼットは開いたままだった。

そして母親はクローゼットの中を調べる。

一つのダンボールが開いている。その中を母親が調べる。

「やっぱり・・・」

そう言い、母親は一冊の古いらくがき帳を手に取り、俺に渡した。

その中には妙な物が描かれていた。

一人の男と子供が描かれており、男がその子供に虐待をしている絵だった。

全て真っ赤なクレヨンで描かれており、何ページも同じような絵が描かれていた。

そしてその絵の脇に

「ぼくじゃない」

と沢山書かれていた。

俺はこのらくがき張が何なのか分からずにいると、母親が重い口を開いた。

俺は幼い頃、父親に虐待されていたらしい。

幼稚園などにバレないように、顔以外の所を殴る、蹴るの暴行をしていたらしい。

母親も酷い暴力を振るわれていた。

それに耐えられなくなり、俺と二人で家を出たらしい。

父親を警察に訴え、父親は捕まり、今は何をしているか分からないらしい。

「もうあの人と私達は関係ないの」

と、母親は泣きながら俺に言った。

俺は幼い頃、一人でこのらくがき帳に絵を描いていたらしい。

その中身を見て母親は、俺からそれを奪おうとしたが、俺が必死に抵抗したらしい。

家を出るときも、そのらくがき帳を俺は握り締め、離さなかった。

「僕の宝物なんだ」

と言っていたらしい。

そして何年か経ち、そのらくがき帳を母親が見る事はなくなり、気になった母親が俺に

「あのらくがき帳は?」

と聞いても、俺は

「何それ?」

と、ポカンとしているだけだった。

その時から俺から、父親の記憶が無くなったらしい。

母親は辛い思い出だから、忘れてしまっているならその方がいいと思い、俺に父親の事は一切語らなかったらしい。

それを聞いて俺は涙が止まらなかった。

そのらくがき帳を握り締め

「ごめん・・・ごめん・・・」

と必死に謝った。

欠けていた何かが、俺の中に戻った様な気がした。

それからは変な事は起こらなくなった。

いつもの平凡な毎日に戻った。

でも俺はそれから、このらくがき帳を大切に保管してある・・・・

「それがこのらくがき帳だよ」

そう言うと俺の大学で仲良くなった友人がそのらくがき帳を見せてくれた。

本当にボロボロだ。

今日は久しぶりに友人と二人で、友人のアパートで飲んでいた。

暇になった俺達は何か怖い話をしようと言う流れになり、今の話を友人が話してくれた。

「いや、中は見なくていいや・・・」

そう俺は言い、友人にらくがき帳を返した。

俺はこの話を聞いて、怖いと言うよりも、凄く悲しいと思った。

友人は父親との酷い思い出を、自分じゃない誰かに押し付けたのだと思う。

でも今はその悲しい思い出を背負って生きている。

俺は心から友人を強いと思った。

こんな事があったから、友人は剣道部に入り、強くなりたいと思ったのではないかと思う。

そして強くなり、もう大丈夫だろうと、もう一人の友人が、友人の前に現れたのではないかと、俺は思う。

「もう寝るか」

そう友人は言い、友人の正面にあるテレビを消し、俺の顔を見た。

俺は少し、こんな事を俺が思っている事が恥ずかしくなり、視線を外し、写っていないテレビのブラウン管を見た。

そのブラウン管には俺を真顔で見つめている友人の顔があった。

友人は俺の方を向いているはずなのに・・・

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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