中編4
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暴走車

俺は32歳の会社員。俺の性格を表現するならば「正義感が強い」の一言に尽きる。

それは自他共に認めていることだ。

物心がついた頃から「正義」であろうとするプライドが強かった。

まぁ、「度を過ぎている」と言われることも良くあるが、気にはしていない。

俺は日常のふとしたときにマナー違反の輩を見かけると、注意をせずにはいられない。

電車内でのケータイ電話、ゴミのポイ捨て、歩行者を顧みない自転車の危険運転・・・。

そんな様子を目にすると自分でも無意識のうちに、もの凄い剣幕で叱りつけていることが時々ある。

他人なら見て見ぬふりをするような、コンビニの入り口付近にたむろしている生意気な若者たちに対しても、注意をすることもしばしばだ。

本人たちも多少の後ろめたさがあるのか、こちらが毅然とした態度をとれば、案外トラブルもなく解決するものだ。

そんな俺だが、どんなに注意したくても注意できないものがある。

それは街中を我が物顔で走り回る暴走車だ。

相手は車。

しかも、爆音を響かせながらかなりの猛スピードで走っている。

当然、注意をしたくてもできるはずがない。

暴走車を見かけるたびに怒りがこみ上げる。が、同時になにもできない自分にイライラが募る。

正義感の強い俺に比べたら、ただの地方公務員の警察なんてアテにはならんし・・・。

しかも、俺には過去に辛い経験がある。

我が家を逃げ出した子犬が、暴走車によってひき逃げされたことがあるのだ。

俺の目の前で・・・。

こちらにも過失があるのはわかっている。わかっているが、心情的には納得などできるはずがない。

暴走車がスピード違反さえしなければ、子犬が死ぬことだってなかったんだ。

だから、暴走車に対してはマナーを守らないことに対する怒り以上に、憎しみすら覚えているのだ。

ある日、俺は車を運転中に急に横から飛び出してきた子どもを避けようとして、危うく事故を起こしそうになった。

そのとき、ふと妙案が浮かんだ。

「これを利用すればヤツらにお灸を据えることができるかも」

交通ルールを守らなかった子どもをいつものように怒鳴りつけることも忘れ、俺はニヤリとした。

その日の夜、俺はあえて暴走車が多く出現する交通量の多い道路に向かった。

そして・・・

「来た!」

遠くからでも暴走車のはた迷惑な爆音が聞こえてくる。

暴走車が近づいてきたとき、俺はタイミングよく、道路に飛び出した。

というか、飛び出すふりなのだが・・・。

しかし、暴走車のドライバーは俺の行動に驚き、思わずハンドルを切る。

キキキィィィ~!!!!!!!!

タイヤはアスファルトを斬りつけ、何度かの蛇行の末、街路樹にぶつかる寸前でなんとか止った。

飛び出すふりをした後、すぐに物陰に隠れ、その様子を見ていた俺。

そして心の中で叫んだ!「急に止まれないスピードで走っているお前が悪い!」

怒った運転手は俺を探していたようだが、今さら探しても遅い。

今までの胸のつかえがストンと落ちたような、妙な高揚感に包まれた。

「ざま~みやがれ!迷惑運転をするお前が悪いんだ。俺はお前たちを正すために、あえて自ら危険を犯してるんだ。むしろありがたいと思え!」

俺はそれからほぼ毎日、この「お仕置き」を繰り返した。

時々、実際に軽い事故になり、器物を破損したり、関係ない車を巻き込むこともあったが、さほど罪悪感はなかった。

それより、ようやく暴走車に「勝てた」という喜びに満たされ、病みつきになっているのが自分でもわかった。

しかし、ある日、いつものようにしていた「お仕置き」でマズいことが起きた。

コントロールを失った暴走車が歩行者に突っ込んでいったのだ。

一瞬しか見えなかったが、6歳くらいの子どもと母親のようだった。

「まさか、あの親子死んでないよな・・・」

強い不安に駆られたが、悪いのは俺じゃない。「だって、実際に親子を引いたのは暴走車だからな」

俺は「この現場にとどまっていてはヤバイ」と思い、近くに駐めてあった自分の車に乗り込み、自宅へ向かった。

直線道路に入ったとき、ふと、自分の右足が重くなったような感覚に見舞われた。

目線を足元に移す。

!!!!!!!!!!!

そこには血まみれになった小さな男の子がいた。右足にガッシリとしがみついている。

俺はパニックになった。そしいて、事態はさらに恐ろしい方向へ・・・。

男の子はどんどん重くなり、それと共に右足は深く、深く、アクセルを踏み込んでいく。

いつのまにかスピードは裕に100キロを超えていた。

事態が飲み込めずパニックになりながらも、障害物をかわすためハンドル操作を繰り返す俺。

しかし、今度はシートの両側から白い手が伸びてきて、手首をガッシリと掴んだ。

恐ろしいほどの力で両腕は押さえつけられ、ハンドルはまっすぐになったまま、まったく動かせなくなった。

完全にパニックに陥った俺。

そしての顔の左側からニュル~と血まみれの女性の顔が!!!

「なんで罪もない私たちが死ななければならないの?」

俺は悟った。

「さっきの親子か」

そして、激しいクラッシュと共に、自分の命があと数秒で失われることも・・・。

怖い話投稿:ホラーテラー 未熟者さん  

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