長編10
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誰だお前 終

「・・・・え?」

何で友人の顔がテレビに映っているんだ・・・

友人は今俺の方を向いているはずだ。

だから顔がテレビに映るはずはない。

いや、俺と目が合うはずがない!

でもなんで・・・

「どうした?」

無言になってしまった俺を気にしてか、友人が俺に話しかけた。

「いや・・・別に・・・何でもないよ。」

そう言い、友人の顔を見た。

もう一度テレビを見る。

友人の横顔が写っている。

やはりさっきのは見間違えか?

あんな話を聞いたあとだからなのか?

それとも酒に酔っているせいか?

「もう電気消すぞ。」

「ああ、俺ももう眠いや。」

そう会話し、電気を消す。

ただの見間違えだ。

そう思い込み、その日は床に着いた・・・

朝目覚め、俺は午前中から授業があるため、友人の家を出て、自分のアパートに向かった。

友人はまだ寝ていたため

「じゃあまた昼に」

と置手紙を残して。

そして昼になり、昼飯を食べに大学の食堂に向かった。

食堂には友人が一人で、昼飯を食べていた。

でもなんだろう・・・浮かない顔をしている。

二日酔いか?

そう思いながら話しかける。

「おう、どうした?浮かない顔して?」

「ああ・・・ちょっとな・・・」

「二日酔いか?」

「ちげーよ、今日朝起きたらなんか部屋に置手紙があってさ・・・

ビールの空き缶も置いてあるし・・・頭痛いし・・・

でも俺、昨日酒なんか飲んでないし、誰にも会ってないんだよ。」

「は?昨日俺と飲んだじゃん。お前まだ寝てたから、起こしちゃ悪いと思って、置手紙置いたんだよ。」

「そうなのか・・・ああ、そうだったな。思い出したよ。はは・・」

そう言っている友人の顔は、何かに怯えている様な気がした。

「多分酒で記憶が無くなっているだけだよ。お前昨日やけに飲んでたし。

あ、そうそう、あのらくがき帳の話は怖かったよ。」

!!!!!!

「今なんて言った!おい、なんて言った?!」

それを聞くと友人は急に顔が強張り、大声で俺に叫んだ。

その大声のせいで、周りの視線が友人に集まった。

「おい、落ち着けよ。一体なんなんだよ!」

「・・・ここじゃちょっと・・・場所変えてもいいか?」

友人は何かを決意したような顔で、俺に話しかける。

その目は本当に怯えていて、焦点が定まっていない・・・

「ああ、いいよ。」

そして周りの目を気にしながら食堂を出て、普段誰も居ない、外にあるベンチに座った。

「信じてもらえないかもしれないけど・・・これは本当の事なんだ・・・」

そう俺に話すと、友人は語り始めた。

友人はあの出来事以来、たまに記憶がなくなるらしい。

昨日飲んだ事も、一切記憶にないらしい。

友人の記憶が無くなる時は、何か良いことが起こった時、自信が付いた時。

剣道の大会でいい成績を残した時、高校受験で見事受かった時。

大学受験に見事受かった時。

そして、この前のコンペの作品が賞を取った時。

あげればキリがないと言う。

そして、もう一つ記憶が無くなる時がある・・・

俺達は工学部で、建築を学んでいる。

そのコンペがこの間あり、見事友人は賞を取った。

だから俺は昨日、友人をお祝いしようと、飲みに誘ったのだ。

「たまにあるんだ・・・昨日みたいな事が。俺は一切身に覚えがないのに・・・

いつもなら俺は身に覚えがないけど、話を合わせていた。

気持ち悪いって思われたくなかったからな。

いろいろと治療は受けたよ。でも・・・無駄だった。

お前の口から、らくがき帳と言う言葉を聞くまでは、こんな事を言うつもりはなかった。

俺はあんな出来事、人に話したくなんかはないから・・・

だから、他人に話したのは、お前が初めてだ。」

そう友人は言うと、俺から視線を外し、下を向き、少し泣いていた。

そして静かに、口を開いた。

「・・・俺の中に・・・もう一人・・・俺がいる・・・」

その瞬間、一気に寒気がした。

昨日テレビに映っていた友人の顔。

あれは見間違えなんかではないのかもしれない。

もう一人の友人が写っていたのかもしれない・・・

でも待てよ。友人は昨日の事は覚えていない。

と言うことは、昨日飲んだ友人は友人じゃないのか?

いや、今話している友人は本当の友人なのか?

俺は少し、動揺したが、友人が始めて他人に話してくれたんだ。

これで信じないのは友達じゃない。

そう思い、友人を信じる事にした。

「分かった。信じるよ。話してくれてありがとう。

お前は俺の友達だ。

それは変わらない。

だから、よかったら、あのらくがき帳を見せてくれ。」

「・・・ありがとう」

そう友人は言い、友人のアパートに二人で向かった。

あのらくがき帳を見れば何か分かるかもしれない。

この出来事の根源を見れば。

そして友人のアパートに着く。

でも友人は部屋の中に入ろうとはしなかった。

「実はな・・・俺、らくがき帳がどこにあるか知らないんだ。」

友人曰く、友人は何度もあのらくがき帳を捨てようと何回も思ったらしいが、捨てようと思った時、記憶がなくなり、らくがき帳が消えるらしい。

まるで誰かが隠しているみたいに・・・

何回も見つけては消え、それを繰り返すらしい。

それがもう一つの、記憶が無くなる時だ。

でも俺は昨日、あのらくがき帳を見ている。だからこの部屋のどこかにある。

それは間違いない。

「大丈夫だ。俺は昨日らくがき帳を見ている。探せば必ずある。」

それに、俺は昨日友人がらくがき帳をしまった所を見ている。

場所は分かる。

「あった。」

やはり、昨日と同じ場所にあった。

そして中身を見てみる。

!!!!!!

「・・・ぉ・・・うぇ・・・う・・・」

俺はすぐに、トイレに駆け込んだ。

何だあれは・・・何だあの酷い絵は・・・

ただの絵じゃない・・・あんな絵見たことが無い・・・

あんな絵を子供が描いたのか。

何故か分からないが涙が止まらない・・・

怖い・・・恐怖が一気に湧き上がる。

一通り、吐き終え、落ち着きを取り戻し、友人の居る部屋に向かった。

友人は一人、らくがき帳を手に取り、立っていた。

「ふ・・・ふ・・・ふはははははは・・・ははははは」

何だ・・・笑っている。何で笑っている?

「おい!どうしたんだよ?何で笑ってんだよ!」

「え?ああ、なんでもねーよ。」

「なんでもよくねーよ!なんでこの状況で笑ってんだよ!

そのらくがき帳は何かヤバイ気がする・・・早く捨てよう。」

「は?何で捨てるんだよ?これ俺の宝物だぜ。

何言ってんだお前?捨てる訳ねーじゃん。」

違う・・・明らかにさっきまでの友人じゃない・・・

目が笑っていない・・・

「・・・誰だ・・・お前。」

「何言ってんの?俺だよ俺。〇〇(友人の名前)だよ。」

(捨てようと思ったときに記憶がなくなる・・・)

人格が変わりやがった・・・友人が言っていた事は本当だったんだ・・・

そう思うしかない。

「いいから、それをこっちに渡せ。早く。」

「やだよ。これは俺の宝物。誰にも渡さない。」

「渡せ!」

「うるせーな!」

そう言い、友人は俺を蹴り飛ばした。

「やっぱりお前なんかに、らくがき帳の事なんて言うんじゃなかったな。

つい昨日は飲みすぎちまったからな。」

「いいから渡せ!早く!」

そう叫び、友人に飛び掛る。

でも友人は剣道の有段者。俺が適う訳ない。

友人はまた俺を蹴り飛ばし、友人の部屋にある竹刀を持ち、俺に向けて構えた。

「あんまりしつけーと、お前・・・殺すぞ。」

「頼むから目を覚ませ!」

気が付くと俺は倒れていた。

「う・・・」

体中が痛い・・・

友人が居た。目が真っ赤だ。

「あれ・・・何で俺はここに・・・」

「・・・ごめん・・・本当にごめん・・・やっぱり話すんじゃなかった・・・

初めて出来た・・・友達なのに・・・」

そう友人は言うと俺に土下座して泣いて謝った。

友人はらくがき帳を手にした瞬間に、記憶が無くなったらしい。

そして、気が付くと、ボロボロの俺が倒れていたらしい。横には竹刀が落ちていた。

らくがき帳は消えていた。

「俺・・・これから警察に行くから・・・」

「あれはお前じゃないだろ!俺は大丈夫だよ!行かなくていいよ!」

「でも!俺はお前に酷い事をしたんだ。覚えていないけど・・・絶対そうだ。

友達のお前に酷い事をしたんだ!凄い怖くて・・・本当に俺じゃなくなる気がして・・・

怖くて・・・震えて動けなかった・・・お前を病院に連れて行けなかった・・・

殺したのかと思って・・・怖くて・・・」

確かに体中痛いが、骨などは折れていない。

頭を強く殴られ、意識が飛んだみたいだ。

あれから時間もあまり経っていないし。

でもあちこち蚯蚓腫れになってる。

「俺は大丈夫。そんなに痛くないよ。大丈夫。

だから、警察なんかに行かなくていいよ。もういいから。泣くなよ。」

そう言って俺は体を起こし、泣いている友人を抱きしめた。

今の友人が本物だ。友人はあんな事はしない。

俺はあれから多少熱でうなされたが、病院に行くまでもなかった。

もしかしたら、もう一人の友人だったから、この程度で済んだのかもしれない。

それか友人が、力を抑えていたのかもしれない。

友人はあれから大学にも来なくなった。

回復した俺は心配になり、友人のアパートを訪ねた。

誰も出てこない。居ないのかな・・・俺はドアノブに手を掛ける。

鍵は開いていた。

「何だこれ・・・」

友人の部屋は荒れていた。

家具などが壊され、足の踏み場も無かった。

ガラスなどが散らばっているため、俺は悪いと思いながら、土足で部屋にあがった。

一体何が・・・

「うわ・・・・」

友人の部屋の壁には、赤い文字でびっしり

「俺じゃない」

こう描かれていた。しばらく部屋を調べていると

ガチャ・・・バン!

誰か来た。友人か?でももしかしたら・・・

俺はこの間の事で、もう一人の友人が怖くなった。

もしかしたら、もう一人の友人かもしれない。

見つかったらマズイ・・・そう思い、クローゼットの中に隠れた。

そして隙間から部屋の中を覗いた。

「くそ・・・ちくしょー・・・くそ・・・あああああ」

そう叫びながら誰か入ってきた。

友人だ。ボロボロだ・・・一体何があったんだ。

そして壊れているテレビのブラウン管に映る、友人に向かって叫ぶ。

「誰なんだよ!・・・お前誰なんだよ!・・・

お前は俺なのか?お前が俺なのか?

答えろよ!」

一人でテレビに向かって叫んでいる・・・

正直怖かった。俺の知っている友人じゃない気がした。

「俺はお前だよ。もうお前十分だろ?早く代われよ!」

「出てけよ・・・頼むから出てってくれよ!」

「お前が消えろよ!なあ、早く消えろ!消えちまえ!」

「誰なんだよ・・・本当にお前誰なんだよ・・・」

「だからお前だって言ってんだろ!」

「俺は俺だ!お前は俺じゃない!」

「お前は俺だ!そして、俺はお前だ!」

一人で叫んでいる・・・怖い・・・

俺は足がすくんで、動けなかった。

まるで会話しているみたいだ・・・

もう俺の知っている友人じゃない・・・

「うるせーんだよ!」

なにか酷い音がした・・・

友人がテレビを素手で殴った音だった。

手からは血が出ている・・・

「うるせー・・・うるせー・・・うるせー!」

何回も何回もテレビを殴る。

お願いだ・・・もうやめてくれ・・・頼むから・・・

俺はもう見ていられなくなり、涙が止まらなかった。

「やめろ!」

俺はクローゼットから飛び出し、友人に掴みかかった。

「頼む・・・もう止めてくれ・・・」

俺は必死に友人に抱きつき、頼んだ。

でももう、友人は俺が知っている友人じゃなかった。

「誰だお前?何でここにいんだよ?あ?」

もう目の焦点が合っていない。

友人のはずなのに・・・怖い・・・

「俺だよ!忘れたのかよ!」

「だからお前なんて知らねーんだよ!離せよ!オラ!」

そう怒鳴り、友人は俺をぶん殴った・・・

「俺じゃない・・・俺じゃない・・・」

そう言いながら、友人は俺に殴る、蹴るの暴行をした。

「俺じゃない!」

そう吐き捨て、友人は部屋から出て行った。

俺は恐怖と痛みでしばらく動けなかった。

友達だったのに・・・今は恐怖しかない・・・

俺は友人アパートから出て、必死に自分のアパートに向かった。

「う・・・う・・・くそ・・・なんでだよ・・・」

涙が止まらない・・・

大切な友達が変わってしまった。

あんなにいい奴だったのに。

俺は何も出来なかった・・・怖くて、友人を止める事が出来なかった・・・

俺はしばらくショックで寝込んだ。

友人は初めて俺に話してくれたんだ。

なのに、俺は何も出来なかった。

それが物凄く悔しかった。

大切な友達を助ける事が出来なかったんだ。

友人はあれから姿を消した・・・

アパートには、もう居なかった。

誰にも行く先を告げずにどこかに行ったらしい。

何度も探したが、手がかりなどは一切なかった・・・

友人がこうなってしまったのは、俺のせいかもしれない・・・

友人にとって俺が初めての友達だったらしい。

俺がもう一人の友人から、らくがき帳を奪おうとして、もう一人の友人に傷つけられた。

それを見た友人は物凄いショックだったに違いない。

やっと出来た友達を、自分が傷つけてしまった。

その凄いストレスが友人の精神を崩壊させたのかもしれない。

テレビのブラウン管に映った友人の顔。

あれは俺に助けを、求めていたのかもしれない。

俺は大切な友達を失った。

俺がこの世で一番怖い事は

自分じゃなくなる事だと思う・・・

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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