中編3
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頑張れ

「私が中学の頃なんだけど…」

Aさんは陸上部に所属していて、長距離走を得意としていたという。

同じ部の同級生、Bさんとは良く一緒に練習したり競い合う仲だった。

「練習はキツかったけど、彼女のおかげで私も楽しく続けられたのね」

女子部員の少なかった陸上部で、数少ない友だった。

ところが、ある時期からBさんは急に元気をなくしてしまったのだという。

「いつも何か落ち込んでいるみたいで、部活もよく休むようになっちゃって…」

いつも一緒に走っている彼女がいないと、とても寂しく感じた。

親友といえど、勝気な性格だったというBさん。

悩みがあるのかと聞いてみても、いつも適当に誤魔化されてしまっていた。

「両親が離婚したみたいで、何やら複雑な家庭の事情があったみたいなんだけど」

詳しい話は一切聞き出すことが出来なかったという。

一人で深刻に悩んでいたのだろうか、それから一月も経たないうちにBさんは自殺してしまった。

高層マンションの自宅から飛び降り、悲惨な状態で見つかったそうだ。

教室で担任に初めてそれを聞かされた時には、すっかり動揺してしまい涙も出なかった。

「もう本当にショックで…独り部屋にこもってひたすら落ち込んでたわね」

今まで何とか続けてきた陸上部も、もう辞めてしまおうかと考えていた。

「だって、それまではBちゃんが一緒に走ってくれてたから何とか続けられてたから…」

そのBさんがいなくなり、ポッカリと空虚感がAさんの心に残っていた。

それでも数少ない女子部員であり、なかなか素質があったというAさんは顧問の先生に退部を引き止められていた。

しばらく考えたが、やはり続けられないだろうと部活の練習には出ないでいた。

そうしている内に、学校の恒例行事であるマラソン大会が迫っていた。

(去年はBさんと一緒に走ってたっけ…)

懐かしさがこみ上げてきてますます寂しくなった。

マラソン大会当日、いまいち気力の出ないままAさんは走っていた。

「とにかく憂鬱だったから、早く終わってしまえって…」

適当に流しつつ上位集団の中をゆっくり走っていた。

それでも練習をサボっていた為か、徐々に遅れだして集団に置いていかれてしまった。

「まあいいか…って、すっかり自暴自棄になってたのね」

長い一本道をゆっくり走っていると、背中に何か生温かいものが当たるのに気づいた。

ハアハア…ハアハア…

誰かが背中のすぐ後ろに接着して息を吹きかけられているような気味の悪い感覚だった。

「集団からは離れていたし、後ろから誰か追いついてくる気配もなかったんだけど…」

徐々にペースを上げても、「後ろの何か」は離れずについてきた。

それどころか、ますます背中に近づいてベッタリと身体をくっつけてくる。

腰の辺りにぬちゃっとした泥のようなものが押し付けられていた。

ズルズル…ズルズル…

何か引きずるような音が、すぐ背後で聞こえる。

「しばらくして…たぶん、Bちゃんじゃないかって思ったわ」

Bさんがハラワタを引きずりながら必死でついてくる姿が思い浮かんだという。

その直後…

Aさんにおんぶするように、腕が肩に回された。

「が…ば…れ……が…ば……」

耳元で何か囁いてくるのが聞こえる。

「がんば…れ…がん…ばれ……」

目頭がジーンと熱くなり、涙がにじんできた。

「それからは、とにかく必死で走って…何とか自己記録を更新できたの」

ゴールした頃には、後ろにいたBさんの気配は既に消えていたという。

それから陸上部も続ける事となり、大会でも良い記録を残すことが出来たそうだ。

「今でも仕事で苦しいときとか、頑張れ頑張れ…って言ってくれてるような気がするのよね」

Aさんはそう言って、少し寂しげに笑みを浮かべた。

怖い話投稿:ホラーテラー geniusさん  

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