中編5
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別荘の怪

数年前の夏、俺はハローワークで知り合ったTさんの別荘に行った。

中々仕事が決まらず気も滅入っていた時、気分転換にとTさんが誘ってくれたのだ。

Tさんは60才近いが見た目は若々しく、年は少し離れているが意気投合し何回か飲みに行った事がある。

別荘はバブル時代儲かっていたTさんが家族の為にと買ったのだが、離婚して独身だし管理とか大変なので手放す事になり最後にもう一度泊まりに行こうと思ったらしい。

二日後俺は待ち合わせ場所でTさんに拾ってもらい助手席に乗り込んだ。別荘までは3時間半くらいかかり、途中俺は運転を代わったり雑談しながら楽しんだ。

昼過ぎにやっと辿り着くと、そこには白い洋風の建物が立っていた。あたりは木に囲まれていて若干薄暗く感じる。

Tさんは「静かでいい所だろ?」と背伸びをした。静寂の中、時々聞こえる鳥の鳴き声が心地いい。街の喧騒に疲れていた俺は『来て良かった』とTさんに感謝した。

中に入ろうとした時、背後から視線を感じた。振り返ると誰もいない…気のせいか?

気にせず中に入ると、しばらく使ってなかったせいか埃っぽい。

「ちょっと空気入れ替えよう。食事の準備するから〇〇君窓開けておいて」と言われベランダを開けた。

ザザッと枝が揺れ気持ちいい風が吹き込んできた。フゥと一息つきながらまわりを見渡すと、別荘前の道路脇の木陰に人影が見えた。

     木←

────────

────────  

木木木 木木木木

木 ┏━━┓ 木

木 ┃別荘┃ 木

木 ┗━━┛ 木

木木木木木木木木

距離にして4、50mくらい。

こんな何もない所に人?ここに用事があるのか?

男のようだが若いんだか年輩なのかよくわからない。

最初足の悪い人なのか?と思ったが、何か様子がおかしい。だんだん近づいて来て姿がはっきり見えた。

!!!

それはゾンビみたいに右前のめりに歩いている。口をだらしなく開け「アー…アー…」と低いくぐもった声を出していて、目も白い部分しか見えない。

俺は全身から汗を吹き出し急いで窓を閉め「Tさん!!Tさん!!」と叫んだ。

何事か!?とTさんはすぐにやって来た。「Tさんあれ見て!ゾンビが出た!!」と指をさすと・・あれ?何もいない?

「〇〇君からかったのかい?」

「本当に見たんです!!向こうからゾンビみたいなのが近づいて来て!!」

Tさんは疲れているんだ少し休んでなさい、とまともに取り合ってくれない。

今考えたら、これが逆の立場ならまず信じないだろう。しかしその時は・・・

俺は白昼夢なんて見たわけじゃない、ここはなんかヤバいのではないか?

あんなの見てしまったら楽しい避暑地なんて吹っ飛んでしまった。Tさんも全然信じてないようだし、帰りたいと言っても無駄だろう。

やがてTさんが昼飯のおにぎりと野菜炒めを持ってきてくれた。

さっきのアレみた後では食欲も湧かないが、せっかく招待してくれたのに悪いと思い、無理やり口に詰め込んだ。

その後部屋を見て回ったりして、あまり外を見ないように夜まで過ごした。

晩飯を終えシャワーを浴びていた時の事、髪をゆすいでいると背中越しに生暖かいものが触れる。何だ?と思い振り返るが何もない。

気のせいだろうとゆすぎ始めると「…アー…アー…」と聞こえ、俺は『昼間のアイツだ!!』と思ったが怖くて振り返る事が出来ない。

ふと鏡に目を向けるとアイツが突っ立っている姿が見えた。

「ウワーー!!!」

俺はありったけの大声で叫んだ。ションベンをもらしたが風呂場だったのが幸いした。

「どうした!」Tさんが入って来たと同時に俺はへたり込んでしまった。

風呂を出るとTさんがソファーに座っていて、俺の顔が余程酷かったのだろう「大丈夫かい?横になったらいいよ」と言ってくれた。

俺は信じてもらえないだろうけど、風呂場の出来事を話した。Tさんは黙って聞いていたが、時折何か考えているようだった。

俺は思い切ってTさんに聞いてみた。

「Tさん、ここ中古で買ったって聞きましたけど、何か曰く付きじゃないんですか?」

「それはないよ。この別荘は当時勤めていた会社の専務が格安で売ってくれたんだ。昔から可愛がってくれてたし今でも健在だよ。ただ…」

「ただ?」

「専務の話だけど、昔道路向かいにも別荘があったと聞いた。…専務はその持ち主と一度だけ会った事があるが……その後別荘で首吊り自殺してしまったらしい」

「俺が見たのはまさかその人の…」

「幽霊なんていないさ。俺も60年近く生きてるけどそんなの見た事ないよ」

「そう言われても俺見ちゃってるし…」と話している最中電気が消えた。

俺がパニクっていると、Tさんがブレーカーを見に行った。

Tさんは「ブレーカーは落ちていない。停電みたいだ」と言い車に非常用のランタンを取りに行った。

1人でいるのが怖かった俺は、一緒に付いていこうと立ち上がった瞬間Tさんの悲鳴が聞こえた。外に出るとTさんは腰を抜かし、その前には昼間のようにノロノロと歩み寄るアイツがいた。

「Tさん!早くこっちへ!!」

駄目だ。Tさんは立てないようだ。俺はTさんの元に駆け寄り引っ張ろうとすると、うしろから首を絞められた。

「うっ…く…くる…しい」

急に目の前が暗くなり俺は気を失った。

どれくらい経ったのか?目を覚ますと車の中だった。Tさんが運転しながら「気づいたかい?」と言った。

アイツはどうしたのかTさんに聞くと

「実は〇〇君が倒れた後、俺も気を失ってよく分からないんだ。起きたらアイツはいなかったので急いで荷物をまとめ車を走らせた。こんな所で夜を越せないと思ったしね」とTさんは疲れた表情を浮かべているようだった。

その後Tさんとは疎遠になったが、一度会った時に聞いたら別荘はまだ売れていないとの話だ。

長文失礼しました。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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