中編3
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まっくろくろすけ

先日、付き合い始めて2年になる彼女と新世界にある某串カツ屋さんで呑んでいたときの話。

その日、せっかくの休日だというのにこれといった予定も無く暇を持て余した俺らは、付き合って間もない頃によく行った、大阪の新世界に行くことにした。

「何も変わってへんなあ!お、通天閣!相変わらず小さッ!」

久し振りに感じるこの街特有の熱気に少し興奮しながら、通天閣の中を見物したりビリケンさんの足を触ったりお土産屋さんを回ったりと、二人でブラブラと歩いていた。

そろそろ見る場所もなくなってきた頃に丁度お腹の虫が鳴ったのも手伝って、「せっかくやし串カツでも食べて帰るか」という話になり、ある一軒の串カツ屋に入った。

とりあえず飲み物を頼んだあと一通り注文を済ませ、二人で他愛もない会話で盛り上がっていた。

それから数分後、テーブルに串カツとキャベツが運ばれ、この新世界では定番のおばちゃんによる「ソースの二度漬け禁止やで」を聞いたあとに、串を取り「待ってました」と食べはじめた。

「うまッ!やっぱ新世界の串カツは最高やな!」

久し振りに味わう美味に舌を鳴らしつつあっという間に食べ終えると、まだお腹に余裕があるのを感じ、追加で何品か注文したあと、また二人で他愛もない会話で盛り上がっていた。

――1時間ぐらいその店に居ただろうか。

気が付くと、テーブルの上には空の皿が並び、丁度お腹もいっぱいになったということで帰る準備をし始めた。

「すいません!お勘定お願いし――あ!すいません、今の取り消しで!」

『どないしたん?』

「ごめん、腹がヤバい。ちょっとトイレ行ってくるから待ってて!」

調子にのって食べ過ぎたのか、突然便意が襲ってきたので、俺はお店の一番奥にあるトイレへと駆け込んだ。

かなり年季が入ってるであろうボロボロのドアを開け、急いでベルトを緩め、ズボンを下ろし、和式便器にまたがり安堵の溜め息をつく。

「ムハァ……」

少し食べ過ぎたことを後悔しつつ、突然の便意から解放され少し気持ちに余裕が出来た俺は、改めてトイレの中を観察してみた。

狭い室内に無理矢理詰め込まれた感じの和式便器と洗面台。

壁は全面黒いタイル張りで、どこにでもあるようなカレンダーが貼ってある。

建物自体が古いことから、何年か前に改装でもしたのだろう。

少し薄暗い。

そんなどうでもいいような事を考えている間に用を済ませた俺は、彼女を店内に待たせている事に気が付き、急いで水を流しズボンを上げチャックを閉め洗面台の蛇口をひねり手を洗おうとしたときある異変に気が付いた。

今のなんや!?

確か、急いで水を流したあと、ズボンをあげてチャックを閉めようと股間部分に手を伸ばした。

そん時、何か見たやんな、俺!?

開いたチャックの隙間から何かがまるで顔を出すかのように……。

黒い、モヤモヤっとした丸い何か……。

ま、まっくろくろすけ!?

恐る恐るチャックを開け中を覗いてみるが、何も居ない。

何かの見間違いかもしれないので、一応ズボンの中を確認してみるが、陰毛がはみ出ているわけでもなく、パンツやズボンから糸が飛び出ているわけでもなく、むしろ黒いものは何一つ無い。

じゃあ、一体あれは何やねん!?

ほ、ほんまにまっくろくろすけか!?

何か心に引っ掛かったまま浮かぬ顔をしてトイレから出てきた俺に、気が付いた彼女が「何事か」と聞いてきたので、有りのままを話すと

「まじで!」

と、興奮気味に信じてくれた。

今現在、彼女の中での俺は

「まっくろくろすけを見た男」

として憧れの対象にあるようです。

怖い話投稿:ホラーテラー マラムートさん  

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