中編4
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セカンドシーズン vol2

目の前にいる男。

不登校になった、稀人という男子生徒。

それらを結びつけることができなかった。

一年弱ひきこもっていたらしい。

そう話には聞いていた。

弱弱しくて、華奢なかつての稀人の面影はなく、鍛え抜かれた肉体と、闘志に満ちたまなざしがそこにあった。

「稀人、どうしてこんな所に・・・・っていうかどうしたんだよ、その格好」

赤城はなれなれしく話しかけ、稀人の方へ近付く。

元江は内心穏やかでなかった。

いましがた現れた稀人。

彼が次の敵となる可能性だってある。

彼としても俺たちを助ける為ではなく、ただの私的なハンティングなのかもしれない。

そうだ、あいつが俺たちを助ける義理はないんだ。

元江はバイクをすぐ発進できるようにし、ゆっくりと稀人に近づいた。

「久しぶりだな、稀人。

そっか、お前も無事だったんだな、良かった。

やっぱり日本じゅうこんな状態なのか?」

赤城は元江の心中を知る由もなく、まるで旧友との再会を懐かしむように話しかけるが、稀人は赤城の方を見ず、その肩ごしに元江を見つめていた。

品定めするような目付きだ。

「おい、荒木」

元江は口を開いた。

こいつ、稀人という人間が、どういう目的で動いているのか。

会話の中で探るしかない。

しかし相手は得体の知れない男だ。

一つ一つ慎重に言葉を選ばなければならない。

「まず助けてくれたことに礼を言う。

そして、聞きたいことがある。

・・・・一体この国で何が起こっているんだ?」

それがまず知りたかった。

つい最近起きた天変地異。

稀人はまるで、最初からこうなることを予期し、入念に準備していた、元江にはそう思えた。

となれば今回の地震に、こいつも何らかの形で関係している、あるいは重大な事実を知っているのではないか、と考えた。

稀人はしばらく考え、そして口を開いた。

「話せば長くなる。

とりあえず安全なところに離れよう。

それよりそのエンジン、切っておけ。

他のアンデット達に居場所を知らせることになるぞ」

三人は近くの、半壊した一軒の民家に入った。

そこは稀人の臨時的なアジトだった。

どこから持ってきたのか、保存食やさまざまな生活用品が、

今にも足が折れそうなテーブルの上にあった。

そして壁には、狩人がするように、獲物の首が掛けられている。

だがそこにあるのは鹿の頭部ではなく、大型の爬虫類、そしてその爛れたような皮膚は強固な外骨格に包まれている。

これを仕留めたのか。

確かに、俺たちよりかは戦闘において経験値は上のようだ。

そこで気になったのが、その丹念さだった。

獲物をきれいに解体し、それぞれの骨を標本のように並べ、それらの全てに細かい字で詳細なメモが貼られていた。

そう、こいつは稀人なのだ。

彼の本質は、神経質で繊細な少年なのだ。

そして元江は、稀人が意外と幼い顔つきをしていることに気付いた。

思えば俺とこいつは同級生なのだ。

稀人は、少しずつ話し始めた。

「俺も全てを把握しているわけではない。

そして俺は最初から全てを知っていたわけではないが、こうなることを知っていた。

いや、信じ込んでいた」

元江は稀人の言葉の意味を汲み取れず、怪訝そうに小さく眉に皴を寄せた。

「俺はかつて妄想に取りつかれていた。

この世界は天変地異によって崩壊し、文明は消滅する。

そうして全てが失われた世界で、自らが闘う姿をいつも思い浮かべていた。

来るべき時のため、俺は準備をした。

肉体を鍛え、感覚を研ぎ澄まし、ただ一人、その時のために。

だが今思えば、あれはただの妄想ではなかったのかもしれない。

心は最初から全てを知っていて、俺の本能は生きる道を見つけたのかもしれない」

言い終わると、稀人の表情はどこか、恥ずかしげで、そして少し誇らしげでもあった。

元江は彼が、やはりごく普通の少年であることを知った。

少なくとも俺たちにとって脅威となる、ということはないだろう。

「手を組まないか。」

協力して、この街から脱出するんだ」

その稀人の提案は、元江を少し驚かせた。

いや、当然と言えば当然か。

「いいだろう。

だがお前にとって俺たちと手を組むメリットってなんだ?」

稀人は一瞬答えに窮したが、少しして小さな声で呟くように言った

「仲間がいること、それ自体に意味があるんだ」

稀人はひきこもりであった時から、ずっと孤独の中にいた。

そして彼はこの状況の中、生きている人間に会えたことを内心嬉しく思い、そして同志と呼べる人間を欲していた。

「よし、これで俺たちは同盟ってことだな!!」

赤城が二人の肩に、飛び込むように手をかけた。

そして稀人は初めて笑みを浮かべた。

俺は孤高のハンターなんかじゃない。

ただこうして、普通の友達と過ごす時間が欲しかったんだ。

稀人は独自の調査から、アンデットの生態を大まかに把握していた。

外骨格は陸上動物同様、容易に破壊することはできない。

しかし関節の間に露出している皮膚からは、内部まで届く攻撃を与えることができる。

脊髄を沿うようにして覆う外骨格と頭蓋骨の間には、ゼラチン質の部位があった。

そこをピンポイントで攻撃すれば、仕留めることができる。

稀人が先ほど恐竜もどきを仕留めた時のように。

「これは戦利品、て所だな」

そう言って稀人が取り出したのは、人面猿の持っていたボウガンだった。

「飛び道具は俺の趣味じゃない」

稀人はそれを元江の方へ差し出した。

ずしりとした重みが手に伝わっていた。

「しばらくはここを拠点にして狩りを続ける。

そして可能な限り情報を集め、救助を捜す」

稀人は少し早口で言うと、壁にもたれるように座り、そして瞼を閉じた。

眠っている無防備な稀人は、やはり元江たちが知る、一人の男子生徒の姿だった。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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