中編4
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幻視鏡 其の参

続きです。

玄関のドアを開けると、やはりあいつはそこに居た。

相変わらず、不気味ににたにた笑っている。

これで、三度目の遭遇だ。

少しは慣れてきたのか、体の震えは前ほど酷くは無かった。

(こいつは無視、無視するんだ。多分こいつは、学校の中までは入ってこれないはずだ。それまで耐えろ、俺。)

Wはなるべくそいつが視界に入らないよう、早足で家を出た。

歩いている間も、そいつの視線は絶え間なくWに注がれていた。

Wとそいつの距離は、二メートルほどしかなかった。

だが、Wはそんなことよりもっと気になっていることがあった。

(さっきから何人も人とすれ違ってきた。だけど、誰も俺の後ろにいるこいつの事に気づいている人はいない。)

通りすがりの人も、どうやら母親と同じようにそいつの事が見えないようだった。

Wの、クラスメートに対する期待はほぼゼロになった。

だが、完全にゼロになった訳ではない。

(誰でもいい、誰かこいつに気づいてくれる人さえ居れば、こいつをどうにかできる手がかりが分かるかも知れない。)

Wはほんの僅かな期待を胸に、早足で学校へと向かった。

「はい、おはよう。」

校門の前で、いつもの先生が挨拶をしている。

今まで何人かの生徒とあったが、誰もWの後ろのそいつに気づいているような生徒はいなかった。

「おはよう、...んっ?W、ちょっといいか。」

「えっ!」

校門を通ろうとした時、そこで挨拶をしていた先生に突然声をかけられた。

(これは...........もしかして.........気づいてくれたのか!!)

やっと分かってくれる人に出会えた。

Wはそう思い、期待をふくらませた。

「先生、何ですか!」

Wは自分でも気持ち悪いくらいに、元気に答えた。

「W、お前.....」

「はい!」

「..........何か顔色悪くないか?」

「..............はぁ?」

「いや、はぁ?じゃなくて、目の下にくま出来てるぞ。」

「...............え?」

まさかこいつ、気づいて声かけたんじゃねーのかよ!!!

Wは心の中でそうさけんだ。

(紛らわしい事すんなよ..........)

Wは落胆の気持ちで教室に向かった。

(こいつ、教室の中まで入ってくるのか!)

今までWが学校で視線を感じていたときは、学校の中からではなく、学校の敷地外から、眺めるように感じていたものだった。

だが今、そいつは同じ教室の中からWに視線を浴びせている。

俺とこいつがどんどん近づいてきてる。

Wは改めて恐怖を覚えた。

(早くこいつに気づいてくれる奴を見つけないと)

Wは、教室の中に居るそいつの事に気づいてくれる人を、じっと待っていたが、誰もそいつに気づいてくれ無かった。

Wは、学校中を歩き回った。

もちろんあいつも後を追ってきた。

Wは必死に気づいてくれる人を探し回った。

(頼む、誰か、気づいてくれ!)

だが、誰もそいつに気づく事無く、いつもどうりWに接してきた。

誰も、気づかないのか.............

誰も、こいつが分からないのか...............

自分以外に、こいつは見えない。

Wは確信した。

(でも、だからって、誰にも分かって貰えないなんて嫌だ!!!)

信じてもらえないかもしれない。

Wはそれを承知の上で、親友であるTに、そいつの事を、今までの事を話した。

「.............で、今もそいつが俺の後ろに居るんだ。」

「...............」

「...........信じてくれるか?」

「.............その話、お前が作ったの?」

「えっ...」

「すげえおもしれぇ!才能あんじゃん。」

「違う.........」

「えっ?別の人がつくったの?」

「違う!!そうじゃない!!これは本当の事なんだ!!!」

「はいはい、もう演技はいいよ。」

「演技じゃねぇ!!!」

「..............本気?お前何言ってんの。俺にはお前が言うそいつとやらは見えねー..........」

「そうだ!俺にしか見えないんだ!!でも居るんだ!!居るんだよ!!.........頼む信じてくれよ。」

「..............お前、おかしいよ............」

「.......!!」

分かっていた事だった。

こんな話、信じてくれるわけ無い。

あいつは相変わらず不気味な笑みを浮かべている。

Wをあざ笑うかのように。

その日からWは学校へ行かなくなった。

すみません。思いのほか長くなってしまったので、また続きます。

怖い話投稿:ホラーテラー 青二才さん  

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