続きです。
玄関のドアを開けると、やはりあいつはそこに居た。
相変わらず、不気味ににたにた笑っている。
これで、三度目の遭遇だ。
少しは慣れてきたのか、体の震えは前ほど酷くは無かった。
(こいつは無視、無視するんだ。多分こいつは、学校の中までは入ってこれないはずだ。それまで耐えろ、俺。)
Wはなるべくそいつが視界に入らないよう、早足で家を出た。
歩いている間も、そいつの視線は絶え間なくWに注がれていた。
Wとそいつの距離は、二メートルほどしかなかった。
だが、Wはそんなことよりもっと気になっていることがあった。
(さっきから何人も人とすれ違ってきた。だけど、誰も俺の後ろにいるこいつの事に気づいている人はいない。)
通りすがりの人も、どうやら母親と同じようにそいつの事が見えないようだった。
Wの、クラスメートに対する期待はほぼゼロになった。
だが、完全にゼロになった訳ではない。
(誰でもいい、誰かこいつに気づいてくれる人さえ居れば、こいつをどうにかできる手がかりが分かるかも知れない。)
Wはほんの僅かな期待を胸に、早足で学校へと向かった。
「はい、おはよう。」
校門の前で、いつもの先生が挨拶をしている。
今まで何人かの生徒とあったが、誰もWの後ろのそいつに気づいているような生徒はいなかった。
「おはよう、...んっ?W、ちょっといいか。」
「えっ!」
校門を通ろうとした時、そこで挨拶をしていた先生に突然声をかけられた。
(これは...........もしかして.........気づいてくれたのか!!)
やっと分かってくれる人に出会えた。
Wはそう思い、期待をふくらませた。
「先生、何ですか!」
Wは自分でも気持ち悪いくらいに、元気に答えた。
「W、お前.....」
「はい!」
「..........何か顔色悪くないか?」
「..............はぁ?」
「いや、はぁ?じゃなくて、目の下にくま出来てるぞ。」
「...............え?」
まさかこいつ、気づいて声かけたんじゃねーのかよ!!!
Wは心の中でそうさけんだ。
(紛らわしい事すんなよ..........)
Wは落胆の気持ちで教室に向かった。
(こいつ、教室の中まで入ってくるのか!)
今までWが学校で視線を感じていたときは、学校の中からではなく、学校の敷地外から、眺めるように感じていたものだった。
だが今、そいつは同じ教室の中からWに視線を浴びせている。
俺とこいつがどんどん近づいてきてる。
Wは改めて恐怖を覚えた。
(早くこいつに気づいてくれる奴を見つけないと)
Wは、教室の中に居るそいつの事に気づいてくれる人を、じっと待っていたが、誰もそいつに気づいてくれ無かった。
Wは、学校中を歩き回った。
もちろんあいつも後を追ってきた。
Wは必死に気づいてくれる人を探し回った。
(頼む、誰か、気づいてくれ!)
だが、誰もそいつに気づく事無く、いつもどうりWに接してきた。
誰も、気づかないのか.............
誰も、こいつが分からないのか...............
自分以外に、こいつは見えない。
Wは確信した。
(でも、だからって、誰にも分かって貰えないなんて嫌だ!!!)
信じてもらえないかもしれない。
Wはそれを承知の上で、親友であるTに、そいつの事を、今までの事を話した。
「.............で、今もそいつが俺の後ろに居るんだ。」
「...............」
「...........信じてくれるか?」
「.............その話、お前が作ったの?」
「えっ...」
「すげえおもしれぇ!才能あんじゃん。」
「違う.........」
「えっ?別の人がつくったの?」
「違う!!そうじゃない!!これは本当の事なんだ!!!」
「はいはい、もう演技はいいよ。」
「演技じゃねぇ!!!」
「..............本気?お前何言ってんの。俺にはお前が言うそいつとやらは見えねー..........」
「そうだ!俺にしか見えないんだ!!でも居るんだ!!居るんだよ!!.........頼む信じてくれよ。」
「..............お前、おかしいよ............」
「.......!!」
分かっていた事だった。
こんな話、信じてくれるわけ無い。
あいつは相変わらず不気味な笑みを浮かべている。
Wをあざ笑うかのように。
その日からWは学校へ行かなくなった。
すみません。思いのほか長くなってしまったので、また続きます。
怖い話投稿:ホラーテラー 青二才さん
作者怖話