前回獣臭と女を書かせていただいた、ゆうまりです。
前回書いた通り、私は過去営業職をしていました。
そこで体験した奇妙な話を、今回も書きたいと思います。
あれは確か、埼玉での営業でした。相変わらず交通費などは一切出ない会社だったので、現場に向かうまでの電車で私はいつ辞めてやろうか、と頭の中で不満を募らせていました。
着いた先は、新しい住宅街。綺麗に一軒一軒がパズルのように建ち並ぶ、見ていて気持ちがいい住宅街でした。
営業する側としては、大変やりやすい場所でした。なんせ地図で確認しなくても隣は家。その隣も家!少なく見ても、ここだけで100軒以上はあります。
最近こんなにやりやすい場所での営業がなかったので、私はいつになくやる気になりルンルン気分で営業を開始しました。
が、いくら場所がよくても10軒中1軒がいい返事をくれればいいのがこの営業の辛い所。おまけに昼間はあまり人がいない。
午後3時の段階でほとんどの家を回りきってしまい、まだ2軒くらいしか良い返事が貰えていなく、少し凹んでいました。
そしてトボトボ最後のブロックへ。最後のブロックは、後ろが林になっていて今までのブロックよりは薄暗い場所でした。
まるで、ここだけ世界が違う印象さえ受けました
そこで、一軒だけ不思議な家がありました。
平屋の家なのですが、周りの家より土地が広く、そして明らかに古い。門から玄関までの道が草木で埋め尽くされ、まるで手入れがされていない
その草木の中には、何故か黄色、赤、青、紫の小さな旗が何かの目印のように刺さっている…
私は思いました
…行きたくない
不気味にも程がある。というか、人は住んでいるのか?
ですが、今日の営業成績からいって頑張るしか道はない。門の前で、私はうーんと悩んでいました。
とりあえず、人がいるか確認だけでも出来ないものかと家の窓をチラリと見てみると
…あれ?
…白いものが…?
門から見える窓から、僅かな何かが見える
何かな?と思って、よく目を凝らしました
次の瞬間、私は心の底から後悔しました
…人間、だ
人間の顔だ
……笑ってる、人間の顔
それは、窓と窓のカーテンの隙間からこちらを見て笑っている人間の顔。
分かりやすく言えば、日本舞踊などで使われる翁の面のような笑い顔。
女
女だ
あれは、女…!
金縛りにあったかのように、動けない。人間って、本当に極限状態の時って動けないもんなんですね
いやな汗が身体中に流れました。逃げたいのに、逃げれない…!
と、その時
「あら?うちになにかご用かしら?」
ガチャリと玄関のドアが開き、中から中年の小太りの女の人が出てきました
私はハッ!とし、チラリと窓を見ると、さっきの不気味な女は消えていました
『あ、ワタクシ〇〇の挨拶周りをしている〇〇と申します』(営業内容は忘れたのでニュアンスでお願いします)
「あらー!若いのに大変ねー」
気さくな女の人で、内心救われたと思いました。そして、営業など関係なしに早くこの場から離れたい。早く済ませてしまいたい、と必死でした
が、予想外のことにアッサリ女の人は商品を買ってくれました。どうやら前回も商品を買った事があるらしく、大変気に入ったとの事で快く買って頂きました
(誤解を招くようですが、営業で売っていた商品は悪徳商品ではなく、1000〜3000円くらいの地域振興券のような商品券です。なのでリピーターは多かったです)
しかしホッしたのも束の間でした。判子が探してもない、だから玄関まで来てくれないか、との事
行きたくない
行きたくない…!
しかし、ここはどんな事情であれ行くしかない。玄関までなら仕方ない。早く見つけて貰って、早く去ろう!さっきの顔は、気のせいだ!…気のせいだ…
「ごめんなさいねー。ささ、入って入って!」
『あ、すいません…でも玄関内には入れない規則なん…!』
玄関前で、ペコリと頭を下げたその瞬間
グイッ!
ガチャリ
『!!!???』
腕を引っ張られ、鍵が閉まる音が。パッと顔を上げると、ニコリと笑い玄関の鍵に手を伸ばして鍵を閉めたおばさんの顔が…
「うふふ。ちょっと待っててね!今鍵を探してくるからー」
『は、い』(言葉にならない)
しまった
なんなんだこの状況は
誰か助けてくれー!
心の中で泣いていました
確かに会社の先輩から、中には危ない奴もいるから気を付けろとは言われていた。お前は10代だし女だから特に男には気を付けろ、と。
先輩…女でも怖いです
玄関に入ってしまいました…しかも鍵付きで(泣)
逃げよう
だけど、商品渡してない
お金はもう貰ってしまった
そうだ、お金を玄関に置いて置けば…!
いやだけどそれっていいのか!?
そうこうしてるうちに、おばさんがスタスタと帰ってきました
「はい、判子ねー。ごめんなさいね遅れてしまって」
『い、いえ大丈夫です!あはは…』
判子を貰い、ホッと息を吐くと…なにやらおばさんの手には分厚い書類が。
何?何あれ?何?
そんな私の視線に気付いたのかどうかは分かりませんが、おばさんはフフッと笑って書類を取りだしました
「実はねー。あなたにオススメの団体があるのよ!あなた凄く良い子だから、是非一緒にと思って!」
そう。それは
宗教団体のパンフレットでした
(有名なものではないです)
しまった。やられた
まさか宗教絡みだったとは…!
まずい。非常にこの状況はまずい!
「私もね、辛い事があった時に知人に紹介されてねー」
『あ、あーそうなんですかー!でも私は』
「でね!ここに入ってから人生変わったの!ヘルニアも治ったし、辛い事も笑って話せるようになったし!」
『あはは…それは凄いですね。でも私宗教は…』
「それでねー。このページを見て貰うと分かるんだけど」
話聞いてくれ!!!!
おばさんはこちらが話す隙を全く与えてくれません。かといって、帰してもくれません。もう私は泣きそうでした。
宗教勧誘が初めての体験だったので、もう頭の中はどう対処したらこの人を刺激しないかでいっぱいでした
と
その時
「…、………?」
ふとおばさんの後ろの暖簾が、フワリと動いたのです。恐らく居間に続く暖簾。玄関と向かい合わせにあった暖簾が
「…?…………!!!!!」
私は腰が抜けそうになりました。
足が合ったのです
ゆっくり、ゆっくり…こちらに近付いてくる白い足。
ヒタリ、ヒタリと歩み寄ってくる足が…
膝まで見えたと思ったら、ピタッと止まりました
やばい
やばい絶対やばい!!!!!
さっきの白い顔が頭に過りました。あの人じゃないのか?あの人じゃないの!?
もはやおばさんの話なんて耳に入って来ません。むしろ、そんな余裕すらありませんでした
そしてそんな私を更にパニックに落とし入れる事に…
スーッ
暖簾から髪が
黒い髪が
落ちてくる
足の間から黒い髪が…
「ヒッ…………!!!」
思わず声が出ました。もうパニックです。パニックを通り越しています
その時
『もう!あなた聞いてるの!?〇〇(宗教の偉い人?)のお話はちゃんと聞かなきゃ駄目なのよ?』
グイッと腕を引っ張られ、無理矢理視線をパンフレットに向けられました。私はよろけながらも、そのパンフレットに目線をやりました。ハッキリいって、限界でした
「あ、あの!!お話は分かりました!!後日!後日詳しくお話聞きますね!今仕事中なので!」
『あら…まぁそうよね。今お仕事中なのよね…パンフレットあげるわ。あ、じゃあ今度の集会は出るって事でいいわよね?』
「え、集会…それは…」
そう言いかけたその時
多分あの時、確実に私の心臓は止まってました
「!!!!!!!」
暖簾の下からこちらを覗く女
あの不気味な笑顔でこちらを見る女
髪は縮れ長く、不自然な角度でこちらを覗く女
生きてるのか、そうではないのか…それすらも曖昧なソレは、私を捕らえていた
満面の、不気味な、笑み
「とととにかく帰ります!!!ありがとうございました!!パンフレット貰って帰りますなにかあったら電話します!!!!」
無理矢理鍵を開け、自分でもびっくりする早さでその場から逃げました。
それからはよく覚えていませんが、気づいたら近くの公園のベンチで目を覚ましました。で、安堵から少し泣きました。どうやら恐怖からの解放で気を失っていたようです。近くにいた子供がキョトンとしていたのを覚えています
そのあと、商品を買って頂いた違うお宅でなんとなく話を聞いた所、誰かに話したかったのかその方は沢山喋ってくれました。
あそこの家はこの住宅街ができる前からあった事、宗教にかなりはまっている事、たまに変な集団が来る事、時々、奇妙な歌が聞こえる事(民謡?)…おばさん以外の女性は見たことがない事、この情報だけ聞くことが出来ました。
宗教のパンフレットは、なんか呪われそうな気がして捨てれませんでしたが、帰って社長に話したらビリビリ破られて「気にしない!」の一言で終わりました。
気にしないじゃねーよ気にするよ!!!と心の底から叫びたかったのは内緒です
これ以上のオチはありませんが、あんな体験はもうこりごりです。おばさんの宗教と関係があるのかないのかも分かりません…
どちらにせよ、色んな意味で怖かった体験でした
以上でこの話は終わりです。営業していた期間、仕事柄様々な体験をしてきましたが、また機会があったらお話したいと思います。
長文失礼致しました
怖い話投稿:ホラーテラー ゆうまりさん
作者怖話