長編8
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泥棒ダメ、ゼッタイ。

僕の友人は個性的な奴が多い。

この話はその中の一人、

ナルの話。

当時高校生だった僕らは

いつも四人で行動していた。

落ち着いたヨシと、

お調子者のタク、普通?の僕。

そしてそのもう一人が

どこまでもナルシストなナル。

ナル、という渾名は文字通りナルシストからである。

道を歩けば、物に反射した自分髪型をいじりはじめ、携帯を見れば、画面に反射した自分の顔を見つめ続ける。

僕のようなブサメンがそんなことをしていたら、ただ単に気持ち悪いだけだ。ただ、ナルの場合は違う。ナルは、ちゃんとした?ナルシストだ。

なぜなら彼は、俗に言うイケメンだから。

しかも、かなりの。

芸能人で言えば、三浦春馬似。

当然、そんなイケメンを女の子がほっておく訳がなく、高校入学当初はナルを一目見ようとクラスに女の子が沢山見にきていたのを覚えている。

他にもメアドを聞かれたりはしょっちゅうで、バレンタインなんかはチョコの量が凄かった。

彼女たちはナルのナルシストぶりを知らないのだ。

そんなモテモテなナルだけど、彼女を作ろうとはしなかった。

その理由は

「俺より美しい人が現れたらその時は、自分からお付き合いを申し込むさ。」

だと。

そのセリフの後に、

──まぁそんなのいないだろうがな。

とナルは続けた。

なかなか憎たらしい。笑

ただナルは、嫌な奴じゃあない。

性格もナルシストである点を覗けば、気遣いの出来る良い奴だ。おまけに爽やかでスポーツも万能。

性格も温厚で

友達は沢山いた。

その中でも

僕らとは特別仲が良かった。

あれは確か二年生になったばかりの頃。

涼しさを感じる4月の半ばだった。僕ら四人は購買で買ったパンを中庭で食べていた。

どういう流れだったか、話題は好きな人の話になった。

僕はその時は部活一筋で、好きな人とかはいない、

ヨシは中学の頃からの彼女がいる、

タクは好きな人がコロコロ変わっている、と話して

僕は

どうせまた、

好きな人なんて出来ないよ

なんて言うと思いつつ

ナルはどうなんだ?

と聞いた

すると、ナルからの返事は

意外なものだった。

「実は俺、気になる人ができたんだ。」

一同騒然。

タクが

「誰だよ?誰だよ?嘘だろ?マジで?やっべー。すげぇー。誰だよ誰だよ?」

と問いただす。

ヨシは

「ナルが好きになる女なんて、絶世の美女に

違いない。B組のYか?それともD組のMか?いや、Tという可能性もある。」

と、冷静に分析していた。(笑

そんな二人にナルは

「いや、二人いっぺんに話されてもなに言ってるかわかんないよ。それに、まだ好きってわけじゃないし。気になるだけ。」

いや、それでも凄い進歩だ。

確かに、ヨシの言うとおり、

ナルが気になる人なんて可愛いに決まってる。日本人レベルでは無さそうだ。

僕も気になる。

「んで、誰なの?」

僕が聞くと、

ナルは少し恥ずかしそうに言った。

「C組の吉田○○って子。」

─────誰だ?

僕は知らない。ヨシもタクも、誰だ?って顔してる。

ナルが気になる人はてっきり可愛いと学年でも有名な人が名前が挙がると思っていた。

それでも、だ。

きっと、誰も気づいてないだけで、隠れた美少女なのだろう。

タクが早速、

「俺、聞いたこと無いや。見に行こうぜw」

と言う。

僕も賛成、ヨシも二つ返事でOK。

ナルは、恥ずかしそうにしながら、しぶしぶOKした。

4人でC組の教室へ。

「誰だよ誰だよ、その吉田って子は?」

「・・・あの子。」

ナルが指した指の先には、

この世のものとは思えないほどの絶世の美女・・・

ではなく、

皆が騒ぐ昼食時間に、

一人だけ窓際に座っている

髪の毛の長い女がいた。

髪の毛はサラサラどころか、

風呂に入っているのかすら怪しいボサボサ加減だし、

しかもそのただ座っている姿は、僕が見た感じ、

異様だった。

弁当を食べるでもなく、

本を読むでもなく、

ただ俯いて、

机の下にある何かを見つめている。

何を見ているのかは

ここからは見えない。

というか、

─────え?

絶世の隠れ美女は?

タクは絶句していた。

多分彼は僕より期待が大きかったのだろう。

ヨシは

「へぇ。どんなところが可愛いと思ったんだ?」

と冷静に聞いていた。

ナルは

「んー。どんなところって聞かれると・・・わからない。なんとなくかな。」

と答えた。

「気になったきっかけは?」

「うーん。なんだろ・・あれ?わかんない。なんでだっけ?」

僕に聞かれても。

ただ、少しおかしくないか?

気になったきっかけもわからないなんて。

そうこうしてるうちに、昼食時間の終わりを告げる鐘の音が響いた。

僕たちは一旦、各自の教室へ戻った。

僕とヨシはA組、

タクとナルはB組だ。

倫理の授業中

フロイト先生がどうのこうの話してる中、

僕らはナルの気になっている人の話で持ちきりだった。

「ナルがおかしい。」

ヨシが言う。

いや、確かに。

お世辞にも可愛いとは言えない。

ナルはちょっとおかしいかも。

ごめん。

「俺に謝るな。いや、そういうことじゃない。おかしくないか?気になったきっかけも、どこがいいのかもわからないのに、好きになるなんて。」

あぁ。実は俺も思ってた。

なんか違和感だよな。

「あぁ。今日放課後、四人でまた話さないか?」

なんて話してたら、

ヨシが先生に指名された。

授業なんて聞いてないはずなのに、スラスラと答えた。

さすがだ。

その後、僕も先生にあてられたが、どうなったかは想像にお任せする。

放課後、僕らは集まって話した。

ナルは、

「実は、吉田ちゃんの事、結構前から気になってたんだ。」

「なんでかわかんないけど、無性に可愛く感じるんだ。これが恋なのかな?(笑」

なんて言っていた。

その後もある程度話して、

解散する事になった。

学校から出る時、

玄関の靴箱から見える廊下に、

こちらを見つめている人影を見た気がした。

僕は嫌な予感がした。

今になって思えば

あれは絶対に吉田だったと思う。

それから、ナルは僕たちと話す時は、ずっと吉田の話しかしなくなった。

それも、会話に無理やり吉田の話を入れてくる。

「昨日のテレビでさー・・」

「そうそう!俺、今日も吉田ちゃんと目があっちまったよ。」

という感じ。

ナルの吉田への思いは日に日に強くなって行くようだった。

僕らは殆ど話を流していたんだが、

ある時事件は起きた。

またナルが、タクの話の最中に吉田の話を始めた。

タクはいいかげんにしろ、

という感じで言い放った。

「お前最近おかしいぞ?そんなに吉田の話したきゃ吉田と喋れば良いじゃねぇか。」

「俺にはあいつの何がいいかわかんねぇがな。正直、暗いしブスだろ。」

おいおい

それはちょっと言い過ぎ、

と僕が言おうとした時だ

───ドガッ

鈍い音。

タクが吹っ飛んだ。

「てめぇ、吉田ちゃんの事悪く言ってんじゃねえよ!」

僕は恥ずかしながら

人が思いっ切り殴られるのは初めて見たので、ビックリしてなにも出来なかった。

するとヨシがナルの前に立ち、言った。

「お前、どうした?確かににタクは言い過ぎだ、だがそんな強く殴るほどの事じゃないだろ。」

と言った。

ナルは、

少し黙ってから、カバンも持たずに

教室を走って出て行った。

「・・・タク大丈夫か?」

やっと足が動いた。

座ったままのタクに聞く。

「・・・大丈夫。あいつ、どうしちまったんだよ?」

とタクが立ち上がる。

するとヨシが

「ちょっと調べたい事がある。」

とナルが置いていったカバンを調べ始めた。

「これ、かもしれない。」

そういって

ナルのカバンから取り出したのは、

小さな人形。

手のひらよりも一回り小さいくらいのサイズ。

「それ、ナルの?」

僕が聞いたらヨシは

「多分違うと思う。ほら。」

渡された

人形をよく見る。

裸?なのか服は無い。

肌色。顔は無い。

ただ、人形の胸に黒いシミがある。

「それ多分、血。」

とっさに人形を放り投げた。

気持ち悪い。

「誰の血だよ!?」

「多分、吉田。」

「吉田も、同じもの持ってた。ほら。」

そういって、ヨシはポケットから、ティッシュに包まれた人形を見せた。

「これどこから?」

「吉田の机。吉田が教室から出た時、探ってみたらあった。怪しかったからとってきた。」

「それは泥棒じゃ・・」

「あっちも多分、人には言えないだろ」

そういう問題じゃない気がする。

「この人形の中身、血の付いたティッシュが入ってた。たぶんナルのだ。あいつ結構前に体育のサッカーで膝から血出してたろ。それも結構大量に。ナルはティッシュで血を拭いてた。」

それをゴミ箱からとったんだと思う。とヨシは言った。

「コレと、ナルの変化は関係があると思う。たぶん、たちの悪い呪具の一種だ。」

ずっと黙っていたタクが口を開いた。

「この人形が何なのかとか、どうでもいいよ。こいつのせいで、ナルが変わって、俺が殴られたのか。」

「燃やすぞ。コレ。」

そうして

僕たち三人で、

今は使われていない焼却炉で

その人形を焼いた。

この人形を焼くことで、

ナルが吉田を好きという気持ちが変わるのかはわからなかった。

ただ

人形を焼いている間、

僕はずっと背中に誰かの視線を感じていた。

次の日、

ナルはタクに土下座して謝っていた。

ナルは、

「昨日家に帰ってよく考えたんだ。いや!よく考えるまでもなく、俺が悪い!本当にごめん!」

とタクに謝った。

タクは、

「別にいいよ。俺も言い過ぎたしな!」

と明るく許していた。

ナルは

「いや、俺も、なんであんなに吉田のことを好きになってたかわからないんだ。今はもう好きでも何でもない。てか顔もあんま覚えてねぇ(笑。だけど、昨日お前が言ってくれなきゃ、俺そのまま吉田に告白しに行くところだったんだ。」

と言っていた。

人形を燃やした効果はあったみたいだった。

ただ、その日から

吉田は卒業まで学校に来なくなったらしい。

自主退学したという噂もあった。

僕はこの事件から、

人形を見ると背後に視線を感じるようになってしまった。

振り返る勇気はない。

今はもう覚えていない、

吉田の顔を思い出すことになる。

そんな気がするからだ。

ただやっぱり、

人のカバン普通に探っちゃうヨシが、

一番怖いかな(笑

僕はそう思った。

怖い話投稿:ホラーテラー 沖縄そばさん  

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