中編3
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友人の行方

10年程前、友人Tと夜釣りに向かった時の話。

9月の連休があった時期で、秋鮭を釣りに某港に向かった。港までは地元から車で2時間半かかる距離だった。

出発したのが夜中2時近く、遅くても5時には到着する予定だった。

Tは「シャケ(鮭)は朝方釣れるからのんびり行こう」と途中車を止め外に出た。

田舎の海岸線で車通りもなく、新月の為辺りはほとんど闇。「もう行くぞ」と俺は言ったが、Tは何も見えない海の方を無言で見ているようだった。

「おいT!」呼んでも返事がない・・・

ただ波の音が響くだけ。

少しずつ目が慣れてきてTがいる方を見るが、どうやらそこにはいないようだ。

車の陰に隠れているのか?と俺は携帯を取り出しカメラのライトを照らした。

?ぐるっと周りを照らすがTの姿がない。車を開ける音は聞こえていないけど一応ドアを開けてみたが、やっぱりいない。

俺は懐中電灯を取り出し「T!何やってんだ!?早く行くぞ!!」と少しイラつきながら叫んだ。

おかしい・・・どこも隠れる場所なんてないし、直線道路で前後数百m先にはトンネルがあるが、そんなところに灯りも持たず行くわけがない。

それでなくてもビビりのTだ。俺はまさか防波堤から落ちたのか?と下を照らしてみる。

しかし懐中電灯の弱々しい光に照らされたのは砂浜と、数個のテトラポットだけだった。

お互い携帯は持っていたが、港がある小さな町まで行かないと圏外だ。

だんだん嫌な予感がしてきた俺は、辺りが暗すぎるので車に乗り込みエンジンをかけライトをハイビームにした。

Tがいなくなって20分くらい経っただろうか?焦りを感じている俺は、この場を去るわけにもいかず考え込んだ。

9月も中旬を過ぎれば夜中、ましてや海沿いはTの半袖といった軽装(ジャンバーは車内にあった)では体が持たないだろう。

『もう一度だけ周りを見てこよう。ダメだったら町に行って警察に連絡しよう』と外に出た。

それから10分程探してみたが、どうしても見つからない。

『警察に行こう!』俺が車の方を振り返ると

あれ?ライトが消えている。波の音で聞き取れないが、エンジンも切れているようだ。

Tが戻ったのか?と思い走りかけた時だ。

車まで数十m。助手席側のすぐ真横は高さ1m程の防波堤があり、その上に何かが立っているように見える。俺は灯りを照らした。

「う…うわぁ〜!!」

人が立っていた。しかも1人2人じゃなく、何人もが横並びで立っている。

俺は照らしながら固まって動く事が出来なかった。

やがて気づいたかのように一斉に俺を見た。

男もいれば女もいたが、みな透き通るような体でうっすらと光を帯びている。

少しずつ近づいて来てるようだ。逃げ出したかったが車はヤツらの方にある。

俺はその場にへたり込んでしまった。するとヤツらは俺を中心にするように囲んで見てる。

怒り、いや生きている者への妬みなのか?明らかに悪意に満ちた顔だ。

どうする事も出来ない俺は、知ってるかぎりのお経を必死に唱えた。

俺のお経が効果があるとは思えないが、ヤツらは3mくらいから近づいてこない。

もしかしたら・・・俺は藁にもすがる思いで携帯ストラップに付けた小さな水晶玉を握りしめた。

「この水晶は霊能者?に気を込めて貰った御守りだから」と幼い頃からヘンなモノを見る俺に祖母がくれた物だった。

どれくらいそうしていただろう?気がつくと周りにヤツらの姿はなく、水平線の向こうから朝日が差し込んできた。

俺は助かったのか?と安堵感に包まれた。

しかし喜んではいられない。Tがいないのは変わらないのだ。

俺は車を町へと走らせた。さっきの事は信じてもらえないだろうと、Tがいなくなった事だけ話した。

小さな町の派出所だったので、近くの大きな町からも応援が来て捜索隊が組まれたが、Tを発見する事は出来なかった。

Tの身に何が起こったのか?ヤツらが関係あるのか?

いまとなっては何もわからない。

怖い話投稿:ホラーテラー 蒼天さん  

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