中編5
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峠の滝 了

走る 走る 走る 

どうやって温泉街まで辿りついたかは正直まったく覚えてない。

疲れや距離を感じる余裕なんて、無かったんだ。

峠のゲートを出てすぐ右手に、無料の露天風呂がある。

地元の漁師はそこで汗を流す人が多い。

熱い露天風呂で一杯やってきた漁師のおじさんは、道路沿いの駐車場に向かって峠を駆け降りてきた学ラン&セーラー服に、「部活かぁ!」と満面の笑みで声をかけてきた。

一拍置いて顔面蒼白な私たちに気付いたのか、「どしたぁ、おめだちどこのウチの子よ?」と私たちの顔を覗き込んだ。

その声を聞いたとたん、私たちはその場に崩れ落ちるように泣いた。今回はYも声をあげて泣いた。

騒ぎを聞きつけて周りの入浴客たちも集まってきた。

一番最初に声を掛けてきたおじさんの仲間らしき人が、「こんな時間になしたのよ?話せるか?」と声をかける。

Kが事の次第を話したが、動転していていまいち伝わらなかったので私とYが所々で補足しながら話した。

○○の滝と言うキーワードが出た時点で、何人かの大人の顔色が変わった。

あちこちで「おい!○○さんに連絡しろ!」だとか「人出集めろ!」だとかいう声が飛び交っていた。

5分もしないうちに見なれた車がやってきた。沼ちゃんだ。

沼ちゃんは温泉街のはずれに住んでいて、お祭り行事などの時などで司会をしたりする、ちょっとした町の名物爺さんで、私たち全員とも知り合いだった。

車から降りてきた沼ちゃんはいつもと違って神妙な面持ちだった。

「もう一度、詳しく話せ」

今回は代表して私が話した。

「わかった。この中で誰かその札触ったやついるか?」

私たち三人は触ってないけど、Eとメガネさんはわからないと話した。

その後沼ちゃんが言ったことはこうだ。

私たちは札を触ってないからとりあえずは大丈夫だということ。

これから大人たちで残った二人を探しに行くということ。

私たち三人はとりあえず危険はないが、関わったから一応ナワトキ?(訛りが酷いので聞き取りづらかったが多分こう言った)が必要なので沼ちゃんの家で待っていること。

訳も分からないまま私たちはその場に居合わせた漁師のおじちゃんのトラックで沼ちゃんの家に連れて行かれた。

沼ちゃんの家は初めてだったが、玄関では奥さんが優しく迎えてくれた。

「怖かったね。ナワトキしなきゃなんないみたいだからこっちの和室に上がりなさい」

70歳くらいだろうか。

奥さんはとても物腰が柔らかく上品なイメージだった。

通された和室の襖を開けて中を見たとき、私たちは本日何回目かの悲鳴を上げた。

畳の上に所狭しと敷き詰められたお札・お札・お札

よく見ると滝の近くにくくりつけてあったお札と同じもののようだ。

奥さんから「しばらくここで待つように」とお札を踏みながら座敷の奥側に通された。

この時なぜだかお札の上を通るのが異様に嫌だった覚えがある。

どのくらい時間が経っただろうか。

長かったようにもあっという間だったようにも思える。

玄関のほうから何かどたどたともみ合うような音が聞こえ、その音はだんだん襖のほうに近づいてきた。

すっと襖が開き、入ってきたのは沼ちゃん。

その後に続いて漁師のおじちゃんとそれに抱えられてEが入ってきた。

・・・メガネさんはいなかった

Eは口に猿轡をされ、漁網で体をぐるぐる巻きにされていた。

山で見た顔を思い出すと恐ろしくて眼は見れなかったが、拘束された状態でもEは変わらず「う゛ー!う゛ー!」と唸りながら暴れていた。

現役漁師三人がかりでやっと細身のEを抑え込んでいるという感じだ。

それからはもうあっという間だった。

沼ちゃんがなんか不思議な言葉(お経ではなさそうだった)を唱えながら

お札の角一片を小さめに千切ってEの口に入れた。

断末魔とはああいうのを言うのかな。

この世のものとは思えないような声を張り上げてEは暴れ続けた。

一枚一枚口に入れるたびに違う声で叫ぶ。

その時はもう白眼になっていて、あの苦悶の表情はとても見ていられなかった。

かなりの時間をかけて全てのお札の切れ端を食べさせ終えると、さっきまでの苦しそうな表情が嘘だったかのようにEは静かな息遣いで眠りに落ちたようだ。

その後私たちはナワトキと呼ばれるお払いのような物を施された。

Eの時とはまったく違い、黄色っぽい飲み物を飲んだ後、さっきの呪文を聞かされただけだった。

その時点で日付は変わっており、いつの間にか居間で待っていたそれぞれの親に連れて帰られこっぴどく怒られた後、私は眠りについた。

次の日、YとKは学校に来ていたがEは休みだった。

心配して家に電話してみると、疲れて眠っているだけなので大丈夫とのこと。

怖かったけど一安心。

放課後、Kと私が「そういえば昨日どうしていきなりダッシュボード見て逃げたの?」とYに問いただしたところ

「・・・開けたら・・・生徒の隠し撮り写真がうじゃうじゃ出てきた。でも半分以上俺のだった。」

その日メガネさんは既に首になって学校には居なかった。

発見された時は・・・その・・・何かにとり憑かれたように一心不乱に一人で励んでいたらしく、その場にいた漁師もむしろ恐怖を覚えたとか。

後で沼ちゃんに聞くと、あのお札は昔峠で亡くなった人たちの供養のようなものだそうだ。

山に長くいると自分の名前を忘れてしまうので、一年に一度決まった期間だけ、滝の近くに名前を書いたお札を張って名前を教えてあげるらしい。

Eが豹変したのは、木に張ってあったお札を誤って破いてしまったことが原因だった。

名前を盗まれたと思った山の住人が怒ってEにとり憑いたそうだ。

Eに食べさせたのも名前で、札を食べさせることによって名前をお返ししたとのこと。

私たちが飲んだものは・・・やっぱりね。なんか黄色くてしょっぱいと思ったんだ…

最後まで言わせないで。

そっとしておいて。

メガネさんは今どこにいるのかわからない。

相当なカルトオタクだったらしいけど、もしかしたらまたどっかの中学校で生徒を狙ってるかもね(笑)

私の話はこれでおしまい。

訛りとか読みづらかったと思うけど、これでもかなり標準語寄りにしたほうです。

この他にもいくつか話はあるけど、また機会があれば。

まとまらない文章だったけど、読んでくれてありがとう。

怖い話投稿:ホラーテラー 岬漁業部さん  

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