うわぁぁぁぁぁ!!!
気づいた時には道路脇の側溝だった。
「いてぇ!!」右足に激痛が走る。触ろうとするが、手が痺れて動かない。口の中も泥だらけでジャリジャリと音を立ててる。
「君大丈夫かい!?いま救急車呼んだからね!!」声をする方に視線を移すと、オーバーオールを着た40才くらいの男が心配そうに覗き込んでいる。
どうやら事故現場の農家の人らしい。
そうだ・・・一時停止を無視した車を避けようとしたが、横から追突されたんだった。
俺は体の事よりも会社のトラックが心配になり見回すと、トラックは無惨にも20m程離れた側溝でひっくり返りキャビンはペシャンコになっていた。
シートベルトをしていなかった俺は、トラックが倒れた衝撃で外れたフロントガラスから放り出されたようだ。
車が倒れたところまでは覚えている。ただ、その後は物凄い勢いでぶっ飛ばされ記憶が曖昧だ。
だんだん意識をはっきり取り戻すと痛みが増してきて、俺をこんな目に遭わせた加害者の事が憎らしく思ってきた。
こっちに来たら怒鳴りつけてやろうと思っていると、離れたところから
「こっちの人はダメだろうな…」
「フロントが完全に潰れてる。相当なスピードで突っ込んだようだな」
なんて聞こえてきた。
『……………』
頭の中が真っ白になった。いくら相手が悪い(最終的に過失割合は1:9)とは言え、人が亡くなった事にショックを受けた。
その後救急車で病院に搬送され、歯が数本折れて右手の人差し指、中指の骨折と右足の膝の靱帯が伸びていた。脳はCTの結果大丈夫だった。
検査の合間も警察の事情聴取や会社の上司が来たりとバタバタしていたが、夕方心配して駆けつけてくれた母親に送ってもらいアパートに帰った。
その夜は全身ムチウチ症で寝付けなかった。
次の日は起き上がる事が出来ず、『彼女と別れたばかりでこんな時1人は寂しいな…』なんて考えていた。
昼頃チャイムが鳴った。
『こんな時に誰だ?』とやっとのことで玄関を開けると、50才くらいのサラリーマン風の男が立っていた。保険屋だった。
熱で頭が朦朧としていたが、覚えているのはこんな話だったと思う。
・相手は即死で、家族が〇〇(俺)さんのお見舞いに来るのが普通だが事情が事情なので落ち着いてから伺うとの事。
・過失割合の件(相手は90㌔で走行していた)。
・長期通院する為、事故証明?を人身扱いで貰って来る事。
主な話はこんな感じだったと思う。保険屋が帰った後、なんとか布団に入り寝ていた。
30分くらい経った頃、何かの音で目覚めた。
ずる……ずる……
玄関の方から聞こえるようだ。首が痛くて寝返りをうてない俺は、『母が戻って来たのか?』そう思い「母さん?」と呼びかけるも返事がない。
ずる……ずる……
音は近づいて来てるようだ。気持ち悪かったが立ち上がる事が困難だったので、様子をみていた。
ずる……ずる……
スーッと襖が開き俺の視界に入ってきた。
「うぉっっ!?…な…なんだお前!?」
そこにいたのは、全身血だらけで顔が潰れてグチャグチャな人だった。
右足をひきづりながら近づいて来る。
必死に起き上がろうとするがダメだ。俺は「来るな!来るな!」と叫んだが、とうとう俺の目の前までやって来た。
恐怖のあまり呆然としていると
「な……オ………ダ…」
と左目で睨みながら呟いている。何を言ってるか聞き取れなかったが、俺の顔を覗き込んだ時はっきり聞こえた。
「なんで俺だけ死ななきゃならないんだ…」
コイツは事故の加害者なんだと理解した。
それを聞いた瞬間、俺の中にもう一つの感情が生まれた。
怒りだ。
一歩間違えると死んでいた俺にコイツは逆恨みしてやがる!と思ったら俺はデカい声で
「ふざけるなコノヤロー!!お前の巻き添えで死んでたまるか!!」
そう叫ぶとそいつは消えてしまった。
俺は不自由な体を起こし、気休めに食塩を何ヶ所かに盛っておいた。
幸い何事も起こらなかったが、俺の怒りは収まらなかった。
一週間後相手の父親がお見舞いに来た。
俺は遺族の心情を考え、化けて出て来た事は黙っていようと思っていた。
が、化けて出る息子も息子だが父親も父親だった。
多分70才くらいだろう。
入ってくるなり「あなたは軽傷で良かったね〜…あなたの車が走ってなきゃ息子は死ぬ事はなかったのに…」なんてほざいてた。
軽傷?骨折して靱帯伸びてあちこち傷だらけだっちゅうの!!
とりあえず追い返した後、俺はお寺に向かった。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話