当時私の家の近所には老夫婦が住んでいて、夫の方は病気でほとんど寝たきりでした。
私たちは引っ越して間もないころ、夜中に大きな音を出してはいけないと母に言い聞かせられていました。
しかし兄はギターの練習や音楽を大音量で流すなどして、母にたびたび叱られていました。
私も兄と同じようなもので、夜中に大声で長電話したり音楽を聴いていたりしていました。
老夫婦との家と私たちの家の間には挟むように一見の空き家があって、私たちの家の音が届くなんて思っていなかったのです。
引っ越してからさらにたつと私たち兄妹はさらに夜中も平気で大きな音を出すようになり、母もそれをとがめなくなりました。
しかし私たちの出す騒音が原因かどうかは分かりませんが、近所のお爺さんは私たちが引っ越してからすぐの時に病気が悪化して息を引き取り、お婆さんも後を追うようにして死んでしまいました。
私たち兄妹は、さすがにこれには罪悪感を覚えました。
私たちの騒音のせいで老夫婦は夜も眠れず死んでしまった、そんな気がしてなりませんでした。
そして老夫婦がなくなったころ、その家から夜中になるとお経のようなものが聞こえはじめました。
それはまるでかつて私たち兄妹がしていたように、老夫婦が私たちの家にまで聞かせているようにも思えました。
兄と私はもちろん、母や父までも気味悪がりました。
お経は録音してあるのか誰かが読み上げているものなのかは分かりませんが、深夜から夜明けまで続きました。
老夫婦がなくなって少しした後、兄は大学受験で、母は実家の祖父の所へ行くことになって、父は出張で家を空け、私一人で留守番をすることになりました。
老夫婦の事もあり、私はその夜は一人で眠れずにいました。
そして時計の針が12時を越えた頃、インターホンの音が聞こえました。
インターホンにはカメラが取り付けてあって、それで誰が来たか分かるんですが、モニターに映る姿はありませんでした。
インターホンを押した後すぐに帰ってしまったのかなと思っていると、またインターホンの音が聞こえました。
玄関の前には誰もいません。
背筋に寒気が走りました。
私はすぐに二階に上がり、毛布にくるまりました。
インターホンの音は止みません。
つづくように、壁を叩く音が聞こえました。
何度も、壁という壁を叩く音です。
「どんどんどん、どんどんどん、どんどんどんっ」
私は夜中にも関わらず大きな悲鳴を上げ、その音が聞こえないようにしました。
「どんどんどん、どんどんどん、どんどんどん・・・・・・・」
壁を叩く音は止み、インターホンも聞こえなくなりました。
それでもまだ震えが止まりませんでした。
しばらくして、一階から電話の音が聞こえました。
家族の誰かからだと思い、私は階段を駆け下りました。
電話の画面に表示されているのは見知らぬ番号です。
私は少しためらい受話器を取りました。
何も聞こえません。
いたずら電話だと思い始めた頃、あのお経が聞こえはじめました。
お経は、電話からも聞こえます。
この電話は、あのお経の聞こえる家からかかっている。
恐怖は頂点に達しました。
すぐにでも受話器を放り投げたかったのですが、身体がすくんで動きません。
そして言葉が聞こえました。
「お前も気が狂って死ぬ」
確かにそう聞こえました。
もう終わりだと思いました。
それでも私は殺されることなく朝を迎え、兄が帰宅しました。
私はその日学校を休み、兄に事情を話しました。
兄も戦慄していました。
「お前も気が狂って死ぬ」
私はその「お前も」という部分が気になりました。
普通なら「お前は」と言うでしょう。
それはたぶん、私たちのせいで死んだ老夫婦のこと、そして私の兄の事もさす言葉なのでしょう。
私は今、他県にアパートを借りて大学に通学しているのですが、絶対に騒音には気をつけるようにしています。
そして度々、老夫婦の視線を背後に感じます。
怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん
作者怖話