中編6
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心霊写真と俺

世間全体が心霊ブームっぽいところとも相まって、「本物」と称した心霊写真が学校中で出回った。

当時中学1年生だった俺らはガシャポンの「お払い済み」とか書いてある心霊写真を買っては、食玩コンプリートするみたいに集めてた(今になって思い出すと明らかな合成も交じってて、かわいいもんだった)。

んで、クラスの女子が「心霊写真を撮ってきた」と言ってそれを見せびらかした時には、普段偉そうなこと言ってる不良達もさすがに度肝を抜かれていた。

確かにその「心霊写真」に写ってる女子の一人は、まるで切り落とされたみたいに左足からの膝から下がない。

「お前これ本物?合成じゃねぇの?

パソコンとかで作んたんじゃね?」

「いつか本物の心霊写真を撮ってやるけえ」と豪語していた俺は悔しさもあり、その心霊写真を撮った女子二人のうちの一人にいちゃもんをつけた。

「中学生じゃけえ合成写真なんか作れるわけないじゃろ!」

その女子も負けじと反論した。

「どこで撮ったんだよこれ」

思わぬ反撃に少しビビった俺は話題をそらした。

「大橋越えた所にある家よ。

おじいさんが住んでた所あるじゃろ?」

その「おじいさんの家」には九十歳のおじいさんと息子が住んでたらしく、その家では息子が父親を殺して自殺をしていたらしい(今から十年以上前の話だが)。

そこは有名な心霊スポットとして騒がれていたが、正直メチャクチャビビりだった俺は近付くことすらできなかった。

「嘘だと思うんだったら言ってみればいいじゃろ」

その女子は「どうせお前の事じゃけえ、行けれんじゃろ」とでも言いたそうに言い放った。

「行くわ。行って俺らも写真撮ってやるよ」

後に引けなくなった俺はそこに行くと断言してしまった。

「俺ら」となってるのは一人で行く度胸がなく、親友のHとUを誘って行ってやろうという魂胆があったからである。

その日は土曜日で普通なら部活があるはずだが、先輩たちが大会に行くことになっていて、ホントは応援に行くべきだけどそれは結構自由な感じで、俺とH、Uはカメラ以外ほとんど何も持たずその家へ向かった。

俺には幽霊とは別の心配があった。

「大橋」は結構急な坂で、本当は自動車が通るための道で、自転車が通る道はすごく狭かった。

ガードレールみたいなものはなく白線が引いてあるだけで、下手したら坂を上ってるときか下ってるときに車に轢かれてしまいそうで、中学生になってからも俺はその坂が苦手だった(というかその時まで自転車でその坂を上ったことはなかった)。

そして生まれて初めての「大橋」。

一番先に登ったはずの俺は、ブレーキを限界までかけたせいで最後尾になってしまったが、

「あ、なんだ大したことないじゃん」と内心思いつつ坂を下った。

途中エロ本が落ちてたりして、他の二人に「ヘタレ」とかからかわれた俺は照れ隠しで、

「お前らもああいう本読んでんだろ」とからかい返した。

そして坂を下ってしばらくすると、今まで見えてたビルとか建物はなくなり、見渡す限り緑が広がった。

途中で自転車を止めると、体力が結構ある方だった俺は再び先頭になり、森の奥へ向かった。

視界が開けると、まるでそこだけ木々が避けて生えているように、湖と呼ぶには小さいが、水たまりと呼ぶにはあまりにも大きい池があった。

その池の真ん中に立つ家に向かって、粗末な橋が伸びていた。

辺りは日が暮れはじめ、森の中で、湖面の上にたたずむ家というのはなかなか近寄りがたい光景だった。

意を決した俺は橋を渡り始め、他の二人も続いた。

家は住む人がいないのか鍵はかかってなくて、ノブに手をかけるとドアは開いた。

一応「すいませーん」とか言ってはみるものの、俺たちはどかどかと中に入った。

そして気付いた。普通じゃない。

まだ夕暮れとはいえ、普通なら少しは部屋に少しは光が差し込んでいるだろうが、その家の中はほとんど暗闇に近かった。

それでもなんとか互いの姿は確認できて、でもその表情を読み取ることは難しく、時折光の加減でその顔が見えなくなると、俺はわけもなく不安になり声をかけた。

いよいよ本来の目的に入る。写真だ。

使い捨てカメラで、フラッシュをたいて撮影をした。

居間と考えられる部屋から向かって左右に二つ、台所の方で一つ、玄関の近くで一つ、計四枚。

「そろそろ引き上げるか」

本気で怖くなり始めた俺はそう言い、俺と同じ気持ちだったのか他の二人も同意した。

その時だった。

池の方から、うめき声のようなものが聞こえた。

「おい、誰だよ変な声出したの」

H「俺じゃねえって」

U「俺じゃないって。俺らじゃないだろ」

鳥肌が立った。やっぱり何かいる。

すぐ帰った方がいい。冗談抜きで。

俺たちはすぐに走り始めた。

しかし、Hが悲鳴を上げた。

「誰かいる、こっち見てる、あああ!!」

Hの指さした先には、一人の老婆がいた。

白い肌には幾つもの皴が走り、わけのわからんことをずっと呟いている。

老婆は両方の手をかざした。それはよくドラマとかで、首を絞めるような感じだった。

殺される。

「やばい、やばいやばいやばい」

俺たちはほとんど半泣きで走った。

木で作られた橋は、三人が走るとギシギシと音を立てた。

老婆はこっちに向かって走ってきてる。

確実に「死ぬ」って思った。

その時も先頭を切って走っていた俺の脚を、水面から出てきた何かがつかんだ。

「!?」

黒い腕が、俺の脚に爪を立てていた。

「ああああああああああ!!」

振りほどこうとする俺。向かってくる老婆。

二人は俺を置いて逃げようとする。

「待って、待って!!」

ギリギリのところで腕をふりほどいた俺は、再び全力疾走した。

もう必死だった。途中で蜘蛛の巣が顔に引っ掛かっても、転んですりむいた傷から血が出ても、無我夢中で走った。

そして自転車を止めてあった場所に辿りつくとそれに乗り、俺たちは全力でペダルを漕いだ。

家に帰っても動悸が止まらなった。生まれて初めて幽霊と出くわしてしまった。

話はここで終わらない。写真だ。

Hが現像した写真を学校に持って来た時は正直見たくなかったが、例の女子たちも交じり写真を見ることになった。

「なんだ、心霊写真なんてないじゃん」

四枚のうちどれにも、心霊写真は見受けられなかった。

やっぱりあの時のは幻覚かなんかだったんだと安堵している所へ、一人の女子生徒が口を開いた。

「これって、人じゃない?」

指さした先には、使われなくなっていたタンスがあった。

そのドアの隙間には、よく見ると、こちらを睨むような目があった。

俺は思わず悲鳴が出そうになった。

そしてさらに、もう一つ気付いたことがあった。

当時俺は「エスト」という絵画教室のような所に通っていて、自分で言うのは何だが、その辺の漫画家よりも絵には自信があった。

そして絵の研究のために俺はカメラについても勉強していた。

だからその写真がどう考えてもおかしいってことに気づいたんだ。

素人がそのまま部屋とかを写すと、望遠レンズなんか使ってないわけで、簡単に消失点を確認できる画面になる。

しかし目の前にある写真は、まるで昔の映画のように、低角レンズを使って撮影したみたいだ。

こういう写真を撮るときは普通、家の窓の一つを開け、外から撮影しなきゃいけない。

そしてHが言った。

H「これ、お前じゃねえ?」

そういってHが指さした先には、だれかの肩があった。

それは紛れもなく俺だった。

撮影してたのは俺なのに。

眩暈と吐き気を覚えた。

あの日、俺たちは確かに人間じゃない何かに出会った。

今ももしかしたら、俺の後ろにその老婆はいるのかもしれない。    

                                                                                                                                                                                                                                              

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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