「うわーすごいな!祭りってこんなに人が一杯人がいるのか!楽しいな!」
弟の康平が父さんの背中ではしゃいでる。
「そうか!楽しいか!来て良かった!」
そういうと父さんは背中を軽く揺すった。
康平は楽しいかもしれないが、俺は楽しくない。康平のやりたいことばっかやって、俺の要望は聞いてくれない。
「俺の要望も聞いてくれ!康平ばかり不公平だ!」
と何度訴えても、母さんに
「あんたは兄ちゃんでしょ」
と言われる。
まあ実際俺は兄ちゃんで、「今から弟になりまーす」なんてことは出来る訳無いので、引き下がるしかなかった。
まあでも、康平には楽しんで貰いたい。
なんせ康平は元気印の俺とは違い体が弱く、入退院を繰り返してた。
そんな康平の両親に対して、医師が言った言葉は、
「この先ながく無いでしょう。」
その次の日だった。康平が、
「祭り行きたい」
と言ったのは。
普段なら皆大反対だが、今回だけは違った。
「せめて最後に楽しい思い出を作ってやりたい」
そう思って、皆で行く事にしたのだ。
その事を思い出すと、いつしか俺の機嫌も治っていた。
康平はずっと前から金魚すくいがやりたいと言っていた。でもあれは見掛けより難しい。
「ほら、そっとそっと」
母さんがてを添えても駄目。三戦三敗。どっちも下手くそだ。
「焦れったいなぁ!俺に任せろ!」
俺は威張って金魚すくいに挑戦した。結果は大物こそ逃がしたが、ヘロいの一匹ゲットした。流石俺。奴等とは比べ物にならん。
でも心配だった。
「オッさん。こいつすぐ死ぬんじゃねーの?」
「そしたら天麩羅にして食っちまえ!」
「!?」
法被姿のオッさんは、笑っていた。
俺は笑えなかった。冗談もすぎる。冗談は顔だけにしてほしい。
「目玉の所に一番栄養があるんだ。そいつを食えばたちまち元気にならぁ」
「本当?元気になるの?」
誰よりも大声をあげたのは、康平だった。
「ちょっと子どもに変な事言わないでよ!」
母さんに叱られたオッさんは決まり悪そうだった。こういう時の母強し!
それから月日がたち、康平は再入院した。一方金魚のほうはあっけなく死んだ。俺は金魚を庭の椿のしたに埋めた。
病院のベッドで横になりながら聞いていた康平は、
「金魚食べたの?」
と聞いてきた。熱があるのか、頬が真っ赤だった。
「馬鹿か?食う分けないだろ。」
その頃は知らなかったがもう康平は末期に近かった。すぐ後に医師から
「覚悟しといて下さい」
と言われた。
そして数週間後、康平は死んでしまった。
時は数ヶ月すぎ、皆の気持ちも落ち着いて来たある日の事だった。
「健太(俺)留守番頼むよ」
父さんと母さんは夕方まで帰らない。
俺はやりたい放題enjoyしてた。その時
{ガサゴソ}
と庭から変な音がした。ベランダに出ると、椿の木の下に人影が見えた。
「俺のenjoytimeを邪魔するとはけしからん」
そう思いその人影に近寄った。
「!?」
見覚えのある顔だった。
「こ、康平?」
やっとの思いで声が出せた。小さな背中がゆっくりと振り向いた。
「兄ちゃん」
と発した声は明らか康平のものだった。
俺は驚いて腰を抜かした。康平の両手は土で汚れている。
「金魚の目玉、食べたい」
康平が細い声で言った。
「…相変わらず馬鹿だ。もう骨になってるよ」
「じゃあ兄ちゃんの目玉ちょうだい」
「あ!?」
体が動かなかった。金縛りって奴か?
「ば、馬鹿、やめろ。来るなーー!」
一生懸命叫んだが、康平はものともせずこっちに来る。
「一個でいい」
「一個?」
「うん。それで元気になりたい。」
康平の目から涙がこぼれでいた。
あいつは幾ら辛くても、泣く奴じゃあなかった…
そんな康平に負けたのか、俺は一個ならいいと思ってた。
兄のくせになにもしてやれなかったもんな…これが可愛い弟に最初で最後のしてやれる事だ…
「いいよ。但し一個だけな。」
本気で言った。男に二言は無い!
「有り難う。兄ちゃん」
「健太!起きなさい!」
次に意識があった時は、母さんが帰ってた。
「あれは、夢?」
かと思ったが、
「どうしたの?椿なんか掘り起こして」
「………」
「!?健太どうしたのその目!片一方が無い!」
その時俺は激痛を感じた。夢じゃなかった…でも悪い気分じゃ無かった。
「良いんだよ。目ぐらい。康平があの世で元気にやってくれるなら」
「え?ちょっと?健太?」
俺の右目から涙が大量にこぼれ落ちた。左目の分まで…
怖い話投稿:ホラーテラー 初コメハンターさん
作者怖話