中編4
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目玉

「うわーすごいな!祭りってこんなに人が一杯人がいるのか!楽しいな!」

弟の康平が父さんの背中ではしゃいでる。

「そうか!楽しいか!来て良かった!」

そういうと父さんは背中を軽く揺すった。

康平は楽しいかもしれないが、俺は楽しくない。康平のやりたいことばっかやって、俺の要望は聞いてくれない。

「俺の要望も聞いてくれ!康平ばかり不公平だ!」

と何度訴えても、母さんに

「あんたは兄ちゃんでしょ」

と言われる。

まあ実際俺は兄ちゃんで、「今から弟になりまーす」なんてことは出来る訳無いので、引き下がるしかなかった。

まあでも、康平には楽しんで貰いたい。

なんせ康平は元気印の俺とは違い体が弱く、入退院を繰り返してた。

そんな康平の両親に対して、医師が言った言葉は、

「この先ながく無いでしょう。」

その次の日だった。康平が、

「祭り行きたい」

と言ったのは。

普段なら皆大反対だが、今回だけは違った。

「せめて最後に楽しい思い出を作ってやりたい」

そう思って、皆で行く事にしたのだ。

その事を思い出すと、いつしか俺の機嫌も治っていた。

康平はずっと前から金魚すくいがやりたいと言っていた。でもあれは見掛けより難しい。

「ほら、そっとそっと」

母さんがてを添えても駄目。三戦三敗。どっちも下手くそだ。

「焦れったいなぁ!俺に任せろ!」

俺は威張って金魚すくいに挑戦した。結果は大物こそ逃がしたが、ヘロいの一匹ゲットした。流石俺。奴等とは比べ物にならん。

でも心配だった。

「オッさん。こいつすぐ死ぬんじゃねーの?」

「そしたら天麩羅にして食っちまえ!」

「!?」

法被姿のオッさんは、笑っていた。

俺は笑えなかった。冗談もすぎる。冗談は顔だけにしてほしい。

「目玉の所に一番栄養があるんだ。そいつを食えばたちまち元気にならぁ」

「本当?元気になるの?」

誰よりも大声をあげたのは、康平だった。

「ちょっと子どもに変な事言わないでよ!」

母さんに叱られたオッさんは決まり悪そうだった。こういう時の母強し!

それから月日がたち、康平は再入院した。一方金魚のほうはあっけなく死んだ。俺は金魚を庭の椿のしたに埋めた。

病院のベッドで横になりながら聞いていた康平は、

「金魚食べたの?」

と聞いてきた。熱があるのか、頬が真っ赤だった。

「馬鹿か?食う分けないだろ。」

その頃は知らなかったがもう康平は末期に近かった。すぐ後に医師から

「覚悟しといて下さい」

と言われた。

そして数週間後、康平は死んでしまった。

時は数ヶ月すぎ、皆の気持ちも落ち着いて来たある日の事だった。

「健太(俺)留守番頼むよ」

父さんと母さんは夕方まで帰らない。

俺はやりたい放題enjoyしてた。その時

{ガサゴソ}

と庭から変な音がした。ベランダに出ると、椿の木の下に人影が見えた。

「俺のenjoytimeを邪魔するとはけしからん」

そう思いその人影に近寄った。

「!?」

見覚えのある顔だった。

「こ、康平?」

やっとの思いで声が出せた。小さな背中がゆっくりと振り向いた。

「兄ちゃん」

と発した声は明らか康平のものだった。

俺は驚いて腰を抜かした。康平の両手は土で汚れている。

「金魚の目玉、食べたい」

康平が細い声で言った。

「…相変わらず馬鹿だ。もう骨になってるよ」

「じゃあ兄ちゃんの目玉ちょうだい」

「あ!?」

体が動かなかった。金縛りって奴か?

「ば、馬鹿、やめろ。来るなーー!」

一生懸命叫んだが、康平はものともせずこっちに来る。

「一個でいい」

「一個?」

「うん。それで元気になりたい。」

康平の目から涙がこぼれでいた。

あいつは幾ら辛くても、泣く奴じゃあなかった…

そんな康平に負けたのか、俺は一個ならいいと思ってた。

兄のくせになにもしてやれなかったもんな…これが可愛い弟に最初で最後のしてやれる事だ…

「いいよ。但し一個だけな。」

本気で言った。男に二言は無い!

「有り難う。兄ちゃん」

「健太!起きなさい!」

次に意識があった時は、母さんが帰ってた。

「あれは、夢?」

かと思ったが、

「どうしたの?椿なんか掘り起こして」

「………」

「!?健太どうしたのその目!片一方が無い!」

その時俺は激痛を感じた。夢じゃなかった…でも悪い気分じゃ無かった。

「良いんだよ。目ぐらい。康平があの世で元気にやってくれるなら」

「え?ちょっと?健太?」

俺の右目から涙が大量にこぼれ落ちた。左目の分まで…

怖い話投稿:ホラーテラー 初コメハンターさん  

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