中編3
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カピバラになりたい。

彼は夢想する。

カピバラとは、世界最大のネズミである。

しかし、彼が頭に思い浮かべるカピバラとは、本物ではなく、ぬいぐるみの『カピ〇ラさん』であった。

『カピ〇ラさん』はとてもカワイイ。柔らかいし、抱きしめてモフモフするとすごく気持ち良い、癒しのぬいぐるみだ。

彼もまた『カピ〇ラさん』に癒される一人であった。

そして、彼はもう自分や自分の身の回りの色々なことが嫌になっていた。

『カピ〇ラさん』になってただボンヤリしていたい。

異変が起きた。

ある朝、彼は目覚め、パソコンをつけると、おかしい。昨日は月曜日だから、今日は火曜日のはず。なのに、水曜日だった。一日が知らぬ間に過ぎ去っている。

彼は不安になり『カピ〇ラさん』を抱きしめた。

『カピ〇ラさん』?

彼はハッとした。

(もしかして、俺は昨日『カピ〇ラさん』になっていたのか?だとしたら一日抜かしていたのも説明がつく。

なんたって『カピ〇ラさん』はぬいぐるみだ。脳みそがない。『カピ〇ラさん』になったら、俺は意識なんて持てない。

元々意識がない『カピ〇ラさん』は、俺になっても意識がない。

つまり昨日、『カピ〇ラさん』の俺と、俺になった『カピ〇ラさん』は、一人と一匹でボンヤリしていたのか?)

彼は恐怖に震えた。今回はたまたま人間に戻れただけで、また『カピ〇ラさん』になったら、もう戻れないかもしれない。

その日から、できるだけ意識を保つよう、彼は眠らないように決意した。水曜日、木曜日と、彼は起き続けた。

その間、彼は『カピ〇ラさん』にも注意を怠らない。

そして、金曜日、限界は訪れた。彼は睡魔に敗れた。気づいた時は月曜日だった。

『カピ〇ラさん』になる時間が長くなっている!

混乱は頂点に、彼は『カピ〇ラさん』にイラ立ちをぶつけた。

『カピ〇ラさん』を掴み上げ、床に叩きつける。無抵抗に転がる『カピ〇ラさん』。

なぜ俺がこんな目に! 俺がお前に何をした!?

なぜ俺は『カピ〇ラさん』になりたいなどと願ったのだろう、あげく、この仕打ち!

彼は悔いた。

今度は、踏み付けようとした。しかし、『カピ〇ラさん』が踏み付けられることはなかった。

彼は『カピバラさん』の変わらない笑顔を見つめた。

『カピ〇ラさん』は、俺に何をした? 何を、してくれた?

不安で眠れない夜、『カピ〇ラさん』を抱きしめると、不思議と安心できた。

孤独に泣いた夜、『カピ〇ラさん』はいつも側にいてくれた。

(『カピ〇ラさん』は、いつでも俺を癒してくれた。その『カピ〇ラさん』が、なぜ俺を苦しめる?)

その時、彼は全てを理解した。

(そうか……『カピ〇ラさん』は俺に、人間として生きろと、伝えたかったんだな。

『カピ〇ラさん』になったって良いことないよ、逃げずに問題と向き合ってほしい、と。)

彼は、転がった『カピ〇ラさん』を、泣きながら、優しく抱きしめた。

『カピ〇ラ』さんに意識がないなんて嘘っぱちだ。

『カピ〇ラさん』は、やはり彼を助け、癒そうとしてくれたのだ。

彼はその日、『カピ〇ラさん』に心からの感謝を伝え、お礼にとクレーンゲームで『ホワ〇トさん』(雌のカピバラ)を取ってきた。

ありがとう、『カピ〇ラさん』。俺、頑張るよ。

そして彼は問題に立ち向かい、明日を掴みうんぬんかんぬん、まぁ『カピ〇ラさん』になったんじゃなくて、ただ寝過ごしただけじゃね? とか色々あるけど、ぶっちゃけ彼ってただ仕事してなかっただけだよね?

怖い話投稿:ホラーテラー 昨日は5月9日!さん  

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