中編3
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付録つきの本

叔父の古本屋を継いで二年。

度々厄介な出来事に見舞われながらも、なんとかやっていた。

思いがけなくネット販売の方も軌道に乗ってしまい、自分だけでやりくりするのにも限界がやってきていた。

そこで、アルバイトを募集することにしたんだ。でも大きな媒体に登録してしまうとお金もかかるし、第一希望者が押し寄せでもしたら面倒。知り合いを通じて、地元のタウン誌に小さく載っけてもらうよう頼んだ。

重い在庫の上げ下げで、学生時代に壊した腰がまた悪化していたので、そろそろ男手が欲しかった。担当者にその旨を伝えて、待つこと数日。1人のバイト希望者がやってきた。仮に、Zとする。

Zは大学生で、叔父の頃にはよく通っていたそうだ。最近足が遠のいていたのをタウン誌で思い出し、応募したと言う。ひょろっとした軟弱なやつだったけど、他の応募が来る気配もないので採用した。見た目よりは力があって、てきぱき働いてくれたので、自分は1日カウンターに座り、パソコンで売買のやりとりをするだけで良くなった。

ある日、Zがふと……という感じでこんなことを言い出した。

「そういえば、あの本、売れちゃったんですか?」

「あの本?」

「緑の大判本ですよ。明治くらいの貴重な本だって聞きました」

Z曰く、叔父はその本をとても大切にしていたらしい。カウンターの天井近くのガラスケースに飾って、一応売り物だけど売るのは御免だ、と常々言っていたそうだ。

しかし自分はそんな本、見たこともないし聞いたこともない。ガラスケースには鍵がついていて、中には何も入っていない状態だったので、使っていないものだと思っていた。そしてそもそも、その鍵が見当たらなかったのだ。

自分はさすがにウンザリした。叔父がうさんくさいのか、店が呪われているのか、自分の運が悪いのか。パターン化してくると何となく先が読めてくる。この『緑の大判本』とやらは、きっとまたややこしい事件に発展する。確信に近いものがあった。

そしてその予感の背中を押すかのように、Zはアホ面でこう提案してきた。

「きっと、入院する前にどこかに隠したんじゃないですか?探しましょうよ。中身が気になってたんですよ」

頭の中に、『もうどうにでもなあれ』という言葉が浮かんで消えた。

それからは店内ひっくり返しての大捜索。あらゆる棚と床下を調べ、果てには家宅にまで侵入し始めるZを阻止し、叔父の部屋を手ずから探し、その問題の本を発見したのは事の起こりから10日ほど経った後だった。

それは叔父の机の引き出し1フロアを占める大きな本だった。サイズ、厚みはちょうど日本白地図(たまに通販でセットになって売ってるやつ)くらい。とにかく大きい。そして古い。古書マニアから見て、かなり価値のありそうな装丁ではあった。手触りは『はてしない物語』のモデライズ版に似ていた。

見てみましょうよ、と騒ぐZに半ば押されて、自分はその本を開いた。

昔ならではの左読みで、半紙のような材質の紙にビッチリと文字が並ぶ。たまに妙な挿し絵。立派な服を着た人間がよく描かれている。

読み進めるうちに、自分はもうこの本をどう処分するかを真剣に考えはじめた。それは邪神道とでも言うような邪教の聖典だった。

かいつまんで説明すると、あの『やんごとなき一族』は神を利用し、貶め、大衆を騙す憎むべき敵である。よって神の力をもってして断罪するべきである、という内容のものだったのだ。中にはご丁寧に『やんごとなき一族』に対する断罪の方法が、事細かく記されていた。つまり、呪い。

もう、さすがにダメだと思った。最悪店を畳もうと思った。付き合いきれない、叔父の店にはオカルトなことばかり起きる。

Zは空気を読まず、この本ください!を連呼。当然ノシつけて贈呈。

「帰ったらじっくり読みますね。もし何かわかったら教えます」

すごく嬉しそうにやつは本を持ち帰った。幾分か落ち着いた自分は、二度とこんな騒ぎが起こらないことを祈った。

その夜、半泣きのZから電話があった。

「この本の一番最後に布が貼り付けてあるんですよ!血が塗られてますよ!絶対1人分じゃないです!!これ、もしかしたらこの本自体が……」

本は今でもZの家にあるらしい。

Zも、まだ店で働いてる。

怖い話投稿:ホラーテラー 桐屋書房さん  

 

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