短編2
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覚めない夢

「奥さんの場合、御主人に対する潜在的な不満がおありのようですね」

「別に、そんなのありません。私たち、うまくいってます」

「いえいえ、具体的にどうとか言っているわけではないのです。

単純に、もっと甘えたいとか、そういうことも含めての話です」

妙に耳のとがった、神経科医はそう言った。

「そこでですね。思い切ったことをやってみるのです。常識では、とうてい考えられないようなことを」

「何をするんですか……?」

耳のとがった神経科医は、にんまりと笑った。

……そして今、私は神経科医の言ったことを行おうとしている。

神経科医は、夫を殺せと言った。……ただし、「夢」の中で。

「あなたが御主人を殺したいというわけではありません。

いわばこれは、現実における不満の、「ガス抜き」なのですよ」

「夢」の中でベッドから抜け出した私は、台所に向かい、包丁を手に取った。寝室に戻る。夫は、気楽な寝顔で、いびきをかいている。

包丁を両手で握りなおし、体重をかけて、倒れ込むように突き刺した。

刺さったのは、首筋だった。

噴水のように、赤くて熱いものが吹き出し、私の顔にかかった。

「夢」でも赤いとわかるのか。熱いと感じるのか。……不思議だ。

包丁を引き抜いては突き刺す行為を、何回か繰り返した。赤くて熱いものは吹き出さなくなり、もがいていた夫も動かなくなった。

ベッドの横にへたり込んで私がぼうっとしていると、いつの間にか、制服を着た人がやってきていて、私を車に乗せて、家から連れ出した。

白衣を着た人にいろいろ訊かれたので、耳のとがった神経科医に言われたことを正直に話した。

白衣を着た人は優しい顔でうなずいていたので、すぐに家に返してくれるのかと思ったが、何もない部屋に入れられてしまった。

そう言えば、白衣を着た人の横に、あの耳のとがった神経科医もいたのに、にやにや笑うだけで、何も言ってくれなかった。

それにしても、長い「夢」だ。いつになったら、覚めるのだろうか。

笑ったら目が覚めるかも知れないと思い、私は大声でケラケラと笑った。

怖い話投稿:ホラーテラー 冴子改め彩子さん  

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