中編3
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タスケの話『左上』

以前、私はある特殊能力を持つ男と付き合っていた。彼の名前はタスケ。彼のような特殊能力が全くない私としては、彼と過ごした日々は今も忘れられない。

ある休日のお昼前、私とタスケはタスケ宅でテレビを観ていた。

日本人なら誰でも一度は観た事があるだろう、お昼の看板番組だ。仕事をしている身としては総集編は結構ありがたい。

テレビの中ではサングラスの男が大いに笑っている。

「なぁ、お前さ、」

「ん〜?」

「端っこの見える?」

タスケは画面の左上を指差し、聞いてきた。

「え、あれ見えないの?38分だよ」

いくら視力の悪い私でも、あの時間表示は見える。どんだけ視力悪いんだ、君は。と言おうとした矢先。

「いやいや時間じゃなくて」

「じゃあ何」

こんなに左上をじっくり観た事がないぐらい観たが、やはり時間表示しか目に入らない。

「…やっぱいーや」

「え!何、わかんない、だからなんなんだって」

タスケは一瞬何かを考え、小さく息を吐き、ちらっと私を見た。

「お前さ、」

「うん、」

「怖い話とか苦手な方?」

「はぁ?」

本当にこの時は気付いていなかった。彼のもつ特殊能力を。

「だから、苦手?そういうの。例えば…幽霊とか」

「別に苦手じゃないけど…むしろ怖い話聞くの好きな方だしホラーもの借りるぐらいだし…で、なんなの」

「ふーん…」

この時のタスケの表情と画面から聞こえる笑い声がなんとも噛み合わなかった。タスケは画面の左上を見ながら口を開いた。

「俺、見えるの。」

「何が?」

「お前に見えないモノ」

私はどんな顔をしていただろう。驚愕?歓喜?今までに培ってきた怖いものへの耐性と興味からか、不思議と取り乱したりはしなかった。

タスケはそんな私を見て少し驚いている。そして何かを決心したかのように話し始めた。

「じゃあ最初に言うけど、お前絶対振り向くなよ」

「え?」

「画面の左上に映ってるんだよ、お前の後ろになんかいる」

全身の血の気が引いていくのが感じられる。振り向くなよ、とか言われなくても振り向かねーよ、と内心思う。

「…な、なんかって何」

普通のか弱い女子なら迷わず彼氏に抱き着くだろう。だが私は違う。オカルト大好き人間だ。よせばいいものを聞いてしまった。

「あ〜…女。頭が上下逆さまに付いてる。首に額がちょっとめり込んでるな。髪が血かなんかで首に引っ付いてる?いや、巻き付いてんな」

…聞かなきゃよかった。泣きそうな顔をしていたのか、タスケはこう続けた。

「大丈夫大丈夫。気が付かないふりしとけば悪い事しねーから。俺のこれまでの経験上ではね」

「タスケ…認識しちゃってんじゃ…画面に映ってるとしてもさ…」

「まぁ…認識というか見えてしまうから避けようがないもんなー。とりあえず、お前を羨ましそうに見てるからお前は振り向くな、タモさんで気を紛らわしとけ」

その言葉を聞いて、心底『見える人』…いや『見えてしまう人』じゃなくてよかったと思った。それと同時に、タスケとこれからまともに付き合っていけるのか、不安と少しばかりの好奇心が私の中に募っていった。

怖い話投稿:ホラーテラー プンスさん  

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