長編8
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恋心の醜行

●人間の怖い話です

●長文ですので お暇な方のみどうぞ

●グロタグは付けていせんが気持ち悪い話です

ご了承のうえ どうぞ。

学校というカテゴリーの中で、大学という場所は≪多感な年頃・大人の階段をのぼる年頃≫の年齢層が集合した場所。

ゆえに彼らを管理・指導するのは小・中・高生とはまた異なった部分でデリケートな仕事である。

彼らはけっこう簡単なきっかけで変な方向へ転がってゆくからだ。

恋愛もまた

そのきっかけのひとつである。

自分は元・大学の助手をしていた。

メンバー構成は Sさん Oさん Nさん 自分の4人。

我々の仕事は基本的に教授の補佐だが、学科に所属する1~4年(+院)生たちの出席や授業の管理なども行うため学生たちとの距離は近かった。

多感かつ、精神的・体力的に一番色気づく時期の学生の群れ。 

彼らを間近に見る私たちにとって、そこに描かれる学生たちの恋模様を見守るのは心を潤す貴重な楽しみの一つだった。

だがしかし、そんな子供たちの中には毎年1~2人の割合で助手に恋をしてしまう者が出てくる。

残念ながら、我々としてみれば、多少の可愛さ・贔屓目などはあるものの 彼らのことは「親御さんからお預かりしている子供」でしかない。

冷たいようだが、仲良くはなっても友人には発展しないくらいのものである。

大学と就業契約のときに

≪学生に手をだしたら罰金50万円+即解雇≫

という念書に一筆書かされている立場ですしね。

彼らの恋を受け止める熱意も度胸も財布もありはしません。

だからこそ、そんな時は『ありえないから やめておけ』をそれとなく伝え「なかったことにする」のが常套手段だった。

彼らも毎日面倒を見てもらわざるをえない職員とこれ以上気まずくなることを避けるため「追いかける恋」へと発展させることはしない。

そんな学生達の中で、過去に「追いかける恋」を誤った方向へと発展させてしまい 結果、変な方向へ転がり落ちていってしまった学生のお話です。

学生の名はT。

当時は我々の担当する学科に在籍する2年生だった。

Tの恋した相手はSさん。

Sさんは所謂「お人形さんのような人」。

色白で細く、猫のようなぱっちりした瞳。

髪もショートボブなのが勿体無いと感じるほどサラサラ。

雪原のオコジョが人間になったイメージだ。

Tはバリバリの体育会系でガッシリ・ドッシリ体型。

性格も周囲を巻き込んで大騒ぎするのが大好きな質。

明るくて元気な子なのだが、その一方で突っ走り始めると周囲がみえなくなる、今で言うKYな一面があった。

その気質に実にしっくり嵌る外見は まさに『リアル・ジャイアン』。

本当によく似ていました。

さて、問題のSさんは≪理想のタイプは 舞台俳優・篠井英介≫という 線の細い上品で物静かな日本男児を好む人だった。

さらに、グイグイ来られることが大嫌いで、1m迫られると2m後ずさるタイプ。

狙ったかのようなアウトゾーン状態。

Sさんにとっては、就業契約以前の問題だったのか、冗談でこのネタをふると本気で怒ってきた。

当然【常套手段】がとられることに。

T本人にもSさんの意思はすぐ伝わったらしく、SさんとTの間に妙に冷ややかな距離がうまれていた。

このまま なんとなく「なかったことに」なるんだろう

と思っていた。

しかし、その予想は裏切られる。

最初のきっかけは   「贈り物」   だった。

研究室のドアには小さなポスト型ボックスが設置されており 学生たちが、助手メンバー全員が外出している時などに提出物や頼み事で訪ねてきた時にはメモを添えて入れておくシステムになっていた。

午前中の授業が終了し担当教室から戻ってきたところ、そこに入っていたのは一通の手紙と謎の弁当箱。

手紙といっても、紙を数枚重ねて折ったものをさらにコピー用紙で包みセロハンテープで封をした妙な見た目。

・・・・・宛名を書いていなかったのがマズかった。

授業終了直後で助手全員が勢ぞろい。

「これ なに?」

興味津々 4人で謎の包みを開けてしまった。

中身について有り体に言えば ラブレターでした。

Sさん宛の。

差出人はもちろんT。

・・・・・あらら、諦められなかったのね。

彼が諦めていなかった事実。

その事実を同僚に知られた事。

多分、それだけでもSさんにとっては大打撃だったのだろうが・・・・それ以上にSさんを打ちのめしたのは 弁当箱の中身だった。

中身は手作りのクッキー。

形成時に手のひらで押しつぶして作ったのだろう

親指の付け根のふくらみから手のひら中心にかけての滑らかなフォルムがクッキリと保たれたまま焼きあがっていた。

第一印象を一言で言えば 【手垢がついてそう】

大抵の料理は手でつくるのだから条件は同じはずなんですけどね。

料理は見た目も大事です。

しかし、そこで終わりではない。

臭いのだ。

たしかにクッキー特有の甘い砂糖とバターの香りもする。

だが、それと共に 小麦粉とは違う妙な焦げ臭さと、生々しい腐臭のようなものがねっとりと臭ってくる。

なにか違う。

ただのクッキーではない「なにか」を全員が感じていた。

しかし、感じた違和感を口に出すことができない。

なにより・・・・・・・Sさんを前に口に出してはいけない、と。

この臭いの理由・・・・考えてはいけない。 知らないほうがいい。

誰もなにもコメントできぬまま「贈り物」はその場で秘密裏に処分となった。

弁当箱はTの友達伝いに返却したが、幸いT側から「食べましたか?」などの確認をとられる事は無かったのが救い。

その日のSさんは1日中怒ったような泣きそうな顔で一言もしゃべらず、常に助手メンバーの誰かと行動を共にしていた。

たぶん、一人になりたくなかったのだろう。

その後はTのいる授業の担当にSさんを宛がうことは助手メンバーの中での暗黙の禁止事項になり、都合上どうしても担当にならざるをえない場合でも出来る限りOさん、Nさん、私が様子を見に行った。

もちろんその理由は我々だけの秘密にして教授や学生の面々には悟られぬよう気を付けつつ。

そんな甲斐あってか、あの『贈り物』以来 TがSさん個人に接触するような事はなかった。

だが、「回避措置」をとり始めてからしばらくし  私と、入学当時からTと仲のよかった男子学生と雑談していると、突然彼から

≪仲間内での飲み会の席でTが「諦めきれないんだ」とオイオイ泣いていた≫

ことを私に話してきた。

「(嫌な予感)・・・・友達のそんな状態を他人に話すもんじゃないよ」

「うん・・・・。 そうなんだけどさ、なんか俺らから見ててもヤバイ時あるし。  Sさんって絶対アイツ避けてるだろ?」

「(バレてたか)ん―――・・・まあ、少しな。」

「・・・・・アイツ、たまにSさん絡みでスゲー怖いときあるからさ。 俺らも最近、距離とるときあるし・・・・・・なんか怖ぇよ」

「(【怖いとき】ってなんだよ も~・・・クッキー系か?)怖いときって・・・・?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・あのさ、Kさん(←私)。

・・・・・・・・・・・・絶対にSさんに内緒な!

俺が言ったってのも内緒な!!

絶対に秘密にしてほしい事あんだけど・・・・・」

「(ゴメン ものすごく聞きたくない)・・・・・・わかったよ、なに?」

「あいつのロッカーなんだけど―――――――

次の日、本気で嫌がるSさんに Tへハッキリお断りする旨の手紙を渡してほしいと必死で説得した。

いまさら突然に手紙の返事をきちんと出すよう言い出した私をSさんは訝っていたが、飲みの席での涙の訴えのことを話し「このままだと諦めきれなくて行動がエスカレートするかもしれないし」と話すと納得してくれた。

行動がエスカレートする危険を感じたのは本当。

けれど それを「確信」した本当の理由は言えない。

手紙を渡してほどなく一週間ほどTが学校を休み 学校へ復帰したときにはTのほうからSさんを避けるように。

3年にあがるとTは学科(講座)を移籍し、同じ学内にいるが、過ごす建物が変わったせいか顔を合わせることもほとんど無くなった。

Sさんも距離ができたためかTのことは気にしなくなり Tが卒業を迎える前にごく普通に助手を退職していった。

一連の騒動は一応解決。

けど、私にはトラウマと言えるほどの思い出を刻んでくれた。

あの日―――――・・・・

「・・・・・・わかったよ、なに?」

「あいつのロッカーなんだけど・・・・・中でさ――――

放課後

「残って仕事をしていく」と嘘をつき3人が帰宅した後、事の密告をしてくれた学生立会いのもと、Tのロッカーへ向かった。

≪個人のプライバシー侵害≫になるとわかってはいた  ごめんなさい 見逃してください。

鍵のかかったロッカーに研究室で保管しているスペアキーを差し込む

―――――コン! ガサガサガサ――――――・・・・・・

小さくてもハッキリ聞こえる小動物の気配。

木製の扉を開けた中には 数冊の教材と手提げ袋とくしゃくしゃの衣類。

ロッカーの正面には粗末な拡大コピーをされたSさんの写真が貼り付けられている。

そして

ロッカーの大部分を占めるように置かれた小さな水槽。

中には突然の光に驚いて走り回る2匹のハムスター。

2匹の毛並みは悪く、無造作に山盛りになった餌とボロボロの敷紙が面倒の不行き届きを物語っている。

「・・・・・そのハムスターさ・・・・・・・アイツとSさんの名前ついてるんだ

アイツが『交尾したら子供できるんだよ 楽しみだ』って・・・・・

・・・・・・・・でも、そいつら・・・・・全然家に連れて帰ってもらってないみたいだし・・・・・何匹かは・・・・死んじゃったみたいでさ。

今居るそいつら、何匹めか・・・・・・わかんないんだよ」

猛烈な吐き気。

とても立っていられなくて 近くにあったゴミ箱の上に座ったままハムスターを眺めていた・・・・・・・。

どうやらTがロッカーでハムスターを飼って(?)いることは何人かに知られていたようだったが、2匹の名前と飼われている目的は彼と、もう一人しか知らないだろう、と。

その場で彼に【もう一人】に電話をかけてもらい、携帯越しに『絶対に他言するな』と伝え、明日一番でSさんを説得するハラを決めた。

幸い、手紙対応は功を奏して上記の結果を得られたわけだ。

Tの休んでいる時に再びこっそりロッカーを開けてみたが、あの時の水槽はもうなかった。

もちろんSさんのコピーも。

気になって 事情を知る2人の学生に協力してもらい それとなく探りをいれてもらったところ

「人に譲った」

とかえってきたらしい。

真相はわからない。

不幸な目にあっていない事を祈るしかできなかった。

いまでもロッカーの件は当時の同僚3人には話していない。

言えないですよ。   こればっかりは。

あの出来事は今思い出しても体が底冷えしそうな感覚をおぼえる。

無意識の緊張だろう

この話をPCに打ち込む指が妙に冷たい。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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