中編3
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雪降る町の貴方

夕方から降り始めた雪は夜半になって小降りになったものの、もうかなり積もっていた。

たとえ繁華街であっても、雪国の夜は暗い。

街を歩く人の数も、多くはない。

貴方の姿を見つけたのは、そんなときだった。

暖かそうなコートを肩にはおり、その下に見える漆黒のスーツがとても男らしい。

金色に輝く髪をなびかせ、道行く人に声をかけながら歩くその姿。

長髪のせいで顔は見えにくいが、私の目に狂いはない。

私は、貴方の後を追った。

あれは、貴方だ。

ずっと捜していた、私の理想の人・・・運命の男性・・・

今まで、何人も間違えたけれど、今度こそ間違いない。

脇道に折れた貴方を追って、私も足早に脇道に入った。

貴方のすぐ後ろまで近づいたとき、私は思いきって声をかけた。

「・・・あの・・・」

貴方が振り向いた。

「さっきから俺についてきてるけど、なんか用?」

貴方は言った。

声をかけてはみたものの、私は次の言葉が言えないでいた。

貴方に会えたことの、喜びと緊張がそうさせているのだ。

男性とは思えないくらい美しくて、でも凛々しくて、誠実な、貴方。

私を見る貴方の口元が、ふっとゆるんだ。

「ああ・・・それとも、遊びたいのかな? 俺と?」

遊ぶ・・・?

「ハハハ、なんだ、そうか・・・けど俺は直はやってないし、ここじゃなんだから店においでよ。値段は1時間でこんなもんだけど?」

貴方は腕を上げ、指を3本出した。

「あの、それって、どういう・・・」

私は、ようやくそれだけを言った。

貴方の言葉の意味が分からなかった。

「なんだよぉ、客じゃねぇのかぁ? だったらちんたら追っかけ回すのやめてくんないかな。

こっちも商売なもんでね。お前みたいな田舎くさいキモブスババァの相手してる暇ないし。」

「どうして・・・そんなことを貴方のような人が言うの・・・」

「何わけわかんないこと言ってんだ?。あんた、頭おっかしいんじゃないの?マ○○ス臭いババァは、さっさと家帰って、あそこのくもの巣払いでもしてろや!」

貴方は嘲笑った。

やっと気づいた。

私はまた間違えてしまったらしい。

また、改めて貴方を捜さなければならない。

でも、その前に、貴方と偽って私をだまそうとした、この薄汚い生き物をなんとかしなければ。

私はポケットから手を出した。

薄汚い男と思われる生き物は、私の持っている物に目をやって、言った。

「何だよ、その金づち。何しようってんだよ」

「これは『ゲンノウ』と言います」

私は目の前の男の間違いを正してやった。

「あ・・・あ、あ」

男が突然奇妙な声を上げた。

「こ、このあたりで人を殴り殺して回ってる殺人鬼って、まさか・・・あんた・・・」

ごすっ

ごすっ

ごすっ

ごすっ

ごすっ

ごすっ

ごすっ

ごすっ

ごすっ

私の大切なゲンノウが、またベタベタになってしまった。

足元の男を見下ろし、私は不思議に思っていた。

・・・どうしてこんな男を、貴方と間違えたんだろう?

だって、全然似ていないじゃない。

貴方は、こんな風に眼球が飛び出したりしていないし。

貴方は、こんな風に顔がデコボコじゃないし。

貴方は、こんな風に頭が割れて何かがはみ出したりしていないし。

私はため息をついて、大切なゲンノウをポケットに収めた。

・・・どこに行けば・・・いつになれば貴方に会えるのだろう。

私はとぼとぼと脇道を出た。

脇道から出た私の目の前を、何かが横切った。

貴方だ!

あの後ろ姿。間違いない。

私は、貴方の後を追って行った。

雪が、また激しく降り始めた。

怖い話投稿:ホラーテラー 彩子さん  

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