帰り道である。
いつもの時間の電車に身を委ね、いつものように眠りに落ちた。
片道2時間で会社に通う私にとって、通勤電車の時間は貴重な睡眠時間なのだ。朝も早起きなかわり、とにかく電車のなかでは眠ることにしている。
「T駅、T駅です。お出口、左側です」
車内アナウンスである。
いつもの事だ。
私は何故かいつもこの駅で目が覚めてしまう。
そしていつも、そこで同じ女性が車両に乗り込んで来るのを見る。
目があう。
そして、彼女は正面の席に座って、バッグを膝の上にのせる。
いつも同じなのだ。
この流れが、いつも、いつも、いつも、
全く同じように繰り返される。
不思議である。
そして、私はまた、目を閉じて眠りにつく。
これを繰り返す。
そして今日も、彼女は電車に乗り込んできた。
目があう。
彼女は正面の席に座って、バッグを膝の上においた。
そこまでは
しかし、今日は彼女の動きがいつもと違う。
彼女は一度周囲を見渡し、それが済むと私をじっと見つめるのだった。
めずらしいことだが、今日この車両の乗客は、私と彼女の2人きりだった。
それを確かめて、彼女は正面から私に話しかけてきた。
「いつもこの電車にのっていますね」
「えぇ、会社は10時までしか残業できないので、この電車が都合良いんです」
「あなたはいつもどこまで乗って行くのですが?」
「終点のH駅までです」
「そうですか」
いったん話が途切れたが、彼女はまた話かけてくる。
「3か月程前、この電車は人身事故をおこしています。ご存じですか?」
その問いかけについて考えてみた。
「いいえ、知りません」
心当たりがない。
「そうですか・・・でも」
「え?」
「大変言い辛いのですが・・・その事故で亡くなったのは、多分あなたですよ」
ぞっとする。
立ち上がり、振り返る
ガラス窓は車内の光を反射して、鏡のように車内の様子を映し出している。
だが、そこには彼女1人の姿が映るのみで、私の姿は無いのだった。
怖い話投稿:ホラーテラー コニーテールさん
作者怖話