中編4
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エレベーターの男

父の転勤で海外に長らく海外に住んでいましたが、8年前に日本に帰国しました。

予定よりも早い帰国だった為、持ち家はまだ人に貸す契約が残っていて私達が住むことができませんでした。

取り合えずということで、私が5歳まで住んでいた社宅(会社が安く提供してくれる借家)に住むことになりました。

しかしどうにも狭すぎたため、大学入学をひかえた私は社宅の近くで1人暮らしさせてもらえることになりました。

1人暮らしといっても家族はすぐ近くの社宅にいるので、洗濯物は社宅に持ち込み、飯も大半は社宅で食べるといった感じでした。

そんなこんなで1ヶ月が過ぎ、帰国後初めての夏がきました。

時刻は20時くらいでした。私はいつものように夕飯を食べる目的で社宅に行きました。

家族がいるのは社宅の8階です。当たり前ですがエレベーターで行くことになります。

いつも明るいはずの一階のエレベーターホールは真っ暗でした。

ホールの奥のほうは、既に1階に止まっていたエレベーターの明かりでボンヤリ照らされています。

「電灯が切れたのかな…」

そんなことを思いつつもエレベーターがあるほうに向かった…その時でした…

ガコン

ボタンを押してないのにエレベーターの扉が勝手に開いたのです。

私は一瞬「え!?」と思い立ち止まりました。

暫く硬直してしまったものの、「まぁいいか…」と首をかしげつつエレベーターに乗り込みました。

「……?」

8階のボタンを押そうとしたところ、既に最上階の12階が押されていることに気づきました。

「あ〜なんかヤバイかも」。霊感など全くないと思っていた私もさすがに少し怖くなりました。

エレベーターの仕様を考えると何かとおかしいのは明らかでした。

しかし、私の決断はそのままエレベーターに乗り続けることでした。

「ヤバイかも」とは思いましたが、あくまで「かも」でしかなく「このままこれに乗っていてはいけない!」などという勘は働きませんでした。

またまた「まぁいいか」とそのまま乗り続けることにしたのです。

普通に扉が閉まり、エレベーターは昇っていきます。

2階…3階…4階…

特に何も起きません。

そのまま8階に着いてしまいました。

心のどこかて心霊めいた体験を期待していた節があったのか、何事もなかったことに少しガッカリしつつもエレベーターを降りようとしました。

「うおおっ!?」

私はあるものを見て、降りようとしたエレベーターに振り返りました。

そこには誰もいませんでした。

しかし確かに見えたのです。

エレベーターを降りたすぐ目の前にガラス窓があるのですが、そこに中年の男が映っていたのです。エレベーターの中…私の後ろに…

「うほほほ」

怖すぎて、私は引きつった顔で半笑いを浮かべながら、妙な笑い声をあげつつすぐに家族が住む部屋に駆け込みました。

暫くそのことを口には出せなかったものの、夕飯を食べてようやく気持ちが落ち着いてきたこともあり、食器を洗っていた母にエレベーターで起こったことを話しました。

幽霊が出るとか、そんな噂がこの社宅にないかを聞きたくなったのです。

終わりまで黙って私の話を聞いていた母は「そういえば…このくらいの時期の、このくらいの時間だったかしらねぇ…」とおもむろに語り始めました。

「何の話だ?」と思いつつも私も黙って母の話に耳を傾けました。

「あなたが5歳の時、丁度ここを引っ越す前くらいにね、私とあなたとでエレベーターに乗ったのよ。

丁度このくらいの時期のこのくらいの時間だったわ。

私達よりも先に1人の男の人が乗っていたの。

全く見かけない人だったから、少し警戒しつつも挨拶したのね。

でもその人まったく反応しなくて益々なんか怖いな〜って私は思ってたの。

しかも押してるボタンが最上階なの。なんか嫌な予感がするわよね。

それなのに5歳のあなたが、ずっとその男の人を見てるのよ。

しかもエレベーターが動きだしたら、その男の人もあなたのことを見つめだして…

8階(当時も8階に住んでいた)に着く直前にね、あなたが私の方に向き直ってこう言ったの。

「このオジサン危ないよ!」って。

そりゃもうビックリしたわよ。子供ってたまにこういう変なこと言うのよね。

私は慌てて「スミマセン!」って頭をさげつつ、あなたの手をひっぱってエレベーターを降りたわ。

次の日に分かったんだけどね。その男の人、最上階から飛び降り自殺したの。

この社宅、この辺りで唯一の高い建物じゃない?結構自殺が多いらしいのよ。

あなたが見たかも知れない男の人ってその人かもね…」

言われるまでもなかった。

私はその日、階段を降りて帰りました。

特にその後何か変わったことがあったということはありませんが、私が唯一体験した心霊の類と思われる恐怖です。

怖い話投稿:ホラーテラー Ssさん  

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