長編8
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私生活の顔

●人間の怖い話です

●やや長文です お暇な方のみ任意で

●ただの思い出話とも言えます

●「もういいよ」な方はスルーで

ご了承のうえ どうぞ。

(元)大学助手です。

大学においての学生の人間的個人情報は結構 謎。

小・中・高のように勉強意外の校外学習や外泊行事なども無く、クラス教室のように何も無い時間を過ごす「巣」のような場所が限定されているわけでもない。

授業さえ終われば散り散りバラバラになり、正直、空き時間になにをしているのか全く謎な学生がほとんど。

そのためか、ふいに知ってしまった本音の姿は、けっこう我々を驚かせる。

本来ならば、隠しておくべき顔を覗かせてしまった子は特に。

ある日「もう無人だろうから施錠するか」と鍵をかけにいった教室。

照明も消えて薄暗い教室の中に、普段おとなしい印象だった男子学生がひとり、黙々とイスに覆いかぶさるようにして座面を舐めまわしている姿を発見。

幸いむこうには気付かれなかったので、見ないふりして逃げた。

お陰で教室施錠のため構内をまわるときは鍵の束をジャラジャラ鳴らしながら「助手接近中」をアピールして廊下を歩くクセがつきましたよ。

熊よけの鈴状態ですね。

話が逸れたが、それだけ大学事務員にとって彼らの「人間的な部分」は実に掴み辛いのだ。

そんな彼らの「本当の姿」を知る貴重な場所のひとつに【ロッカー】がある。

大学は持ち物規制がないためか、大学生活に関わるものだけでなくプライベートな物を持ち込むことが多いので、ロッカーはかなりの高確率で【秘密の詰まった個人の場所】になる。

無論、我々がロッカーのスペアキーを管理する立場でも彼らのロッカーをチェックする訳ではありません。

汚したり壊したりせず、ごく普通に使うぶんには我々も別に中に何を入れようがどうでもいいのです。

しかし、彼らの【秘密箱】を開ける事態になるのは特例として2種類。

1つめは「開けざるを得ない場合」。

(※以前の投稿でも触れたような事態は特例中の特例なので、あの一回きり)

内容としては、ロッカーの鍵を紛失した場合に開けてやることと、連休明けにロッカーから食べものの腐敗臭がしたり、中にしまっていた飲み物がこぼれるなどして下段使用の生徒から緊急要請があがるなどの場合がほとんど。

2つめは「卒業シーズン」。

卒業生の使用していたロッカーは当然、次に入学してくる新入生が使用するので、卒業生は学校を去る前に荷物を撤去しロッカーを空にしていく決まり。

しかし、春休みに入り卒業生が大学へ来なくなってもなおロッカーの荷物が居残っている場合は、我々助手がロッカーを開けて中身を掃除するのだ。

2月末くらいから【ロッカーの中身は全て持ち帰ること】という御達しを出す。

これが、なぜか皆言うことを聞かないのだ。

再三の注意をしても春休みを迎えたロッカーに荷物が詰まったままになる学生は2割近くになる。

ここまで来た場合は強制的にロッカーの中身をダンボールに詰めて実家に着払い配送させてもらう習わしとなっていた。

※親に了承をとることは忘れない。

【秘密箱】を開けた際に出てくる『プライベートの欠片』とご対面になるわけだ。

地味な印象だった学生のロッカーから出てきた大量のホモ漫画とホモアニメDVD。

学内に彼女がいる学生のロッカーから発見した「浮気物証」の数々。

いつから放置しているのか、臭いすらしなくなった弁当箱。 振ると中からカラコロと食物にあるまじき硬い音がした

なぜか男子学生のロッカーから女性下着(※←剥き身で)。

よくも まぁ こんなものを他所に放置しておけるものだと思う。

ロッカー内の私物が語る学生たちのプライベートは、我々を笑かしたり、気まずくさせてくれるものがほとんどだが、過去に1度、ゾワリとさせる荷物を発見した。

ある年の春休み。

恒例のロッカー大掃除。

ダンボールへの詰め込み作業は助手1人1人がバラバラに荷物の残っているロッカーを「担当」するかたちで行った。

長い廊下にずらりと並んだロッカーの前。

自分とその他3人の助手との距離は少し離れてしまうものの、会話や視界は届く距離なので、面白い発見があると互いに報告し合って意見交換しながら作業していた。

今 思い返すと・・・仕事とはいえ、ちょっと悪趣味なことしてますね。

順調に詰め込み作業をこなす中、助手の一人のNさんから「うわっっ!!!」と悲鳴があがった。

(ゴキ様でも出たか?)

「Nさ~ん なに?   ゴキ? エロ本?(笑)」

話しかけるとNさんが必死に両手で『こっち来て!』のジェスチャー。

(なんだ?)と我々もNさんの片していたロッカーを覗く。

中身を確認すると同時に鼻をつく粉っぽい錆臭さ。

正直ちょっとオエッときた。

ロッカーの中には黒い紙袋が横倒しになり、口がこちらを向いている。

その中にはコンビニ袋のような白いビニール袋。

さらにその中からビニールのようなゴムのような、手のひらよりやや大きいくらいののっぺりした袋がのぞいている。

袋の端はカッターで切ったようにサックリ切り開けられている。

中身はほとんど無いが、袋の内側と外側にこびりついていたのは、もはや乾燥しすぎてパリパリにひきつった『血』だった。

血といっても、色は乾燥のためもはや見る影もないが、ビニールにうっすら透けるような黒茶色と、なにより・・・・この臭い。

春休み中で静かな構内に大絶叫があと3人分響いた。

その後、各々シャツの襟口やエプロンで鼻をガードしつつ、トイレットペーパーや定規を駆使して袋をひっぱり出してみた。

出してみてやっとわかったが、袋は病院の点滴や輸血でよく見る「あのパック袋」に似ていた。

しかし、普通 あれを一般人が持っているわけない。

さらに黒紙袋をひっくり返すと小さなポケットアルバムが出てきた。

定規を使って中身を拝見。

中に写っていたのは問題のロッカーを使っていた女子学生。

薄暗い室内。

裸に近い格好の数人の男性に囲まれるようにして膝立ちで踊る彼女の姿。

彼女の手には「あの袋」。

彼女は袋の中身を頭から浴びたのか 全身、真っ赤だった。

一瞬、頭から大量出血しているように見えて全員で「ギャッ!!」と叫んでしまった。

しかし「頭がかち割れる大怪我をしていたならば、つい先日まで元気に登校していた彼女は?」

と、なり 全員が「まさかね~」と思いたい気持ちも手伝ってその説は消えた。

さらに異様なのは彼女のいでたち。

服装がギラギラのボンテージ・ファッションなのだ。

4人の連帯感で勇気を振り絞り、残りの写真も確認してみる。

彼女は全身血まみれのまま満面の笑顔で、同じく血まみれの半裸男性とカラんでいる。

「「「・・・・・・・・・・・・。」」」

「なんだろ  これ?」

「「「・・・・・・・・・・さぁ?」」」

「どうする? これ(実家に送っていいと思う?)」

「いや ヤバイでしょ?」

「「「ですよねぇ~・・・」」」

不思議と写真の謎を解くより、この荷物を彼女の実家に送るか否かを真剣に話し合った。

当然、実家に送ることは見送りに。

かといって、ロッカーの中に残されていた荷物はそのほかにもいくつかある。 一応、人様の個人財産。 勝手に捨てる訳にもいかない。

仕方なく研究室から彼女の携帯に連絡をし、ロッカーの中身を見てしまった旨を話したうえで「引取りに来てほしい」と伝えることに。

あんな状態の私物を見られたわりには電話の向こうの彼女は至ってあっけらかんとしたもので、電話口から漏れ聞こえるケラケラした笑い声に拍子抜けさせられた。

その日の夕方に荷物を受け取りにきた彼女は変わらないケラケラ笑いのまま「ごめんなさい~」と詫びてきた。

驚かせた詫びのつもりなのかは知らないが、荷物についての詳細を自分から話してくれた。

「ごめんねぇ~ 助手さん♪ そういや、持って帰んの億劫で置きっぱなしにしちゃったんだよね」

(億劫・・・って、「見られたくない」って気持ちは無いのか)

「悪りぃ。 写真も見ちゃったから・・・」

「あ~! 全然OK!! ってか、実家送られてたらウチ 親に殺されるし(笑)」

(実家に送られるの嫌ならサッサと持って帰ればよかっただろう)

「あれってなに?  ってか、血・・・だよね?」

「うん♪ そーゆープレイ♪  流血プレイ? 自分の血だから安心して♪」

(自分のだろうと、他人のだろうと安心って問題じゃない)

「いや、自分だからってハナシではなくて・・・・ プレイってことは・・・プレイ?」

「うん バイト♪」

ついていけません。

彼女の話をまとめると、彼女は在学3年の頃からSM系イベントの出演で食い扶持を稼いでいるらしく、彼女の源氏名もある地域(※伏せます)ではそこそこ通るくらいの地位を築いたそう。

そんな彼女のファンだという客から入った流血パフォーマンスの依頼。

通常のイベントより割高に稼げる話を彼女は快諾。

血を使ったプレイというのは意外なほど需要があるため、このような医療系の使用目的以外で採血をしてくれる人間(一応医療関係者らしい)がいるとのこと。

採血がそんなお手軽扱いされていることだけでも眩暈モノだが、血液プレイってなんだ。

彼女の話では「真の血液マニア」はあちらの世界でもコアな部類に入るらしい。

彼らは「血を見るのが好き」なのではなく「血液そのものに興奮する」ので、一般的なサディストが傷から出血するのを喜ぶソレと一緒にされると憤慨するそうだ。

もちろん「血液マニア」の中には上記のような血を見ることが好きな人もいるそうだが、彼らに言わせればそっちはむしろ邪道なんだそう。

「真の血液マニア」は紳士・淑女なのだそうです。

・・・・。

プレイに金がかかるため、彼女の見かけた「血液マニア」はみな一貫して『いい歳』らしい。

血のにおいを好む人もいれば、味を好む人もいる。 色や質感にもこだわりがあり、彼女も今回のプレイ用の採血をされる前に客のオゴリで血液洗浄(機械を通して血液に酸素だかを含ませることで疲労回復などをするやつ)を受けたそうだ。

客いわく、色はそれほど変わらないらしいが、味がよくなるらしい。

「結構いい値段だったみたいみたい♪ 血ぃ取られた後なのに、次の日めっちゃ体調よかったんだよね」

ほくほく顔で語る彼女に反して我々は全員ゲンナリ顔。

自分、ホラーは好きです。

でも・・・スプラッタはちょっと勘弁です。

なにはともあれ、無事に荷物達は持ち主の元に引き取られた。

彼女を見送る際、なに気なく交わす会話。

「いや~・・・私たちにはついていけないわ

 なんか、

 フェチってすごいね・・・・」

いまの正直な感想を彼女にこぼすと

陽気なテンションを崩さなかった彼女は突然真剣な顔になり、ちょっと怒気をはらんだような声で一言。

「助手さん!!  変態の世界ナメちゃだめだよ!!!!」

その場にいた全員で 吹いた。

最近はどんな『プライベートの欠片』が発見されているのか気になる。

怖い話投稿:ホラーテラー 匿名さん  

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