中編6
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狐の独り言

自分の森に逃げ帰った灰色の狐は、また一人ぼっちでした。 

狐はあの森がとても懐かしくなりました。

応援してくれた動物たちがたくさんいたのを思い出したのです。

 

「蜥蜴君にも黙って出てきちゃったな」 

自分のことをおそらく一番理解してくれていたであろう、

蜥蜴のことを考えていました。 

「ここにゃ、耳の肥えた奴が多いからな。 

 話を聞いてほしけりゃ内容もそうだが、言い回しとか流れとか

 勢いとかいろいろ考えないと厳しいぞ。 

 『耳の肥えた』ってのは間違ってるかもしれんが、 

 それが一番伝わりやすいってんなら使うんだよ。 

 それがおかしいって気づかせない位の話をすりゃいいんだよ。

 ま、もうちっと勉強して頑張るんだな。 

 俺は嫌いじゃないぜ、お前の話」 

蜥蜴君は親身になってアドバイスしてくれていました。 

他にも、かえる君やガッツさん・雀さん・わんこさんもいました。 

なんとかイーンさんって読めない名前の人さえいました。 

「匿名さんが一番多かったな。みんな親戚かな?」 

世間知らずの狐は月極駐車場並みの勘違いにも気づいていませんでしたが、

そんなことはもう関係ありません。 

たくさんの人たちが励ましてくれたことも思い出しました。

あの憧れだった鴨さんまでも、暖かい言葉をかけてくれていたのです。 

「他にも話をする森はたくさんあるが、みんなこの森に集まってくるのさ。 

 好きなんだよ、この森が。 口は悪いが皆いい奴ばっかだろ?」 

「そうだ。僕はみんなに苛められたわけじゃない。みんな応援してくれてたんだ。

 『もっと、怖い話や面白い話を聞かせてくれ』って言ってただけなんだ」  

狐は「もう一度だけ話をしよう」と決めました。 

今度は銀色の毛皮を脱いで、灰色の狐のありのままの自分をさらけ出そう。 

でも、みんな本当の自分を受け入れてくれるだろうか?

本当の、灰色の狐の心の中を知りたいのだろうか?

「知りたいか? それを知るには勇気がいるぞ・・・」

森の入り口の看板に書いてあった言葉が頭をよぎりました。

「知らせるにも勇気がいるな」  

狐は覚悟を決めました。 

灰色の狐は、森の広場にやってきました。 

まだ誰もいません。 

辛口のコメントが怖かった狐は、ほっとする気持ちとみんなに会えない寂しさの入り混じった

不思議な気持ちで話し始めました。 

つい先日のことなんだけどね。

仕事帰りに駅から出たところで高校時代の友達に会ったんだよ。 

会うのは卒業式以来で、顔もおっさんになってたけど懐かしくてね。

「ちょっと飲みながら話そうや」ってことになったんだよ。  

で、居酒屋探したんだけど、田舎なんで  

店もあんまりないし、チェーン店とかもないんだよ。 

それに普段飲みにいくのは会社の連中とばっかりなんで、

会社の近くにある店しか知らないんだ。  

そいつも同様でさ。  

適当に駅の近くの居酒屋に入ったんだよ。  

カウンターがあって、テーブルが5つくらいのこじんまりとした普通の居酒屋。  

2つくらいテーブルで飲んでるグループがあったんだけど  

俺らもテーブルに座って、とりあえず生と焼き鳥を適当に注文したんだよ。 

で、2杯目の生を注文するときに焼き鳥がきてね、バラとかつくねとか。 

20本くらい頼んでたから、大き目の皿に乗ってね。  

俺、焼き鳥には一味をかけて食べるのが好きなんだよ。  

友達に聞いたら「俺も辛いの好きだ」って言うから、

大皿に乗った焼き鳥に直接かけたんだよ。  

ほら、居酒屋とかって一味なんかをちっちゃなひょうたん型やたる型の 

入れ物に入れてるところあるでしょ?

その店もたる型の一味入れだったんだけど、  

友達の方見て、話しながらかけたんだよ。  

目の端に焼き鳥の皿を見ながら。   

そしたらドバーッて出て、「しまった」って焼き鳥見たら  

一味の粒々がテーブルに飛び散ってんだけど、

その一粒一粒が四方八方にさささーって。

「ん?」って見たら、ちっちゃな虫。1mmちょっとくらいの。   

それが何匹も。  

テーブルの上の虫は、あっと言う間にテーブルの下に逃げたんだけど  

焼き鳥見たらいるのよ。  ちっちゃな虫が。  

豚バラに浮いた油とかキャベツのタレにつかまって溺れそうになってもがいてんのよ。  

よくよく見ると、背中が白と茶色の縞々で。  

子ゴキブリ!   それも軍団!  

何匹かは焼き鳥の陰に隠れてやがるのよ。  

さすがに俺も友達も固まっちゃって。  ほんの1~秒なんだけど。  

で、手がさわさわって。  

見たら一味入れから、まだ出てきてんのよ。   

子ゴキブリ軍団が!   ゾロゾロって。   

俺の手に移ってんのよ。すでに。  

何匹かはワイシャツの袖口から入ってきてんのよ。登ってきてんのよ。俺の腕を! 

うっぎゃ~って叫んで、一味入れ放り投げて、腕をぶるんぶるん振って。

他の客グループもびっくりしたと思うよ。  

だって、いい年したおっさんサラリーマンがおとなしく飲んでたと思ったら、

急に叫んで立ち上がって腕ぶるんぶるんしてんだもん。   

店の人も飛んできたんだけど、俺はぎゃ~ぎゃ~いいながら腕ぶるんぶるんで話せないし、

連れも「あ~あ~」いいながら、転がった一味入れとキャベツのタレにつかまった

子ゴキブリを 「これが、これから、これ、これ」って指差すだけだもん。  

店の人もしばらく事情が解んなかったみたいだけど、ようやく理解して  

「すいませんっ。すいませんっ」   

俺やっと落ち着いて涙目のまま、ほっとしたとたん 

別の客グループから 「ぎゃ~っ」   

俺らの様子を見てて、ためしに自分のテーブルの一味入れ取ったら 

そこからも出てきたみたい。  

お店の人はひたすら平謝りで、

「お代は結構ですから、すぐ作り直しますから」って。  

無理です。今日は食べれません。背中がぞんぞんするんです。 

ゾクゾクじゃないんです。 ぞんぞんです。 

その日はそのまま別れました。   

日を置いて、別の店でってことで。  

そりゃあ、親ゴキブリの迫力には負けますが 

子ゴキブリも侮れません。軍団なら特に。   

狐は一気にしゃべりました。  

森の皆はまだ出てきていません。  

皆には聞こえただろうか?   

届いてほしいと大きな声でしゃべったんだけど。   

狐は自分の森に向かって歩き出しました。  

でも、気分はすっきりしています。  

偽りの無い自分の本当の姿をさらしたんだから。    

皆に挨拶できなかったのは心残りだけど。  

狐は広場の真ん中に手紙を置いていきました。  

その手紙にはこう書かれていました。   

「テラホラの森の皆さんへ   

 

 短い間だったけど、ありがとうございました。  

 とても楽しい時間でした。   

 

 僕は自分が銀色の立派な狼だと勘違いして、背伸びした話をしていました。  

 でも、皆さんのおかげで本当の自分の姿を思い出しました。  

 僕は一旦、自分の森に帰ります。   

 そして、もっと勉強します。   

 打たれ弱い、臆病な性格を治します。  

 姿は灰色の狐のままで、銀色の狼にはなれないかもしれないけど  

 もうちょっと強くなって、もっとおもしろい話ができたら 

 

 また、遊びにきてもいいですか?  

 その時は、僕の話を聞いてくれますか?

 暖かく迎えてくれますか?  

 辛口のコメントをしてくれますか?  

 他にも話ができる森があるそうですが、  

 新しい話ができたら、またホラテラの森に来ます。  

 だって、ホラテラの森が好きだから。  

 ホラテラの森のみんなが好きだから。  

               灰色の狐より      」

怖い話投稿:ホラーテラー 灰色の狐さん  

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